記事
無症状でもピロリ菌除菌したほうがいいのか?
公開. 更新. 投稿者:消化性潰瘍/逆流性食道炎.この記事は約9分8秒で読めます.
3,824 ビュー. カテゴリ:ピロリ菌除菌のデメリット
ピロリ菌の除菌にはメリットとデメリットがあります。
メリットとしては、胃潰瘍と十二指腸潰瘍の再発が絶対的に減りますし、食欲も出ます。
いくつかのデータでは、除菌をした人にはがんが出てこないという結果が出ています。
デメリットのひとつは、まず逆流性食道炎が非常に多くなります。
除菌が始まった当初は、ドイツの発表では4人に1人に逆流性食道炎がみられるといわれていました。
日本では1~2割ぐらいということで非常に少なかったのですが、やはり食事が欧米化して肥満が増えれば、当然その率は欧米に近くなってきて、かなりの人数の人が逆流性食道炎で困っています。
つまり、胃の状態はきわめてよくなりますし、食欲も出ますから、食べられるようになるのです。
そうすれば、過食や肥満が出現し、当然、逆流性食道炎が出てくるという構図があります。
ピロリ菌と逆流性食道炎
ピロリ菌は胃の中に生息する細菌で、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの病気の原因のひとつです。
ピロリ菌と逆流性食道炎の関係について、ピロリ菌に感染している人の割合が高い国は逆流性食道炎の患者さんが少ないことが分かっています。
これは、ピロリ菌によって胃に炎症が起こると、胃酸の分泌が少なくなるためと考えられています。
つまりピロリ菌を除菌して胃炎が治ると、胃酸分泌が亢進して逆流性食道炎が引き起こされる可能性がある。
日本はピロリ菌に感染している人の割合が高い国でしたが、衛生環境が改善してきたことで、その割合は低くなってきました。
これが近年、日本で逆流性食道炎が増えたことのひとつの原因と考えられています。
以前はピロリ菌を除菌すると逆流性食道炎になる人が増えるという説がありました。
しかし、最近の研究で、ピロリ菌の除菌によって逆流性食道炎が起こったとしても一時的なものであり、また多くは軽症のものですので、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の患者さんは、除菌後の逆流性食道炎を気にすることなく、除菌治療を受けることが勧められています。
若者のピロリ菌と逆流性食道炎
最近20~30代を中心に「逆流性食道炎」、通称「逆食」と呼ばれる胃の病気が増えている。
胃酸過多となった胃液が食道に逆流することで、炎症を起こし、胸やけや胃もたれ、胃痛など、様々な症状を引き起こす。
内視鏡による逆食の発見率が1987~89年の2.4%から、2003~05年には9.4%まで増加。
これまでは、高齢者がかかりやすい病気だったが、若者にも増えている。
若い患者が増えている一番の原因は、ピロリ菌という細菌の保有率が世代的に低いから。
ピロリ菌とは胃酸の酸度を下げる働きがあるものの、胃の粘膜を損傷し、胃炎を起こす悪性の菌。
衛生環境が悪かった頃はピロリ菌の保有者が多かったため、逆食の患者は少なかった。
しかし、現在はピロリ菌の保有率が下がり胃酸の酸度が高い人が増え、患者も増えている。
70代以上の人は半数以上がピロリ菌を保有していますが、20~30代になると保有者は2、3割。
そのため、若い世代は逆食を発症しやすい。
ただ、ピロリ菌は胃がんや十二指腸潰瘍の原因になると考えられているので、発病のリスクを減らすためにはいないほうがいい。除菌治療をした方がよい。
ピロリ菌がいれば、逆食にはなりにくいけれど、その分、胃炎や胃がんなどのリスクが高まる。
ピロリ菌と脂質異常症
ピロリ菌を除菌すると活性化グレリンという成分が非常に増えるのです。
これが食欲を増すといわれているので、高脂血症の人が非常に多くなります。
食欲も出ておいしく食事がとれるため、本人は喜んではいるのですが、逆の面からみると、ピロリ菌の除菌は逆流性食道炎と高脂血症をつくっているわけです。
無症状の胃潰瘍
胃潰瘍の症状は多様で、特異的な症状に乏しいことが知られています。
空腹時・夜間の心窩部痛が半数にみられます。
食欲不振、腹部膨満感、胸焼け、悪心、食後の心窩部痛は3割強にみられる比較的多い症状です。
しかし、まったく無症状のこともあり、特に高齢者でその頻度の高いことが知られています。
一方、胃潰瘍が治癒しなくても、半数例で症状が消失するため、症状による診断には注意を要します。
ピロリ菌と胃がん
