2025年10月1日更新.2,638記事.

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アカントアメーバとコンタクトレンズ ― 失明を招く感染症

アカントアメーバとコンタクトレンズ ― 失明を招く恐ろしい感染症とその予防

日本におけるコンタクトレンズ装用者は1500万人以上とされ、視力矯正のために欠かせない存在となっています。
しかし便利さの裏には危険も潜んでおり、近年特に問題となっているのがアカントアメーバ角膜炎です。

アカントアメーバは自然界に広く存在する微生物であり、コンタクトレンズの不適切な使用をきっかけに角膜へ侵入し、激しい痛みや視力障害、最悪の場合は失明に至ることがあります。

アカントアメーバとは?

アカントアメーバ(Acanthamoeba)は土壌や水道水、プール、温泉、井戸水など自然環境に存在するアメーバの一種です。
普段は人に害を及ぼすことはありませんが、角膜に付着して感染すると「アカントアメーバ角膜炎」を引き起こします。

特徴として以下が挙げられます:
・どこにでもいる(水・土壌・埃)
・耐性が強い:シスト(休眠状態)になると消毒薬や環境変化にも強い
・感染すると治療が困難:抗菌薬や抗真菌薬が効きにくい

アカントアメーバ角膜炎の症状

感染が進行すると以下のような症状が出現します。

・強い眼の痛み(進行に比べて激烈な痛みが特徴)
・充血
・流涙や目やに
・視力低下
・まぶしさ(羞明)

症状は単なる結膜炎や角膜炎と区別しにくく、発症初期に誤診されやすい点も問題です。
治療が遅れると角膜が混濁し、角膜移植をしても視力が戻らないケースがあります。

なぜコンタクトレンズが危険なのか

レンズとアメーバの関係
アカントアメーバは水に存在するため、コンタクトレンズのケアを誤ると容易に付着・繁殖します。特に以下の習慣がリスクです。

・レンズやケースを水道水で洗う
・レンズを長時間装用する
・1日使い捨てレンズを数日使い回す
・レンズケースを清潔に保たない

酸素不足の問題
寝ている間に装用し続けると、角膜への酸素供給が不足し、角膜上皮に小さな傷ができます。そこからアカントアメーバが侵入し、感染のきっかけとなります。

コンタクトレンズの種類とリスク

コンタクトレンズには「1日使い捨て」「2週間交換」「1か月交換」「連続装用」などがあります。

1日使い捨てタイプ
 → 毎日新しいレンズを使うため清潔。感染リスクは低い。
 → しかし「もったいないから」と数日間使用すると破損や汚染のリスク大。

2週間・1か月タイプ
 → 経済的だが、毎日の洗浄・保存が必須。ケアが不十分だと感染リスク増。

連続装用タイプ
 → 外さず数日使用できるよう設計されたもの。
 → 酸素不足や感染のリスクが高く、実際には眼科医も推奨していない。

レンズケアとアカントアメーバ予防

消毒剤の種類
ソフトコンタクトレンズ用の消毒剤は主に以下の3種類があります。

・ポビドンヨードタイプ
 殺菌力が強いが、使い勝手がやや煩雑。

・過酸化水素タイプ
 高い消毒力があるが、中和が必要。誤った使用で眼障害のリスク。

・MPSタイプ(Multi Purpose Solution)
 洗浄・すすぎ・消毒・保存を一つで行える簡便なタイプ。ただし消毒力はやや弱い。

いずれも単独ではアカントアメーバを完全に殺菌できないため、「こすり洗い」や「ケースの清潔保持」が欠かせません。

正しいケア方法
・レンズの着脱前は石鹸で手洗い
・片面20~30回程度のこすり洗い
・保存液は必ず新しい液を使用(使い回し禁止)
・水道水や井戸水で洗わない
・ケースは毎日洗って乾燥、数か月ごとに交換

「1日使い捨てを数日使う」の危険性

実際に多くの人が節約目的で1日タイプを2日以上使用していると報告されています。
しかし、1日レンズは非常に薄く、こすり洗いに耐えられない設計です。
保存液につけて翌日再装用すると、雑菌やアメーバが繁殖しやすく、感染リスクが一気に高まります。

眼科医によれば、「外さずに2日装用するよりも、外して再使用する方が危険」とされています。
これは保存液だけでは汚れや微生物を十分に除去できないためです。

治療と予後

アカントアメーバ角膜炎の治療は非常に困難です。

・主に抗真菌薬やビグアニド系薬剤を使用
・点眼や内服を長期間継続する必要がある
・進行例では角膜移植が必要になる

しかし、治療しても角膜に瘢痕が残り、視力が完全に回復しない例が多いのが現実です。

予防が最も重要

アカントアメーバ角膜炎は、一度発症すると治療が困難なため、予防が何より大切です。

・1日使い捨ては必ず1日で廃棄
・2週間・1か月タイプは正しいケアを毎日行う
・レンズケースを定期的に交換
・水道水・井戸水を使わない
・異常があればすぐ眼科を受診

まとめ

アカントアメーバ角膜炎は稀な病気ですが、発症すると重症化し、若く健康な人でも失明に至る危険性があります。
特にコンタクトレンズ使用者は「自分は大丈夫」と思わず、毎日の正しいケアを徹底することが予防につながります。

今日大丈夫でも、明日も大丈夫とは限らない――これがコンタクトレンズとアカントアメーバ感染の恐ろしさです。

清潔な使用を心がけて、大切な視力を守りましょう。

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