記事
プロトピック軟膏は朝塗った方がいい?夜塗った方がいい?
公開. 更新. 投稿者:アトピー性皮膚炎/ステロイド外用薬.この記事は約9分58秒で読めます.
4,458 ビュー. カテゴリ:目次
プロトピック軟膏の用法
プロトピック軟膏の用法について、添付文書上は、
通常、成人には1日1~2回、適量を患部に塗布する。なお、1回あたりの塗布量は5gまでとする。
となっており、1日1~2回なので、朝にも夜にも塗って構わない。
しかし、プロトピック軟膏の使用上の注意点として、「刺激感」があり、使い始めは1日1回から様子を見るというケースも多い。そのような場合、1日1回の塗り薬だと、朝塗るべきか夜塗るべきかで迷う。
ステロイドであれば、夜のかゆみが気になるなら夜、日中の症状が気になるなら朝といった使い分けを通常指導するが、プロトピックの場合はどうだろうか?
刺激感でいえば、朝のほうが忙しいのでプロトピックの刺激感が気にならないという。夜寝る前に使うと刺激が気になるようだ。
しかし、使用上の注意にある「本剤使用時は日光への曝露を最小限にとどめること。」への配慮という点、プロトピック塗布後になるべく日差しを避けたほうが良いと考えると、夜寝る前に塗って、朝は洗顔で落としてしまったほうが良いんじゃないかとも考えられます。
遠足に行くとか、海に行くとか、紫外線を多く浴びそうな日には朝塗るのは避けた方が良いでしょうけど、日常生活レベルの紫外線なら問題ないと言われているので、刺激に慣れるまでは朝塗ったほうがいいだろう。
プロトピックの刺激対策
タクロリムス軟膏(プロトピック)は、ステロイド外用薬の副作用が出やすい顔面や頸部に適応を有する。
使用開始初期にヒリヒリとした刺激感やほてりを感じることもあるが、これはタクロリムス軟膏の分子量が大きいため正常な皮膚には作用せず、炎症が強くダメージを受けた皮膚にのみ浸透していくことに起因すると考えられている。
したがって、タクロリムス軟膏使用時の刺激感やほてりは症状の改善に伴い徐々に治まるが、保湿剤を塗ったうえで外用すると、そうした使用感はさらに抑えられる。
プロトピック軟膏による皮膚刺激感(ほてり、ヒリヒリ感、かゆみ)は塗布当日から翌日にかけて発現することが多いようです。
一般には、外用開始後1週間程度で皮疹の軽快とともに刺激感も消失します。
皮疹の状態が悪いときは強い刺激感が生じることがあるため、まずステロイド外用薬などで皮疹を改善させてからプロトピック軟膏を使用することが推奨されています。また、入浴やシャワーなどで体が温まると刺激感が強くなることがあるため、入浴前の使用は避け、入浴後、体のほてりを冷ましてから外用するようにします。
プロトピック軟膏は小児に禁忌?
プロトピック軟膏とプロトピック小児用軟膏の違い。
プロトピック軟膏0.03%小児用はもちろん小児に適応がありますが、プロトピック軟膏0.1%は「小児等」に対して禁忌となっています。
小児の定義は15歳以下なので、16歳になるまでは小児用を使わなければいけないということです。
プロトピック小児用軟膏は「低出生体重児、新生児、乳児又は2歳未満の幼児」に対して禁忌です。
逆に、成人にプロトピック小児用軟膏が使われることがありますが、禁忌ではない。
添付文書にも特段使ってはいけない旨の記載があるわけではないので、使える。が適切かどうかについては検討し薬歴に残す必要があるだろう。
プロトピック軟膏は妊婦に禁忌?
