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正露丸で本当に下痢は治るのか?
公開. 更新. 投稿者:下痢/潰瘍性大腸炎.この記事は約4分45秒で読めます.
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正露丸で本当に下痢は治るのか?

整腸剤といえば乳酸菌などを思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、かつては「殺菌することで腸内を正常化する」という考え方が主流だった時代もありました。
その代表が、殺菌作用をもつ整腸薬「キノホルム」と「正露丸」に含まれる木クレオソートです。
しかし、現代では抗菌薬の使用により下痢が悪化することもあると知られており、「殺菌して下痢を止める」という発想に疑問を持つ人も増えています。本記事では、殺菌薬としてのキノホルムと正露丸の歴史と作用を対比しつつ、「正露丸で本当に下痢が治るのか?」という問いを科学的に検証します。
正露丸とその主成分:木クレオソートとは?
正露丸は100年以上の歴史をもつ、日本独自の下痢止め薬です。主成分である「木クレオソート」は、広葉樹を高温乾留して得られる天然由来の混合成分で、フェノール類を中心とした22種類の化合物を含んでいます。
代表的な成分には以下があります:
・グアイアコール
・クレオソール(4-メチルグアヤコール)
・フェノール
・p-クレゾール
・4-エチルグアヤコール
・o-クレゾール
これらには抗菌作用や鎮痛作用、消化管への穏やかな作用があり、腸内環境の改善に寄与するとされています。
正露丸はなぜ下痢に効くのか?
木クレオソートの作用は多岐にわたりますが、下痢に対しては主に以下のメカニズムが働くとされています:
● 腸管の蠕動運動を整える
木クレオソートは大腸のセロトニン受容体に作用し、過剰なぜん動運動を抑えることで、腸の動きを穏やかにし、便の排出を正常化します。
● 水分バランスを調整する
腸上皮の塩素イオンチャネルに作用して、水分分泌を抑制、吸収を促進します。これにより、腸内の過剰な水分による水様便が改善されます。
● 軽度の殺菌作用(静菌)
腸内で異常増殖している有害菌(特に食中毒菌)に対して静菌的に作用し、腸内フローラの正常化をサポートします。
キノホルムとの共通点と決定的な違い
「殺菌で下痢を治す薬」としては、かつて整腸剤として使われていた「キノホルム」があります。これは、ヨウ素を含む合成キノリン誘導体で、強い抗菌作用を持ち、細菌性下痢症や赤痢に使われていました。
項目 | 木クレオソート | キノホルム |
---|---|---|
成分の由来 | 木材の乾留による天然由来 | 合成薬 |
主な作用 | 静菌、鎮痛、腸管運動調整 | 抗菌、抗原虫作用 |
使用目的 | 下痢、食あたりなど | 赤痢、下痢など(整腸剤) |
副作用 | 軽微(高用量では胃腸障害) | 神経障害、視力障害(スモン) |
・類似点:どちらも殺菌を期待された整腸薬
・決定的な違い:安全性と薬害歴
キノホルムは長期使用により、スモン(SMON:亜急性脊髄視神経症)という薬害を引き起こしました。患者数は11,000人以上とされ、多くの方が神経障害、歩行障害、視覚障害を残す結果となりました。
一方、正露丸に含まれる木クレオソートは、適正使用下でそのような深刻な副作用は報告されていません。毒性評価においても、フェノール類の含有量は低く、生活環境中にも存在する程度の濃度であるため、危険視する科学的根拠は乏しいとされています。
抗菌剤が下痢を悪化させる理由
現代の医療では「抗菌薬が腸内細菌を乱すことで下痢を引き起こす」ことがよく知られています。
抗菌薬(例:セフェム系、マクロライド系、ペニシリン系など)は、善玉菌・悪玉菌を問わず腸内フローラを広範に破壊するため、次のような問題が起きやすくなります:
・抗生物質関連下痢(AAD)
・偽膜性腸炎(Clostridioides difficile感染)
・二次感染や便秘への移行
この観点から、”腸を殺菌することで下痢を治す”という考え方には、現代的な批判もあります。
正露丸の殺菌作用はマイルド?
正露丸は、抗生物質のように強力に腸内細菌を一掃するのではなく、
・腸内の有害菌の異常増殖を静菌的に抑える
・腸の運動を調整する
・水分バランスを整える
といった、比較的穏やかな作用にとどまります。つまり、「殺菌して治す薬」というよりは「腸の環境を調整する薬」に近い立ち位置で、抗菌薬による下痢とは真逆の方向性といえるでしょう。
虫歯やアクリノールとの関連:局所殺菌としての位置づけ
正露丸には「虫歯痛」への適応もあります。これは木クレオソートの鎮痛・抗菌作用による一時的な効果を狙ったものです。リバノール(アクリノール)などと同様に、殺菌薬としての位置づけですが、全身作用ではなく「局所でマイルドに効く」という性質が共通しています。
結論:殺菌で下痢は治るのか?そして正露丸の意義
殺菌作用を持つ薬が「必ずしも下痢を治すわけではない」ことは、抗菌薬の副作用からも明らかです。しかし、正露丸のような軽度の静菌作用をもつ薬剤は、
・腸内環境が一時的に乱れたとき
・食あたり、水あたり、軽い下痢の初期段階
には一定の効果が期待できます。
キノホルムによる薬害から学ぶべきことは、「殺菌という効果を過信しないこと」と「長期使用のリスク管理」、そして「患者の声に耳を傾ける体制の重要性」です。
正露丸はそれと同時に、古くから使われながらも薬理学的な再評価を経て、比較的安全な市販薬として今なお活用されています。
「殺菌することで腸が治るのか?」という問いに対しては、
・強い殺菌=リスクがある
・穏やかな静菌=補助的に有用
というバランス感覚を持って対応すべきでしょう。
3 件のコメント
人体には体によくない物が入ってくると、できる限り速く対外に出そうと作用するといわれているそうです。その機能を麻痺させて下痢を短期的に止めているのではないかという説もあります。それを実験的に確認できるといいのですが・・、食品添加物も体内蓄積性の無いものは早い段階で体外に排泄されるそうです。多分このことは実験で確認しやすいとおもいます。短時間で下痢を止めるのが体に良いことなのか確認する必要がある気がします。
「腸内を殺菌するよりも、善玉菌を増やす方向で整腸剤を投与したほうが理に適ってると思う。」というのは、例えばSIBOにかかっている人ではどうなるのでしょうか。そのような人では腸内を殺菌し腸内細菌の数を少しは減らしたりの方が良いのではないのかと思いますが。私なんかはおなかが張っていくので乳酸菌よりも正露丸の方が効果がありましたが・・・。
コメントありがとうございます。
そのような病気もあるのですね。勉強になりました。