2025年5月28日更新.2,482記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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防腐剤の入っていない目薬は安心?

目の安全と防腐剤

「防腐剤フリーの目薬だから安心」と聞いたことはありませんか?化粧品や食品で“無添加”が注目される今、目薬に関しても「防腐剤=悪」というイメージが浸透しつつあります。特にコンタクトレンズ使用者やアレルギー体質の方から、「防腐剤が入っていない方が安全」との声をよく聞きます。

果たして本当にそうなのでしょうか?

目薬に防腐剤は必要なのか?

点眼薬は無菌状態で製造されますが、開封後は空気中やまつ毛・皮膚などから細菌が混入するリスクがあります。防腐剤はこうした細菌汚染を防ぎ、目薬の安全性と品質を保つ役割を担っています。

特に、複数回使用するボトルタイプの目薬では、キャップの開け閉めや使用中の取り扱いで雑菌が混入する可能性が高く、防腐剤なしでの品質保持は困難です。

一方で、防腐剤はその性質上、目の細胞に刺激や障害を与える可能性があるため、特に長期使用や重症のドライアイ、アレルギー性結膜炎の方には注意が必要です。

代表的な防腐剤の種類とその特徴

目薬に使用される主な防腐剤には以下のようなものがあります。

成分名特徴・作用注意点
ベンザルコニウム塩化物強力な殺菌作用。最も使用頻度が高い高濃度で角膜障害や上皮剥離のリスクあり
クロロブタノールアルコール系。比較的毒性は弱い保存効果はやや弱め
パラベン(安息香酸エステル)広範囲の微生物に効果アレルギー報告があり、注意が必要
ソルビン酸ナトリウム酸性条件で効果を発揮pH依存性があり、安定性に制限あり

目薬の添加剤には防腐剤以外にも以下のような添加剤がある。

添加剤主な機能成分
等張化剤涙液の浸透圧に近づける塩化ナトリウム、塩化カリウム、ホウ酸、グリセリン
緩衝剤pHの変化を防ぐホウ酸、リン酸、酢酸
防腐剤微生物による汚染を防ぐ塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロルヘキシジングルコン酸塩、パラベン類、クロロブタノール
可溶化剤主成分を溶解させるポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
安定化剤酸化や分解などを防ぐクエン酸、エデト酸二ナトリウム(EDTA-2Na)、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム
懸濁化剤物理的安定性を保つカルボキシビニルポリマー(CVP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)
粘稠剤(増粘剤)結膜嚢内に滞留しやすくするポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、メチルセルロース(MC)、グリセリン

防腐剤が角膜に与える影響

数々の研究で、防腐剤(特にベンザルコニウム塩化物)は角膜の細胞に毒性を示し、次のような障害を引き起こす可能性があるとされています。

・びまん性表層角膜炎
・角膜びらん
・上皮剥離、遷延性上皮欠損

とはいえ、実際の点眼時には涙液により濃度が希釈されるため、1日4回程度の点眼であれば角膜への影響は少ないという見解もあります。

防腐剤入り目薬を使用する際は、疾患の性質や症状の程度、使用頻度を考慮しながら、医師や薬剤師と相談することが大切です。

防腐剤フリー点眼薬とは?

「防腐剤フリー」と表示された目薬には、次のような工夫が施されています:

・1回使い切りタイプ(ユニットドーズ):細菌汚染のリスクがない
・特殊構造のボトル:逆流防止構造や抗菌加工されたノズルなど
・防腐効果をもつ添加物(ホウ酸、緩衝剤など)

これらの工夫により、防腐剤を加えなくても一定期間の安全性を確保しています。ただし、

・開封後の使用期限が非常に短い(例:10日以内)
・製品によっては高価
・容器の扱いがやや難しい

といったデメリットもあります。

防腐剤が有効成分の浸透を助ける?

実はベンザルコニウム塩化物には、薬効成分の角膜への浸透を高める補助的な作用もあるとされています。これは界面活性剤として角膜の脂質バリアを一時的に緩め、薬の浸透を促進する効果です。

このため、緑内障治療薬などで防腐剤入り点眼液をあえて使用する医師もおり、防腐剤フリーが必ずしもベストではないということを示しています。

洗眼液の使いすぎにも要注意

「花粉を洗い流したい」「目が疲れている」と毎日洗眼液を使う人もいますが、防腐剤や界面活性剤が涙液のムチン層を洗い流してしまい、ドライアイの原因になることがあります。

また、プール後の洗眼についても、浸透圧の違う水道水で目を洗うことで角膜が障害されることが知られており、現在は推奨されていません。

ホウ酸の毒性について

防腐剤フリー製品によく含まれるホウ酸。殺菌作用があり、うがい薬や洗眼液にも使われていますが、

・乳幼児での大量摂取による中毒報告
・ゴキブリ駆除に用いられることもある

といった背景から、「毒性が高いのでは?」と不安視する声もあります。しかし、適正量を守って使用すれば、塩と同程度の毒性レベルとされており、通常の使用において心配する必要はありません。

防腐剤との賢い付き合い方

短期間の治療:防腐剤入りでOK(例えば結膜炎など)
長期的な使用:防腐剤フリーを検討(緑内障、重度ドライアイなど)
コンタクト装用時:防腐剤非含有の人工涙液が推奨されることも

症状や使用状況に応じて、医師・薬剤師が防腐剤の有無を考慮し、適切な製品選びをサポートすることが大切です。

「防腐剤フリー」と聞くと、体に優しいというイメージがありますが、防腐剤は目薬の安全性を守る上で必要不可欠な存在でもあります。

目薬の選び方においては、「防腐剤が入っているかどうか」よりも、「どのような症状に、どのくらい使うのか」を基準にすべきです。

薬剤師や医師に相談しながら、目にとって本当に安心・安全な点眼治療を選んでいきましょう。

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