2026年9月27日更新.2,808記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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緑内障の手術にはどんな種類がある?―切開術・切除術・MIGSの違い

緑内障の手術の種類

緑内障というと、まず思い浮かぶ治療は点眼薬です。

プロスタグランジン関連薬、β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬、α2作動薬、ROCK阻害薬など、現在は多くの緑内障治療薬があります。

しかし、点眼薬を何種類使っても十分に眼圧が下がらなかったり、視野障害が進行したりする場合には、レーザー治療や手術が検討されます。

薬局でも、
「緑内障の手術をしました」
「手術をしてから目薬が減りました」
という患者さんに出会うことがあります。

では、緑内障の手術とは、いったい何をしているのでしょうか。

緑内障手術の目的は「視野を元に戻す」ことではない

まず重要なのは、緑内障手術をしても、すでに失われた視野が基本的に元に戻るわけではないということです。

緑内障では視神経が障害され、徐々に視野が失われていきます。

その進行を抑えるために、現在もっとも確立している治療が「眼圧を下げること」です。

したがって緑内障手術の主な目的は、
眼圧を下げる → 視神経への負担を減らす → 将来の視野障害の進行を抑える
ことにあります。

「目を治す手術」というより、これ以上悪くならないように眼圧をコントロールするための手術と考えたほうが分かりやすいでしょう。

そもそも、なぜ眼圧が上がるのか?

眼球の中では「房水」という液体が循環しています。

房水は毛様体で作られ、
毛様体 → 後房 → 瞳孔 → 前房 → 線維柱帯 → Schlemm(シュレム)管 → 集合管 → 静脈
という経路を通って眼外へ排出されます。

つまり眼圧は、大まかにいえば、
房水を作る量と、房水を排出する量のバランス
によって決まります。

緑内障点眼薬も、

  • 房水を作る量を減らす
  • 房水を外へ流れやすくする

という方法によって眼圧を下げています。

そして緑内障手術の多くも、基本的には**「房水をもっと流れやすくする」**ための治療です。

緑内障手術は大きく分けるとどうなる?

緑内障手術にはさまざまな術式がありますが、仕組みから考えると整理しやすくなります。

1.本来の房水流出路を通りやすくする

代表的なのが、
線維柱帯切開術(トラベクロトミー)
です。

2.新しい房水流出路を作る

代表的なのが、
線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)
です。

3.インプラントを使って房水を逃がす

代表的なのが、
チューブシャント手術
です。

4.小さな切開やデバイスで低侵襲に流出路を改善する

これらは、
MIGS(低侵襲緑内障手術)
と呼ばれます。

iStentなどが代表例です。

5.房水を作る量そのものを減らす

代表的なのが、
毛様体光凝固術
です。

このように考えると、複雑に見える緑内障手術も、
「房水をどうするのか?」
という視点から整理できます。


線維柱帯切開術(トラベクロトミー)

線維柱帯は、房水が眼球の外へ出ていくときに通過する「排水口」のような場所です。

線維柱帯切開術では、この部分を切開して房水をSchlemm管へ流れやすくします。

イメージとしては、
詰まりやすくなった排水口を開ける手術
です。

自分自身がもともと持っている房水流出路を利用するところがポイントです。

線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)

名前が非常によく似ていますが、「切開術」と「切除術」では考え方が異なります。

線維柱帯切除術では、眼内の房水を結膜下へ逃がすための新しい通り道を作ります。

つまり、
前房 → 人工的に作った流出路 → 結膜下
というバイパスを作るわけです。

結膜の下には房水がたまる「濾過胞(ろかほう、bleb)」が形成されます。

トラベクレクトミーは強力な眼圧下降が期待できる重要な手術ですが、その分、術後の眼圧や濾過胞の管理が重要になります。

「切開」と「切除」は何が違う?

名前が似ているので混同しやすいですが、

トラベクロトミー(切開術)
→ 本来の排水路を通りやすくする

トラベクレクトミー(切除術)
→ 新しい排水路を作る

と覚えると分かりやすいでしょう。


MIGS(低侵襲緑内障手術)とは?

近年よく聞くようになったのが、
MIGS:Minimally Invasive Glaucoma Surgery
です。

日本語では「低侵襲緑内障手術」などと呼ばれます。

重要なのは、MIGSという名前の一つの手術があるわけではないということです。

従来の濾過手術などと比較して侵襲を抑えながら眼圧下降を目指す、複数の術式をまとめた概念です。

線維柱帯を切開・切除したり、小さなデバイスを留置したりする方法などがあります。

一般に、従来のトラベクレクトミーほど大幅な眼圧下降を狙うというより、
低侵襲性と眼圧下降効果のバランスを取る
ことが特徴です。

iStent(アイステント)とは?