プロトピック軟膏は添付文書で妊婦に禁忌とされていました。
が、2018年に禁忌から解除されました。
同時に、プログラフやサンディミュンなどの免疫抑制剤も妊婦禁忌が解除されました。
動物を用いた試験において催奇形性が認められていることから、添付文書上では妊婦又は妊娠している可能性のある女性への投与は禁忌とされていましたが、以下の理由から免疫抑制剤3剤においては、妊婦又は妊娠している可能性のある女性に対し、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する旨注意喚起した上で、禁忌を解除することが適当との結果が得られたとのことです。
(1)動物試験では、過去に催奇形性が報告されているが、センターで網羅的に収集し、評価した海外の疫学研究の結果では、免疫抑制剤を投与された妊婦において胎児の先天奇形の発生率が有意に上昇したという報告はないこと。
(2)国内外のガイドライン等において、妊娠中であっても使用可能な医薬品とされていること。
(3)海外の添付文書において、妊婦への投与は基本的に禁忌とされておらず、胎盤への移行が認められていること等から潜在的有益性が胎児への潜在的危険性を上回る場合にのみ投与できるとされていること。
(4)アザチオプリンについては、非臨床試験において遺伝毒性が認められていること。
プロトピック軟膏と紫外線
プロトピック軟膏の警告欄に、「マウス塗布がん原性試験において、高い血中濃度の持続に基づくリンパ腫の増加が認められている。また、本剤使用例において関連性は明らかではないが、リンパ腫、皮膚がんの発現が報告されている。本剤の使用にあたっては、これらの情報を患者に対して説明し、理解したことを確認した上で使用すること。」とあります。
そのため、「本剤使用時は日光への曝露を最小限にとどめること。また、日焼けランプ/紫外線ランプの使用を避けること。」となっており、顔に塗ることが多い薬ですが、紫外線はなるべく避けなければいけません。
しかし、マウスによる塗布試験をそのままヒトにあてはめることはできません。
マウスによる塗布試験は2年間行われ、これはヒトのほぼ一生に相当する期間です。
マウスはヒトよりも皮膚が薄いため薬物の吸収率が高いです。
マウスの悪性リンパ腫の自然発症率は20%前後と、もともと高いです。
日本皮膚科学会の見解では、皮膚癌の発生頻度は自然に起こる確率と比べて差はないという見解です。
プロトピック軟膏で皮膚がんになる?
まず、日本皮膚科学会の見解としては「タクロリムス軟膏の使用は皮膚がんやリンパ腫の発症リスクを高めるとはいえない」というものです。
薬剤師のほうから「軟膏を塗って紫外線を浴びると皮膚がんができますよ」などと言うことは無いが、患者から聞かれた際に「動物実験でそのような報告があります」みたいな説明だけで済ますと、「発癌性があるんだ」と受け取られ、「かゆみを我慢するほうがマシ」と判断する患者もいるでしょう。
逆に「発癌性なんてありません」みたいに断言すると嘘になるわけで、どのような条件下で行われた試験であったのかを丁寧に説明し理解していただく姿勢が必要になります。
紫外線を照射すると皮膚がんになる特殊なマウスに、紫外線照射と並行してプロトピック軟膏を塗ると皮膚がんの発生時期が早まることが報告されています。しかし、ヒトではプロトピック軟膏の使用と皮膚がん発症の関連性は明らかではありません。
マウスの皮膚はヒトより薄く、経皮吸収が100~200倍であり、血中濃度が上昇しやすいです。
そもそもが、「紫外線を照射すると皮膚がんになる特殊なマウス」という皮膚がん確定マウスを使用しており、プロトピック軟膏を塗ると皮膚がんになる時期が「早まった」という結果なのです。
使用している動物はマウスであり、皮膚が薄く、塗布範囲は体全体の40%という広い範囲に1日1回、2年間塗布し、発がん性が評価されました。
また、アトピー性皮膚炎そのものがリンパ腫のリスク因子であるという報告もあります。
プロトピック軟膏を処方する際の最大の障壁は、何といっても皮膚がんやリンパ腫についての説明義務であり、とくに小児科医にとって重大なネックとなっています。
添付文書の「重要な基本的注意」には以下のように記載されています。
本剤の免疫抑制作用により潜在的な発がんリスクがある。長期の国内製造販売後調査において、悪性リンパ腫、皮膚がん等の悪性腫瘍の報告はなく、長期の海外疫学研究においても、本剤の使用による発がんリスクの上昇は認められなかった。一方、本剤使用例において関連性は明らかではないが、悪性リンパ腫、皮膚がんの発現が報告されている。本剤の使用にあたっては、これらの情報を患者又は家族に対して説明し、理解したことを確認した上で使用すること。
2021年までは「警告」に載っていたため、以前よりもマイルドな説明義務になったのかとは思うが、説明義務であることは変わりない。
紫外線については添付文書で、軟膏外用中は曝露を最小限にとどめるよう指示されていますが、日常浴びる程度の紫外線については、刺激感のぶり返しさえ気にならなければ問題となるものではありません。
プロトピックは皮膚から吸収されない?
