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脳梗塞の治療で脳出血になりやすくなる?
公開. 更新. 投稿者: 36 ビュー. カテゴリ:脳梗塞/血栓.この記事は約5分45秒で読めます.
目次
脳梗塞の治療で脳出血になりやすくなる?

「脳梗塞の薬を飲むと、今度は脳出血になりやすいんですよね?」
薬局や病棟で、薬剤師が実際によく受ける質問です。
この一言には、患者さんの素朴で、しかし切実な不安が詰まっています。
・血をサラサラにする薬は怖い
・出血という言葉自体が怖い
・ネットや知人から断片的な情報を聞いている
こうした背景を踏まえずに
「大丈夫ですよ」「医師の指示なので」
とだけ返してしまうと、不安は解消されません。
「脳梗塞の治療で脳出血になりやすくなるのか?」
という問いに対し、
・医学的にはどう考えられているのか
・どこまでが事実で、どこからが誤解なのか
・薬剤師として、どう説明すればよいのか
を整理します。
脳梗塞と脳出血は「正反対の病気」
まず前提として、患者さんの頭の中では
脳梗塞と脳出血は「同じ脳卒中」として一括りにされがちです。
しかし病態はまったく異なります。
脳梗塞
・脳の血管が詰まる
・血液が流れず、脳細胞が壊死する
・原因:血栓、動脈硬化、心房細動など
脳出血
・脳の血管が破れる
・血液が脳内に漏れ出す
・原因:高血圧、血管の脆弱化、抗血栓薬など
つまり、
・脳梗塞=血が固まりすぎる問題
・脳出血=血が漏れやすくなる問題
という、真逆の側面を持っています。
脳梗塞治療の中心は「血を固まりにくくする」
脳梗塞の再発予防で用いられる治療の中心は、
・抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル など)
・抗凝固薬(ワルファリン、DOAC)
です。
これらは、
・血栓をできにくくする
・血管が再び詰まるのを防ぐ
という点で、脳梗塞予防に不可欠な薬です。
しかし患者さんの視点では、
「血を固まりにくくする=出血しやすくなる」
という理解が自然に生まれます。
そしてこの理解自体は、間違いではありません。
実際、脳梗塞治療で脳出血リスクは上がるのか?
答え:「上がることはあるが、程度が重要」
抗血栓薬を使用すると、
・消化管出血
・皮下出血
・頭蓋内出血(脳出血)
のリスクは、使用しない場合より増加します。
これは多くの臨床試験で一貫して確認されている事実です。
しかし、ここで薬剤師が押さえるべき重要な視点があります。
「相対リスク」と「絶対リスク」を分けて考える
患者さんの不安は、多くの場合
相対リスクだけが強調された情報によって増幅されます。
たとえば、
「出血リスクが1.5倍になる」
と言われると非常に怖く感じます。
しかし実際には、
・もともと1000人に1人 → 1000人に2人
といったレベルの増加であることも少なくありません。
一方で、抗血栓薬を中止すると、
・脳梗塞の再発
・心筋梗塞
・重篤な後遺症や死亡
のリスクは、はるかに大きく上昇します。
つまり多くの患者さんでは、
「出血リスクが少し増える代わりに、
命や生活を大きく損なう脳梗塞を防ぐ」
という利益が、明確に上回っています。
「脳梗塞と脳出血はシーソーの関係」なのか?
医療者の間でもよく使われる表現です。
この言い方は、条件付きで正しいと整理するのが適切です。
正しい側面
抗血栓薬を強化すると
→ 血栓は減るが、出血は増えやすい
誤解されやすい側面
すべての治療がトレードオフではない
たとえば、
・血圧管理
・禁煙
・生活習慣改善
は、脳梗塞も脳出血も同時に減らします。
薬剤師としては、
「治療=シーソー」という単純な理解に引きずられない整理が重要です。
どんな患者で脳出血リスクに注意が必要か
抗血栓療法を行う際、特に慎重な判断が必要なのは、
・高血圧が十分にコントロールされていない
・高齢
・過去に脳出血の既往がある
・転倒リスクが高い
・多量飲酒がある
こうした場合、
薬剤の種類・用量・併用薬が慎重に検討されます。
スタチンと脳出血の関係
「コレステロールを下げると、血管がもろくなる?」
患者さんがこのように考えるのは自然です。
・コレステロールは細胞膜の構成成分
・血管も細胞でできている
このため
「コレステロールは血管の材料」という説明は、直感的な納得感があります。
実際、観察研究では、
・LDLコレステロールが低い集団で
・脳出血が多い
という関連が報告されています。
特にアジア人集団でその傾向が示されることがあります。
重要なのは「因果関係は確立していない」こと
薬剤師として必ず押さえるべき点は、
LDLが低いことと脳出血が多いことは
「関連」は示されているが、
「スタチンが脳出血を起こす」という因果関係は確立していない
という点です。
・低LDLは結果であって原因ではない可能性
・栄養状態、飲酒、血圧、加齢などの影響
・脳出血のタイプ(高血圧性、アミロイド血管症など)
多くの因子が絡み合っています。
ガイドラインの立場
現在のガイドラインでは、
脳出血既往があるからといって
スタチンを一律に中止・回避すべきとはされていない
心血管イベントや脳梗塞の予防効果と
出血リスクを個別に評価する
という立場が取られています。
つまり、
「スタチン=危険」
「コレステロールは下げすぎてはいけない」
と単純化するのは不適切です。
薬剤師としての説明の軸
患者から質問されたとき、
薬剤師が持つべき説明の軸は次のとおりです。
・不安の背景は理解する
・納得感のある説明を頭ごなしに否定しない
・しかし断定や極端な解釈は修正する
たとえば、
「コレステロールは体に必要なものですが、
スタチンが脳出血を明らかに増やすと決まったわけではありません。
心筋梗塞や脳梗塞を防ぐメリットと、出血のリスクを比べて使われています」
この説明ができれば、
自己中断を防ぎ、患者の理解を深めることができます。
一番危険なのは「自己判断で治療をやめること」
抗血栓薬もスタチンも、
・自覚症状がない
・効果が“将来の予防”
であるため、
不安になると中断されやすい薬です。
しかし自己中断は、
・脳梗塞の再発
・重篤な後遺症
・突然死
につながる可能性があります。
薬剤師は、
このリスクを静かに、しかし確実に伝える役割を担っています。
まとめ
・脳梗塞治療により脳出血リスクは多少上がることがある
・しかし多くの場合、治療の利益がリスクを上回る
・「シーソーの関係」は抗血栓薬に限った比喩
・スタチンと脳出血の関係は、関連は示唆されるが結論は出ていない
・患者の誤解は、薬剤師が説明すべき重要なポイント
・一番避けるべきは自己判断による中断




