2025年10月5日更新.2,642記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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わかりにくいてんかん症状 ― 見逃されやすい睡眠てんかんや欠伸発作

わかりにくいてんかん ― 見逃されやすい症状と正しい理解

「てんかん」と聞くと、一般的には「突然倒れてけいれんする病気」というイメージが強いかもしれません。泡を吹いて意識を失い、全身を硬直させてけいれんする――いわゆる強直間代発作(全般強直間代発作)は典型的な症状です。

しかし、てんかんはそれだけではありません。実際には、けいれんを伴わない発作や、ごく短時間で終わる発作も多く存在します。中には、患者本人も周囲も「てんかんだ」と気づかないまま長期間過ごしてしまうケースもあります。

「わかりにくいてんかん」に注目し、特に睡眠中に起こる発作や欠伸発作などを中心に、診断の難しさや注意点について勉強します。

てんかんとは?

てんかんは、脳の神経細胞が一時的に過剰に興奮し、繰り返し発作を起こす慢性の脳疾患です。
発作の症状は非常に多様で、
・意識消失
・全身けいれん
・局所的なけいれん
・感覚異常(匂い・音・視覚の異常)
・精神症状(不安、恐怖、幻覚)
など多岐にわたります。

このため、てんかんがあっても「気づかれない」「別の病気と間違えられる」ことが少なくありません。

睡眠てんかんとは?

睡眠中にだけ発作が起こる
「睡眠てんかん」とは、睡眠中にのみ発作が起こるてんかんを指します。
1974年に2,825人のてんかん患者を対象にした調査では、
・睡眠中のみ発作:44%
・覚醒中のみ発作:33%
・両方に発作:23%
と報告されています。

つまり、てんかん患者のおよそ半数近くが「睡眠中に発作を起こす」ということです。

発作の起こりやすい時間
・睡眠直後
・起床の1〜2時間前

この時間帯に特に発作が出やすいことが知られています。

睡眠てんかんの症状

睡眠中の発作は、必ずしも「全身けいれん」のような分かりやすいものではありません。

主な症状
・手足の大きな痙攣
・顔面のけいれん
・舌を噛む
・舌なめずり、口をもぐもぐする動作
・突然の覚醒
・寝ぼけのような「まさぐり動作」
・尿失禁
・発作後の錯乱や深い眠り

これらは睡眠障害国際分類にも「睡眠てんかんの症状」として記載されています。

子どもに多い症状
・繰り返す夜尿症(おねしょ)
・睡眠中の異常な動作

「ただの夜尿症」と思われていた症状が、実は睡眠てんかんだったという例もあります。

入眠時のジャーキングとてんかんの違い

寝入りばなに「ビクッ」と体が動くことがあります。これは入眠時ミオクローヌス(ジャーキング)と呼ばれるもので、正常な生理現象です。

・睡眠への移行期に起こる一過性の筋収縮
・しゃっくりもミオクローヌスの一種
・基本的には病気ではない

ただし、これが頻繁で異常な動作を伴う場合は「てんかんとの区別」が必要です。

欠伸発作(けっしんほっさ)

あくびとは違う「欠伸」

てんかんの一種に欠伸発作(Absence seizure)があります。「けっしん発作」と読み、あくび(欠伸)とは別物です。

症状
・数秒間、動作や会話が止まる
・目がうつろになる
・周囲からは「ぼんやりしている」「上の空」と見える

本人には自覚がないことが多く、発作後は何事もなかったかのように行動を再開します。

誤解されやすい例
・「注意力がない」
・「居眠りしている」
・「発達の問題かも?」

実際には、脳の一過性の異常興奮による症状であり、てんかんの重要なサインの一つです。

診断が難しい理由

発作が短く、周囲が気づきにくい
→ 数秒で終わるため、見逃されやすい。

検査で異常が出ない場合もある
→ 脳波検査は発作時でなければ正常に見えることも多い。

本人に自覚がない
→ 特に部分発作では、患者自身が「発作」と思わない。

他の病気と誤診されやすい
→ 精神疾患、認知症、注意欠陥などと間違われることがある。

放置するとどうなるか

・睡眠てんかんを放っておくと、日中にも発作が出現することがある
・欠伸発作が繰り返されると、学習や仕事のパフォーマンスに影響
・発作時の転倒・事故のリスク

「命に関わらないから大丈夫」ではなく、生活の質や安全を守るために早期治療が重要です。

治療について

てんかんの治療は主に抗てんかん薬の内服です。

・発作型に応じた薬剤を選択
・睡眠発作や欠伸発作には有効な薬が存在
・適切に治療すれば、発作を大幅に減らすことができる

また、生活習慣の工夫(睡眠不足を避ける、過度の飲酒を控える、ストレスを減らす)も大切です。

まとめ

・てんかんは「けいれんして倒れる病気」だけではない
・睡眠中にのみ発作が起きる「睡眠てんかん」や、数秒間意識が途切れる「欠伸発作」など、わかりにくい発作も多い
・夜尿症や寝ぼけ行動が実はてんかんのサインであることもある
・放置すると日中にも発作が出る可能性があり、早期の診断・治療が重要
・てんかんは適切な薬物治療でコントロール可能な病気

1 件のコメント

  • てんかん のコメント
         

    てんかん専門医の小出先生のXでのポストをご紹介します。

    『ネット上でよく見かけるのは「欠伸発作」「欠伸てんかん」という誤字です。けっしん=欠神であり、欠伸(あくび)ではありません。私の辞書では「けっしん」と入力しても欠伸にはならないのですが・・・ #てんかん』

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