一般に皮膚からの薬物吸収は分子量500以上では難しいと考えられています。
タクロリムス(プロトピック)の分子量は822.03で、健常皮膚からはほとんど吸収されないことが推測されます。
そのため、ヒトにおいて高い血中濃度が長期に続く可能性は極めて低いことが指摘されています。
一般にヒトの経皮からの薬物の吸収は分子量が500Daltonを超えると難しいと考えられています。
実際にアレルゲンと考えられている物質の分子量も500以下です。
また、TTS製剤に使用されている薬物もニトログリセリンは227、ニコチンは162、フェンタニルは336といずれも500以下となっています。
また、タクロリムスは分子量が822と500を超えていますが、アトピー性皮膚炎に使用されています。
これはアトピー性皮膚炎患者の皮膚のバリアー能が低下しているためです。
そのため、症状が改善するとともに、吸収率は低下します。
シクロスポリンが皮膚外用剤として製品化されないのは分子量が1202と大きすぎるからです。
正常な皮膚の角質層にはバリア機能があり、分子量がおよそ500を超える物質は透過しないことが知られています。
タクロリムスの分子量は822と、ステロイド(分子量500以下)に比べるとかなり大きく、バリア機能が低下したアトピー性皮膚炎の病変の皮膚からはよく透過しますが、皮疹が軽快してバリア機能が正常になった皮膚からは透過しにくいと考えられています。
プロトピックで皮膚がんの発生率は高まらない
プロトピック軟膏は2008年1月現在、世界60カ国以上で発売されており、少なくとも540万人が使用しているといわれています。
米国において、本剤との因果関係が否定できないリンパ腫および皮膚がんの発生はそれぞれ3例報告されていますが、リンパ腫および皮膚がんの自然発生率はそれぞれ0.02%および0.53%であり、本剤によるリンパ腫および皮膚がんの発生率は自然発生率を超えるものではありません。
日本においてもリンパ腫、皮膚がんの発現が報告されていますが、本剤との関連性は明らかではありません。
以上のことから、プロトピック軟膏を適正に使用した場合、リンパ腫および皮膚がんが発生する危険性は低いと考えられます。
顔にはプロトピック軟膏がいい?
アトピー性皮膚炎で顔が赤いという方にはプロトピックがよく処方されます。
ステロイドだと皮膚をうすくして血管が浮き出て顔の赤みをますます目立たせてしまう可能性があるからです。
しかし、プロトピックは刺激があり、ヒリヒリします。
顔によく使われる薬なのですが、日光や紫外線を避ける必要があります。
添付文書上、とくに使用部位の指定は無いが、
皮膚以外の部位(粘膜等)及び外陰部には使用しないこと。また、眼の周囲に使用する場合には眼に入らないように注意すること。万一、眼に入った場合には刺激感を認めることがあるので直ちに水で洗い流すこと。また、洗い流した後にも刺激感が持続する場合は、医療機関を受診し治療を受けるよう指導すること。
眼に入らないように注意は必要です。
ステロイドは免疫細胞だけでなく皮膚のさまざまな細胞の働きも弱めるため、長い間使用していると皮膚が薄くなったり、毛細血管が広がってしまうといった副作用がみられます。
一方、タムロリムス外用剤はおもにリンパ球をはじめとする免疫担当細胞だけに作用するため、これらの副作用がみられず、顔や首などステロイド外用剤の副作用が心配な部位によく用いられます。
顔面に対しては、顔面以外の部位で用いるステロイド外用薬よりも1ランク弱いランクのステロイドを用いる。
ただし、顔面に対してステロイドを継続使用すると酒さ様皮膚炎が起こりやすいことから、2歳以上の子どもであれば、増悪期を脱したら、必要に応じてプロトピック軟膏などに切り替えることが多い。
プロトピック軟膏には皮膚萎縮の副作用はないが、増悪時に用いると、ほてりなどの刺激感が強く現れるため、Ⅳ群のステロイド外用薬で炎症を抑え、急性期を脱してから用いるようにする。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
そんな薬剤師には、m3.com(エムスリードットコム)の、薬剤師のための「学べる医療クイズ」がおすすめ。