MIGSの代表例として知られているのがiStentです。

iStentは非常に小さなインプラントを線維柱帯に留置して、
前房 → iStent → Schlemm管
と房水を流れやすくします。

つまり、房水が通過しにくくなっている線維柱帯を小さなステントでバイパスするわけです。

iStentの目的は眼圧を下げることですが、もう一つ注目したいのが、
緑内障点眼薬を減らせる可能性がある
ことです。

薬局でも、
「アイステントの手術をしてから目薬が減った」
という患者さんに出会うことがあります。

これは十分にあり得る経過です。


チューブシャント手術

通常の房水流出路とは別に、専用のインプラントを使って房水を眼外へ逃がす方法です。

眼内に挿入したチューブから房水を流し、プレート周囲へ導きます。

難治性緑内障などで選択されることがあります。

トラベクレクトミーと同様に、本来のSchlemm管経路とは別の排出ルートを作る治療と考えると分かりやすいでしょう。

毛様体光凝固術

ここまで紹介した手術の多くは、
「房水をどうやって外へ逃がすか」
という治療でした。

一方、毛様体光凝固術は考え方が異なります。

房水を作っているのは毛様体です。

そこでレーザーなどによって毛様体に作用し、房水の産生を抑えて眼圧を下げます。

つまり、
流出を増やすのではなく、入ってくる水を減らす
という治療です。


閉塞隅角緑内障では白内障手術も重要

緑内障治療として少し意外なのが、水晶体摘出、つまり白内障手術です。

特に原発閉塞隅角症・原発閉塞隅角緑内障では、水晶体の存在によって前房が浅くなり、隅角が狭くなることがあります。

そこで水晶体を摘出して薄い眼内レンズに置き換えると、

水晶体摘出
↓
前房が深くなる
↓
隅角が広がる
↓
房水が流れやすくなる

という効果が期待できます。

そのため、緑内障治療の一環として水晶体摘出術が行われる場合があります。


手術をしたら緑内障点眼薬は不要になる?

ここは薬剤師として非常に気になるところです。

結論としては、
手術をしたからといって、必ず緑内障点眼薬が不要になるわけではありません。

手術後には、

  • 点眼薬が不要になる
  • 点眼薬の本数が減る
  • 以前と同様に点眼薬が必要
  • 一度減ったものの、後に再び追加される

など、さまざまなケースがあります。

重要なのは、「点眼薬をゼロにすること」そのものが最終目的ではないことです。

目標はあくまで、その患者さんに必要な眼圧まで下げて、緑内障の進行を抑えることです。

iStentをすると点眼薬が減る?

iStentなどのMIGSでは、眼圧を下げるだけでなく、点眼薬の負担を軽減することも治療上のメリットになり得ます。

例えば、

手術前:緑内障点眼薬3剤
↓
iStentなどの手術
↓
手術後:1剤

といった経過もあり得ます。

点眼薬は毎日長期間使用する必要があるため、薬剤数が減れば、

  • 点眼の手間が減る
  • アドヒアランス改善が期待できる
  • 防腐剤などによる眼表面への負担を減らせる
  • 点眼薬による副作用を減らせる可能性がある

といったメリットがあります。

ただし、「iStentを入れたから点眼薬をやめてよい」という意味ではありません。

術後の眼圧や緑内障の状態を見ながら、眼科医が点眼薬を調節します。

術後に目薬が増えていてもおかしくない

もう一つ薬局で注意したいのが、術後の点眼処方です。

緑内障手術後には、緑内障治療薬とは別に、
抗菌点眼薬やステロイド点眼薬など
が処方されることがあります。

したがって、手術直後に点眼薬の本数が増えていても、
「手術をしたのに薬が増えた=手術がうまくいかなかった」
とは限りません。

緑内障治療のための点眼薬なのか、術後の感染・炎症を管理するための点眼薬なのかを区別して考える必要があります。

緑内障手術を「房水の流れ」で整理する

最後に整理します。

手術何をする?イメージ
線維柱帯切開術線維柱帯を切開する元の排水口を開ける
線維柱帯切除術結膜下への流出路を作る新しい排水路を作る
iStentなどのMIGS低侵襲に流出路を改善小さな抜け道を作る
チューブシャントチューブで房水を逃がす人工的な排水管を作る
毛様体光凝固房水産生を抑える水そのものを作りにくくする
水晶体摘出術隅角を広げる排水口周辺のスペースを広げる

緑内障手術は種類が多く、名前だけを覚えようとすると混乱します。

しかし、
「房水をどこから、どこへ流そうとしているのか?」
という視点で考えると理解しやすくなります。

特に薬局では、手術歴を知ることで、その後の点眼薬の変更理由が見えてくることがあります。

「手術後に緑内障点眼薬が3本から1本に減った」
という患者さんがいたとしても、それは不思議なことではありません。

iStentなどのMIGSを含め、緑内障手術には眼圧を下げるとともに点眼治療の負担を軽減できる可能性があります。

ただし、手術後も点眼薬が必要な患者さんは少なくありません。

緑内障手術のゴールは「点眼薬をやめること」ではなく、「必要な眼圧を維持して視野障害の進行を抑えること」。

この点を押さえておくと、緑内障手術と点眼治療の関係が理解しやすくなるでしょう。

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