治る癌、治らない癌

抗癌剤の目的

抗癌剤が処方されている患者を見ると、悲しい気持ちになってしまう。
「この人の命はあとどのくらいなのだろう？」と。
しかし、投薬時にそんな顔を見せてはいけない。

ただ、癌の種類によってはそれほど悲観する癌ではないこともある。

抗癌剤治療の目的は、癌を治すためだけではなく、癌を小さくする、少しでも寿命を延ばすため、癌による痛みを取り除くため、と色々あります。

がん薬物療法の有効性	がんの種類
治癒が期待できる	急性リンパ性白血病、ホジキンリンパ腫・非ホジキンリンパ腫（中悪性度）、胚細胞腫瘍、絨毛がん
症状緩和や延命の効果が十分に期待できる	卵巣がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、大腸がん、多発性骨髄腫、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫（低悪性度）、胃がん、膀胱がん
延命効果・症状緩和が期待できる	骨肉腫、軟部組織腫瘍、頭頚部がん、食道がん、子宮がん、腎がん、肝がん、胆道がん、膵がん、脳腫瘍、甲状腺がん

治すための抗がん剤治療

急性白血病、悪性リンパ腫、精巣腫瘍など一部のがんでは、抗がん剤治療のみで完治する可能性があるため、完治目的で抗癌剤を用います。

しかし抗癌剤単独で治すことが難しい大腸がんや乳癌などのがんには「治すための抗癌剤治療」が無いかというと、そうではありません。抗がん剤のみで完治することはほぼ不可能ですので、手術でがんを取りきることが必須になります。

ただし、手術で目に見えるがんを取り切った場合でも、目に見えない小さい癌細胞が体内に残っていることがあり、それが後にＣＴでわかるくらい大きくなると再発ということになります。そこで、再発をできるだけ少なくするため、手術後に抗がん剤治療で体内に残った目に見えないがん細胞をたたいてしまおうというのが、術後化学療法です。

緩和的な抗がん剤治療

大腸がんや乳癌など抗がん剤治療だけでは完治が難しいがんで、さらに遠隔転移などのため手術できない場合における抗癌剤治療の目的には、まず生存期間を延ばすことが挙げられます。

次に、抗がん剤治療でがんが大きくなることを遅らせることで、がんの進展による諸症状の出現を防止したり、遅らせるということも大きな目的になります。

がんの進行とともに痛みの出現や倦怠感の出現などによって生活の質、つまりＱＯＬは次第に低下し、最終的には死に至ります。
そこで、手術のできない再発癌や切除不能癌では抗癌剤治療を用いることで、がんの進行をコントロールし、できるだけＱＯＬが高い状態を長く維持することがポイントになってきます。

不治の病

かつては、癌は「不治の病」というイメージが強かったかもしれない。

だが、そのイメージは急速に変わりつつある。

画像診断技術の発達などにより、癌がより早期の段階で発見できるようになったこと、さらには新しい抗癌剤の開発など治療法が進歩したことにより、癌患者の生存率は、着実に上がってきている。

女性の乳癌や男性の前立腺癌では、5年相対生存率が各病期の合計で約90％に達している。

早期癌に限れば、この数値はさらに高くなる。

生存率が高いということは、癌と診断されてから生きる期間が、それだけ長いということだ。

癌という病気と上手に付き合いながら、いかに生活の質（QOL）を損なわずに生活を続けていくかが、治療の目標となりつつある。

生存率の高い癌に関しては、糖尿病や高血圧と同じ「慢性疾患」と捉えることができるかもしれない。

ただし、肝臓癌や肺癌のように、予後の悪い癌がまだあるのも確かだ。

がんが治る可能性は、がん全体の約５割強、肺がんなどは約２割だといわれています。

膵がんの予後

膵がんは、悪性腫瘍の中でも極めて予後不良である。

２００３年の日本膵臓学会膵がん登録２０年の総括では、通常型膵がん９７０３例の平均生存期間は８．６カ月、５年生存率は９．７％と報告されている。