2025年11月19日更新.2,666記事.

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コルヒチンが心膜炎に使われる理由 ― 痛風薬が炎症性心疾患に効く?

コルヒチンは心膜炎にも使われる? ― 炎症を抑える“古い薬”の新たな役割

「コルヒチン(Colchicine)」と聞くと、痛風発作に使う薬という印象を持つ方が多いでしょう。
しかし近年、この薬が急性心膜炎や再発性心膜炎にも有効であることが報告されています。
炎症を鎮めるという共通のメカニズムを活かし、心臓を包む膜の炎症にも応用されているのです。

今回は、心膜炎とコルヒチンの関係、使用の根拠、そして注意点について解説します。

心膜炎とは ― 心臓を包む膜に炎症が起きる病気

心膜炎とは、心臓の外側を覆う膜(心膜)に炎症が起きる状態を指します。
原因はウイルスや細菌感染、心筋梗塞後、腫瘍、外傷、膠原病など多岐にわたり、
なかでも「特発性(原因不明)」のケースが最も多いとされています。

主な症状
・胸の中央〜左胸にかけての鋭い胸痛
・発熱、全身倦怠感
・心膜摩擦音(聴診器で“ギュッギュッ”と聞こえる音)
・重症では心タンポナーデ(心膜に液体が溜まり心臓が圧迫される)

特発性心膜炎の15〜25%は数か月〜数年以内に再発するとされ、
この再発予防こそが治療上の大きな課題です。

治療の基本は「炎症を鎮めること」

急性心膜炎では、まず炎症と疼痛を抑える治療が中心となります。

・NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)[アスピリン、イブプロフェンなど]:炎症と痛みの抑制
・ステロイド[プレドニゾロンなど]:NSAIDsで不十分な場合に使用
・コルヒチン (痛風治療薬):再発予防・炎症の持続抑制

このうち、コルヒチンは再発を防ぐ目的で近年注目されています。
もともと痛風に用いられてきた薬ですが、心膜炎に対しても有効性が示されています。

コルヒチンとは ― 古くて新しい抗炎症薬

コルヒチンはユリ科植物イヌサフラン由来のアルカロイドで、
好中球の働きを抑えることで炎症を鎮める薬です。

作用のしくみ
・好中球の遊走(炎症部位への移動)を阻害
・微小管形成を抑制し、サイトカイン(IL-1β、IL-6など)の放出を抑える
・結果として炎症性反応全体を沈静化する

このような作用により、痛風発作ではもちろん、
好中球が関与する他の炎症性疾患(例:心膜炎)にも効果を示すことがわかってきました。

コルヒチンが心膜炎に使われる理由

心膜炎の炎症には、好中球が深く関与しています。
コルヒチンはこれらの細胞の過剰な反応を抑えるため、
再発性心膜炎の予防や急性期の炎症の軽減に有用と考えられています。

海外臨床試験の結果
2013年のICAP試験(N Engl J Med)では、
急性心膜炎患者にNSAIDs単独とNSAIDs+コルヒチンを比較したところ、
コルヒチン併用群で再発率が有意に低下(37.5% → 16.7%)しました。
この結果を受けて、欧州心臓病学会(ESC)では標準治療の一部として推奨しています。

投与量と治療期間の目安(海外ガイドラインより)

体重別の投与量
・70kg未満:0.5mgを1日1回服用
・70kg以上:0.5mgを1日2回服用

治療期間の目安
・急性心膜炎:3か月間
・再発性心膜炎:6か月間

このように、体格に応じて用量を調整し、疾患のタイプによって期間を設定します。
低用量で長期間継続するのが特徴で、治療終了後に再発する例もあるため、
症状によってはさらに延長される場合もあります。

副作用と注意点

コルヒチンは少量で効果を示しますが、副作用にも注意が必要です。

主な副作用
・下痢、腹痛などの消化器症状(もっとも多い)
・末梢神経障害、筋肉痛
・横紋筋融解症
・長期投与での血液障害(白血球減少、貧血など)
・肝・腎障害(高齢者や併用薬によるリスク上昇)

相互作用に注意すべき薬剤
・クラリスロマイシン、エリスロマイシン(代謝阻害)
・シクロスポリン、タクロリムス(排泄阻害)
・ベラパミル、ジルチアゼム(CYP3A4阻害)
・スタチン(筋障害リスク上昇)

特に腎・肝機能が低下している患者では慎重投与が求められます。

日本では「心膜炎への適応」は未承認 ― 忘れずに確認を

ここで注意しておきたいのが、
日本でのコルヒチンの効能効果は「痛風発作の緩解および予防」のみという点です。

つまり、心膜炎に対しては適応外使用となります。
海外ではガイドラインで標準治療として扱われていますが、
日本ではまだ承認されていないため、医師の判断に基づく使用になります。

患者に説明する際には、次のような伝え方が望ましいでしょう。

「海外では心膜炎にも使われていますが、日本では保険適用外の使用になります。
医師が効果と安全性を判断して慎重に用いる薬です。」

この一言で、患者の誤解や過信を防ぐことができます。

コルヒチンの新たな可能性

コルヒチンは痛風の薬として長い歴史を持ちますが、
近年では心膜炎、冠動脈疾患、心筋梗塞後の再炎症抑制など、
心血管領域における“抗炎症薬”としての再評価が進んでいます。

低用量でも炎症反応を穏やかにコントロールできる点が注目され、
今後さらに研究が進めば、適応拡大の可能性もあります。

まとめ

項目内容
対象疾患急性・再発性心膜炎
主な作用好中球の活動抑制、炎症性サイトカイン抑制
有効性再発率を半減させる報告あり(海外試験)
用量0.5mg/日(70kg未満)〜1mg/日(70kg以上)
治療期間急性3か月、再発6か月
主な副作用下痢、筋障害、肝腎障害など
日本での扱い心膜炎への使用は適応外(痛風のみ承認)

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