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においのする薬は?臭い薬とその原因
公開. 更新. 投稿者: 163 ビュー. カテゴリ:調剤/調剤過誤.この記事は約7分39秒で読めます.
においのする薬

薬局で一包化した薬を確認していると、
「この薬が入ると独特のにおいがする」
「分包紙を開けた瞬間に、いつものにおいがする」
という薬があります。
患者さんから、
「この薬、臭いんだけど大丈夫?」
と聞かれることもあります。
薬にはほとんどにおいを感じないものが多い一方、特徴的なにおいを持つものもあります。
代表的なのがリマチル(ブシラミン)です。
また、スピロノラクトン製剤などでも、調剤現場で独特のにおいを感じることがあります。
では、薬はなぜ臭うのでしょうか?
「においのする薬」は意外と難しい
「臭い薬を一覧にしよう」と思って調べてみると、意外と難しいことに気付きます。
薬剤師として実際に薬を扱っていると、
「この薬には明らかに特徴的なにおいがある」
と感じることがあります。
ところが、電子添文やインタビューフォームを調べても、においについて何も書かれていないことがあります。
反対に「特異なにおいがある」と製剤情報に明記されている薬もあります。
さらに、
- 有効成分そのもののにおい
- 製剤由来のにおい
- 一包化後に目立つにおい
- 保存による変化で生じたにおい
なども区別する必要があります。
したがって、単純に「臭い薬一覧」を作るのではなく、
なぜその薬からにおいがするのか?
まで考える必要があります。
リマチルは「においのする薬」の代表
においについて比較的はっきりした情報があるのがリマチルです。
リマチルは関節リウマチに使用される抗リウマチ薬で、有効成分はブシラミンです。
ブシラミン製剤については、過去に「ブシラミン製剤のにおい」に関する薬剤師向けアンケート調査まで行われています。
その調査には、
「ブシラミンが不快なにおいを持つ薬だということは知っていましたか?」
という質問まであります。
つまりブシラミンは、医療現場で実際に「におい」が問題になってきた薬なのです。
リマチルはなぜ臭う?
ブシラミンの化学構造を見ると特徴的なのが、
-SH(チオール基)
を2つ持っていることです。
チオールは、硫黄原子と水素原子からなる-SHを持つ化合物です。
チオール類には強い特徴的な臭気を持つものが多く、低分子のチオールは非常に低い濃度でもにおいを感じることがあります。
例えばメタンチオールなどは強い臭気を持つことで知られています。
ブシラミンの特徴的なにおいを考えるうえでも、このチオール基を2つ持つ構造は重要です。
硫黄を含む薬はみんな臭い?
ここで、
「硫黄を含む薬は臭いのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、そう単純ではありません。
医薬品には硫黄原子を含むものがたくさんあります。
硫黄を含む構造にも、
チオール
スルフィド
ジスルフィド
スルホキシド
スルホン
など、さまざまなものがあります。
同じ硫黄原子を含んでいても、その結合状態によって化学的性質は大きく異なります。
したがって、
「硫黄を含む=臭い」ではなく、「どのような化学構造を持っているか」が重要
なのです。
薬の構造式を見るとき、「S」という文字を見つけるだけではなく、そのSがどのような形で存在しているのかを見ると面白いでしょう。
リマチルはなぜ糖衣錠?
リマチル錠は糖衣錠です。
錠剤をコーティングする目的には、安定性、外観、服用性などさまざまなものがあります。
また、味やにおいを患者さんが直接感じにくくすることも、コーティングの重要な役割の一つです。
ここで問題になるのが粉砕です。
錠剤を粉砕すれば糖衣は壊れ、中の薬が直接露出します。
その結果、錠剤の状態ではそれほど気にならなかった味やにおいが、服用時に問題になる可能性があります。
粉砕の可否を考えるときには、
「薬効に影響しないか」
「安定性に問題がないか」
だけではなく、
「コーティングを壊したら服用性はどうなるか?」
という視点も必要です。
スピロノラクトンにも独特のにおいがある?
