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TDMって実際やっているのか?
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TDM対象薬と院外処方

TDM(Therapeutic Drug Monitoring:治療薬物モニタリング)は、血中薬物濃度を測定し、そのデータに基づいて投与量を調整する治療支援の手法です。
1970年代から実臨床に導入され、現在も多くの薬剤で標準的な管理に位置づけられています。
TDM対象薬の定義や意義、院外処方の運用でどのように実施されているのか、勉強します。
TDMとは何か
TDMの目的は、「治療効果を最大化し、副作用を最小化すること」です。
薬物には個人差や併用薬、腎機能・肝機能によって血中濃度が大きく変わるものがあり、同じ用量でも治療効果や副作用に大きな差が出ます。
そのため、血中濃度を測定し、目標とする治療域に収まるように投与設計を行います。
TDMが推奨される薬の特徴
TDMの適応となる薬は、以下の条件を持つことが多いです。
・治療域が狭い(有効濃度と中毒濃度の差が小さい)
・薬物動態の個人差が大きい(代謝酵素・腎機能・体格など)
・血中濃度と薬効・毒性に明確な相関がある
・効果や副作用が臨床症状のみでは評価しにくい
代表的なTDM対象薬
以下は日本でもTDMが広く知られ、ガイドライン・添付文書で推奨される薬剤です。
TDM対象薬
・抗菌薬:バンコマイシン、アミノグリコシド
・免疫抑制薬:シクロスポリン、タクロリムス
・抗てんかん薬:フェニトイン、バルプロ酸
・抗不整脈薬:ジゴキシン
・呼吸器薬:テオフィリン
実臨床でのTDMの運用
実際にはTDMはすべての患者で一律に実施するわけではなく、以下の3つの視点で必要性を判断します。
① 治療初期の用量設計
② 維持期のモニタリング(特に長期投与)
③ 効果不十分・副作用発現時の確認
たとえばバンコマイシンは、
・腎機能障害のリスク
・AUC/MICによる治療効果の調整
から、ほぼ全例でTDMが実施されます。
タクロリムスやシクロスポリン(移植患者)も、免疫抑制の管理上必須です。
一方で、テオフィリンやバルプロ酸は、
・患者が安定している場合
・低用量で投与中
・副作用が認められない
場合、TDMを省略するケースもあります。
この運用は日本だけでなく、国際的にも共通の傾向があります。
院外処方とTDMの関係
院外処方では、TDMが行われにくい側面があるのは事実ですが、それは「TDMをしない」ではなく「採血タイミングの調整や管理の運用負担が増える」ためです。
院外処方における課題
・採血タイミングを患者任せにしにくい
→ トラフ値やC2値など、正確な時間が必要
・採血をする医療機関と処方する医療機関が異なる場合、データ共有が複雑
・検査結果のフィードバックが遅れることがある
・定期採血や腎機能モニタリングを優先することも多い
ただし、院外処方でも
・移植患者の免疫抑制薬
・入院中から継続する抗菌薬
・TDMで用量調整が必要なてんかん治療
では適宜TDMが行われています。
ガイドラインでのTDMの位置づけ
たとえば「シクロスポリン(アトピー性皮膚炎)」の場合、
・血中濃度の測定は推奨されているが必須ではなく
・腎機能・血圧モニタリングと症状評価が主に行われる
日本皮膚科学会のガイドラインも、
「血中濃度の測定は有用である」
「必要に応じて考慮する」
という表現にとどまります。
これは、移植医療のように「目標濃度を厳密に維持する必要がない」ためです。
TDMが適切に行われるべきシーン
日本医療薬学会などの資料によれば、
以下の場面では院外処方であってもTDMの必要性が高いとされています。
・腎機能障害や肝障害の進行がある
・症状が不安定(効果不十分、再燃)
・併用薬が増えた
・副作用が出現した
この場合は外来で計画的に採血を行い、必要に応じて用量を調整します。
結論
・TDMは院外処方で全く行われないわけではなく、治療リスク・目的・患者背景によって必要性を判断するものです。
・院外処方では運用上ハードルが上がるため、定期的にTDMを行うよりも症状・腎機能の経過観察を優先するケースが多いのも事実です。
・本当に必要な場面では、院外処方でも採血計画を立て、医療機関間で連携してモニタリングが実施されます。