2025年10月18日更新.2,655記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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説明不足が引き起こすインシデント― 薬局現場でのヒヤリ・ハット

説明不足が引き起こすインシデント

薬局業務において「説明不足」が原因で起こるインシデント(ヒヤリ・ハット)は少なくありません。薬剤師は処方監査や調剤の正確さに意識を集中しがちですが、実際に患者が服薬を誤る原因の多くは「伝えたはずなのに伝わっていなかった」ケースです。
「薬剤師は悪くない」「患者側が誤った」という見方もできますが、インシデント報告やクレームに発展したときには「もっと丁寧に説明すべきだったのでは?」という評価につながりやすいのも現実です。

薬の外観が変わったときの混乱

先発品からジェネリックへの切り替え
代表的なのが「薬の見た目の変化」です。例えば、今まで白くて小さな錠剤を飲んでいた患者が、ジェネリックに変更されたことでピンク色で大きめの錠剤を受け取った場合、「薬を間違えられた」と強く疑うケースがあります。
薬剤師が「成分は同じです」と説明したつもりでも、患者が「見た目で薬を識別する」習慣を持っていれば納得できず、不安や不信感を抱きます。結果として服薬中断やクレームにつながることもあります。

包装デザインの変更
同じメーカーの同じ薬でも、包装がリニューアルされることがあります。例えばPTPシートの色が変わっただけでも、「今までと違う薬を渡された」と誤解されることがあります。製薬会社は安全性や視認性を考えてデザインを変更しているのですが、患者に事前に伝えなければ逆効果となる場合も少なくありません。

錠数変更による過量服用

強度切り替えでのトラブル
「5mg錠を2錠 → 10mg錠を1錠」といった変更も典型的なヒヤリ・ハットの要因です。
薬剤師が「錠数が減った」と説明しても、高齢者にとっては「薬は前と同じように2錠飲むもの」という思い込みが強く残ります。その結果、10mg錠を2錠飲んでしまい、過量投与となる危険があります。

患者の思考パターン
高齢患者の中には「薬の数が減った=効き目が弱くなった」と解釈する方もいます。特に「錠数=薬の強さ」と直感的に捉える傾向があり、剤形の切り替えは必ず強調した説明が必要です。

剤形の変更による誤解

錠剤から粉薬・液剤へ
嚥下困難などで錠剤から散剤へ変更した場合、「量が多く見える」「苦い」といった理由で自己中断されるケースがあります。粉薬は視覚的なインパクトが大きく、「飲む量が増えた」と誤解されやすいのです。
また、シロップ剤に変更した場合でも、「甘い=子供用の薬で効かない」と思い込む患者もいます。

服薬時間の変更

服薬時間の変更も説明不足でトラブルになりやすい項目です。
例えば、降圧薬を「朝食後」から「夕食後」に切り替えた場合、患者が従来通り朝に服薬を続けてしまうことがあります。長年の習慣は強く残っており、説明を受けても行動に反映されないことが多いのです。

対策としては、お薬手帳や薬袋に大きく赤字で「夕食後に変更」と記載する、服薬カレンダーを活用するなど視覚的なサポートが有効です。

頓服薬の誤用

頓服薬の使用方法は特に誤解されやすいです。
「熱が出たら1回1錠」と説明しても、患者が「毎食後飲む薬」と思い込み、解熱剤を連日服用してしまう事例はよくあります。
また、下剤を「便秘のときに使用」と指導しても、「毎晩寝る前に飲む薬」と習慣化してしまい、下痢や電解質異常につながることもあります。

外用薬の誤使用

点眼薬や外用薬も説明不足で誤用が頻発します。

・点眼薬:両眼に使用するのか片眼だけなのか伝わっておらず、必要以上に早く使い切る。
・外用薬:ステロイド外用薬を「顔には塗らないでください」と説明したら、「顔以外は全身に塗って良い」と誤解して全身に塗布。
・貼付剤:「24時間貼る」と説明したが、患者が「毎食後貼り替える」と誤解して過量使用。

複数の医療機関・薬局での情報齟齬

病院で薬が減量されたのに、薬局で「前と同じですね」と声をかけてしまったため、患者が「薬局で確認された=以前と同じ」と誤解するケースもあります。
このように、説明内容の一貫性がないと患者は混乱し、信頼関係の低下やクレームにつながります。

お薬手帳の記載不足

薬歴やお薬手帳に変更点を明確に記録していないと、次回以降の説明がぶれてしまうことがあります。
患者からすれば「前回と違うことを言われた」と受け止められ、不信感を抱かれる原因になります。

「説明した」と「理解した」のギャップ

薬剤師側は「きちんと説明した」と考えていても、患者が必ずしも理解しているとは限りません。特に高齢患者は聴覚障害や認知機能低下があり、説明の半分も伝わっていないことが多いのです。
「説明した」=「理解した」ではない、という前提を持つことが大切です。

再発防止の工夫

・言葉だけでなく視覚情報を活用する:大きな文字、イラスト、色分け。
・繰り返し伝える:同じ説明を何度も繰り返す。
・患者に復唱してもらう:「今日は何錠飲むことになりましたか?」と確認。
・お薬手帳やシールで補足:薬袋や日付カレンダーを活用。
・家族や介護者への情報共有:高齢者には必須。

おわりに

「説明不足によるインシデント」は、薬剤師にとって「自分は悪くない」と思えるケースが多いものの、実際には患者側の理解力や生活習慣を前提に考えなければ再発は防げません。
医療安全の観点からは「どこまで説明したか」ではなく「患者が理解し、正しく行動できる状態になったか」が最も重要です。

説明不足によるインシデントを減らすためには、薬剤師が「伝える」ことに加え「理解させる」ことを常に意識する必要があるでしょう。

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