スピロノラクトン製剤も、調剤現場では独特のにおいを感じることがあります。
スピロノラクトンも化学構造中に硫黄を持つ薬です。
ただし、ここでも、
「硫黄が入っているから臭う」
と単純に説明することはできません。
また、スピロノラクトンには多数の後発医薬品があり、添加剤や製剤設計も同じではありません。
「スピロノラクトン」という一般名だけで、すべての製剤のにおいを同じように扱うのは難しいところです。
実際に製剤ごとのインタビューフォームや無包装安定性試験を確認すると、保存条件による変化の内容も製剤によって異なります。
したがって、スピロノラクトンについては、
「調剤現場ではにおいを感じることがあるが、製剤による違いにも注意する薬」
くらいに考えておくのがよいでしょう。
オルメテックODには「特異なにおい」の記載がある
オルメテックOD錠(オルメサルタン メドキソミル)については、製剤情報に、
「においはないか、又はわずかに特異なにおいがある」
と記載されています。
ただし「わずかに」です。
リマチルのように「不快なにおい」が医療現場で問題となり、調査まで行われた薬とは少し位置付けが違います。
したがってオルメテックODは、
「臭いことで有名な薬」というより、「製剤情報上、特異なにおいを持つことが確認できる薬」
という位置付けになるでしょう。
一包化するとにおいが目立つ?
においのある薬で興味深いのが一包化です。
PTP包装の状態ではほとんど気にならなかったのに、一包化するとにおいを感じやすくなることがあります。
一包化すると、
PTPから取り出す
↓
複数の薬が同じ分包紙に入る
↓
袋を開けた瞬間に薬のにおいをまとめて感じる
という状況になります。
そのため、一つだけにおいの強い薬が入っていても、患者さんには、
「今回の薬は全部臭い」
と感じられるかもしれません。
さらにPTPから取り出すことで、温度や湿度など外部環境の影響も受けやすくなります。
一包化では、
- 吸湿
- 変色
- 硬度
- 崩壊性
- 配合変化
などが問題になりますが、においの変化も製剤の状態を確認する一つの手掛かりになります。
薬が臭いのは劣化しているから?
薬ににおいがあるからといって、劣化しているとは限りません。
リマチルのように、もともと特徴的なにおいを持つ薬があるからです。
重要なのは、
「いつもと同じにおいなのか?」
という点です。
例えば患者さんから、
「前の薬はこんなに臭くなかった」
と言われた場合には、においだけでなく、
- 錠剤が変色していないか
- 表面が湿っていないか
- 軟らかくなっていないか
- 欠けたり崩れたりしていないか
- 高温多湿の場所に保管していなかったか
- 一包化してから長期間経過していないか
なども確認します。
においだけで薬の品質を判断することはできません。
しかし、
「いつもと違うにおい」は製剤の変化に気付くきっかけ
にはなります。
患者から「薬が臭い」と言われたら?
患者さんから、
「今回の薬、なんだか臭いんですけど」
と言われたとします。
このとき、
「そういう薬だから大丈夫ですよ」
とすぐに答えるのではなく、
「以前から同じにおいでしたか?」
と確認してみることが重要です。
新しい薬が追加されてから臭うのであれば、その薬そのもののにおいかもしれません。
一方、処方内容が変わっていないのに突然においが変わったのであれば、
保存場所
保存期間
温度・湿度
錠剤の外観
なども確認したほうがよいでしょう。
毎日薬を飲んでいる患者さんだからこそ、
「前と違う」
という変化に気付くことがあります。
その感覚が、薬の異常を発見するきっかけになる可能性があります。
「におい」は薬を見分ける情報になる?
薬剤師が錠剤を確認するときには、
色
形
大きさ
刻印
割線
などを利用します。
さらに、
変色
吸湿
欠け
硬さ
なども製剤の状態を知る手掛かりになります。
そして薬によっては、
におい
も特徴の一つになります。
特に一包化された薬ではPTPシートがありません。
「この独特のにおいは……」
という感覚が、薬を確認する一つのきっかけになることもあります。
もちろん、においだけで医薬品を識別することはできません。
しかし、薬剤師が五感を使って製剤の状態を確認するという意味では、においも無視できない情報です。
においから薬の化学構造が見えてくる
薬の「におい」は、一見すると些細な特徴です。
しかしリマチルを例にすると、
なぜ臭う?
↓
ブシラミンだから
↓
ブシラミンにはチオール基が2つある
↓
チオールには特徴的な臭気を持つものが多い
↓
では硫黄を含む薬は全部臭う?
↓
硫黄の存在だけではなく、化学構造が重要
と話が広がります。
患者さんから、
「この薬、なんで臭うんですか?」
と聞かれたことをきっかけに構造式を眺めてみると、普段何気なく扱っている薬の別の一面が見えてきます。
薬のにおいは、有効成分の化学構造や製剤の特徴を知るための意外に面白い入口なのです。