ピロリ菌を持っている人は持っていない人に比べて胃癌の発生率は3~6倍高いことが知られています。
厚生労働省では、1990年から15年にわたり、全国の40~69歳の男女約4万人を追跡調査。それによると、ピロリ菌の感染者は非感染者にくらべ、5.1倍、胃がんになりやすいことがわかりました。
胃癌はわが国をはじめ、アジア諸国で多い疾患である。
胃粘膜から発生し、徐々に深く浸潤し、リンパ節、腹膜播種、他臓器に転移を起こす。
粘膜内の癌であれば内視鏡治療が行える可能性があり、早期癌では縮小手術や腹腔鏡補助下の切除の適応がある。
転移のない進行癌では手術療法が標準であり、転移を有するものは抗癌薬治療の適応で、新規抗癌薬の登場により治療成績も改善しつつある。
わが国では国民の約1/3は癌で死亡することが明らかになった。
そのなかで胃癌はもっとも発生率が高く、死亡率も肺癌に次いで多い疾患である。
2001年の人口10万人あたりの死亡率は男性37.1人、女性14.6人であり、ピークであった1950年代から比べると約3割に減少している。
しかしながらその罹患率は決して減少しているとはいえず、死亡率の減少は、検診などによる早期発見によることや治療技術の向上によるものと考えられる。
世界的には、日本、韓国、中国などのアジア地区に多く発生し、国内では比較的寒冷地区や塩分摂取の多い地域に発生率が高いとされている。
ピロリ菌と食道がん
除菌により食道がんは少なくなります。
しかし、日本ではまだ少ないですが、バレット食道がんの増加が危惧されます。
逆流性食道炎が繰り返されれば、アメリカのようにバレット食道が増加し、バレット食道がんが増えるということが考えられます。
日本では、まだバレット食道がんは非常に少ないのですが、10~20年後には現在の米国の状況になると思われるので、今後は増加する可能性が高いと思われます。
ピロリ菌と多発性硬化症
ピロリ菌と多発性硬化症という一見関係なさそうな疾患でも関連がありそうです。
女性の多発性硬化症の患者は、対照群と比べて有意にピロリ菌に感染している割合が低いことがわかりました。
また、症状の程度を比較した場合では、ピロリ菌に感染している女性の方が、症状の程度が軽いことがわかりました。
男性では逆に、ピロリ菌に感染している人のほうが多発性硬化症の症状が重い傾向がありました。
ピロリ菌と鉄欠乏性貧血
原因不明の鉄欠乏性貧血があり、ピロリ菌陽性の人にピロリ菌の除菌を行うと、貧血が改善することが1990年代から報告されています。
ピロリ菌感染で鉄欠乏性貧血が起こるメカニズムについては、十分に明らかになっていませんが、胃粘膜委縮による酸分泌低下で食事からの鉄分吸収が阻害されるから、という説が有力である。
他にも、①ピロリ菌の感染によって消化管粘膜が間欠的、または持続的に出血する②ピロリ菌の外膜に発現しているラクトフェリン受容体によって、食事中のラクトフェリン結合鉄が吸着される、といった説が提唱されている。
小児の場合、特に10歳以上における原因不明の鉄欠乏性貧血の60~70%にピロリ菌の感染があるとされ、除菌が成功した症例では貧血が治癒し、再燃は認められなかったという報告もある。
慢性的な鉄欠乏は成長障害を引き起こすため、小児の鉄欠乏性貧血患者には積極的にピロリ菌感染の有無を検査し、除菌治療を行う医師も多い。
ピロリ菌と紫斑病
紫斑病とピロリ菌の関係について。
ランサップなどのピロリ菌除菌薬の適応症には、
「胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃MALTリンパ腫・特発性血小板減少性紫斑病・早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃におけるヘリコバクター・ピロリ感染症、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」
と、「特発性血小板減少性紫斑病」など、消化性潰瘍ではない、ピロリ菌とは一見関係の無さそうな疾患が含まれている。
ピロリ菌陽性の血小板減少症の患者に抗菌剤で除菌を行うと半数以上の患者さんで血小板数が増加するらしい。
そのため血小板減少性紫斑病に使われるわけだ。
特発性血小板減少性紫斑病自体は原因不明の病気で、ピロリ菌が原因というわけではない。
紫斑病の治療
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の発症には血小板膜に対する自己抗体が産生され血小板が破壊されることによる免疫性血小板減少機序が関与することが明らかにされてきた。
それに伴いITPの治療は副腎皮質ステロイドを中心とした免疫抑制療法や、血小板破壊並びに抗体産生の中心的役割を果たす脾臓の除去(摘脾療法)が定着している。
しかし、副腎皮質ステロイドによる完全寛解率は10〜30%に止まっているのが現状である。
そのうえ、これらの治療は副作用も多いほか、これらの治療に対して抵抗性のあるITP症例も存在する。
一方、近年、ITPに対してH.pylori除菌後に血小板数が増加するという興味深い報告が相次いでおり、H .pylori除菌後に血小板数が増加するという興味深い報告が相次いでおり、H .pylori菌陽性ITP症例に対してはまず除菌療法の有効性から、その治療の位置付けを考える必要性が生じてきた。
除菌成功による血小板増加効果は国によって有効率に差があるが、本邦からの論文によるとH.pylori陽性慢性ITP症例では除菌により40〜60%で血小板増加が認められ、他の維持療法を中止後も増加効果は維持され、永続性があることが判明している。
更に、血小板増加反応はMALTリンパ腫と異なり、早期に現れることが特徴である。
通常MALTリンパ腫の除菌においては内視鏡像に変化が見られるのは3〜6ヶ月とされているが、ITPにおける除菌効果は1ヶ月より認められている。
なかには除菌後3日で著効した報告もある。
また、除菌による血小板増加効果には性差、年齢、除菌直前の血小板数、除菌直前のITP治療の有無、治療の内容などいわゆるITPの臨床病態や過去の治療経過は影響しない。
すなわち、ステロイド療法や摘脾療法に対して不応性の症例に対しても血小板増加が認められる点は大きな利点である。
長期間に及ぶ副腎皮質ステロイド使用の副作用、免疫グロブリン大量療法に要するコストと効果の持続性、摘脾手術の出血・術後感染リスク等を考慮すると、H.pylori除菌療法は副作用も少なく、経費も低く、僅か1週間の内服治療のみで大きな効果が期待できることから、ITPの治療法してますます浸透していくものと考えられる。
ピロリ菌除菌による紫斑病治癒率
日本人のピロリ菌陽性紫斑病患者さんに除菌療法を行うと、約60%の患者さんで血小板数が増え、その約80%では血小板数が正常値になって、その効果が長期に渡って持続したという報告がありますので、ピロリ菌をもつ紫斑病患者さんの約50%は、除菌療法で完治するといえます。
除菌療法は従来の標準治療より極めて有効率は高く、安全性の高い治療なので、今後はピロリ菌陽性紫斑病患者の治療において、第1選択となると考えられます。
ピロリ菌感染者は除菌したほうがいいのか?
無症状のピロリ菌感染者でも除菌したほうがいいのか。
いまのところは意見が分かれるところです。
「やりましょう」という医師と、「もうちょっと様子をみましょう」という医師がいるのが現状です。
患者さんから「ピロリ菌があるので、がんになってしまうのではないか」という相談があると思いますが、薬局では「結論はまだ出ていないので、よく相談しながら考えたらどうでしょうか」という言い方しかできません。
胃の検診は、いままではバリウムを使った造影胃X線検査でしたが、いくつかの地域ではペプシノゲン法という方法を導入しています。
これは胃がんのハイリスク因子である委縮性胃炎を血液検査でスクリーニングして、陽性の人には内視鏡検査で健診を行うという方法です。
さらに、ペプシノゲン法にピロリ菌の抗体検査を追加する胃がんハイリスク検診(ABC検診)という新しい方法が注目されています。
胃がんのハイリスク因子である委縮性胃炎とピロリ菌感染を組み合わせて、血液検査でスクリーニングし、そのリスクに応じて内視鏡による検診を勧める方法です。
この検診法を導入すると、今後はピロリ菌の感染の有無が一般の検診でもわかるようになるのです。
しかし、そうした場合に、ピロリ菌抗体陽性の患者さんをどうするかというのは非常に問題になるところだと思います。
陽性とわかっているのに、そのまま放っておくというのは、あまり気持ちのよいものではありません。
将来的には、ピロリ菌感染症という病名のもとに全員保険医療で除菌することが望ましいと思われます。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
そんな薬剤師には、m3.com(エムスリードットコム)の、薬剤師のための「学べる医療クイズ」がおすすめ。