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カルシウムで便秘になる?
公開. 更新. 投稿者:便秘/痔.この記事は約5分12秒で読めます.
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カルシウムで便秘になる?

「カルシウムを摂りすぎると便秘になる」という話を耳にしたことはありませんか?
確かに、カルシウムを含むサプリメントや薬を飲み始めてから便が出にくくなった、という相談は少なくありません。しかし、カルシウムは骨や歯の形成に不可欠な栄養素であり、不足すると骨粗鬆症などのリスクが高まります。
つまり、「便秘が怖いからカルシウムを摂らない」というのは本末転倒なのです。
ここでは、カルシウムと便秘の関係を科学的に整理し、食品・サプリ・医薬品それぞれの違いや注意点を、勉強します。
カルシウムとは ― 体内での役割と吸収の仕組み
カルシウムは体内に最も多いミネラルで、その約99%が骨や歯に存在します。残りの1%は、血液や細胞内で以下のような重要な働きをしています。
・筋肉の収縮や神経伝達の調整
・血液凝固(出血を止める仕組み)
・ホルモン分泌や細胞機能の維持
このため、カルシウムが不足すると筋肉のけいれん、骨密度低下、骨折リスクの増大など、さまざまな影響が生じます。
カルシウムは主に小腸の上部で吸収されます。吸収効率はおよそ20~30%で、食品の種類や体内のビタミンD濃度、年齢などによって変動します。特にビタミンDが十分にあると吸収が促進されます。
カルシウムと便秘 ― なぜ起こるのか?
① 吸収されなかったカルシウムが腸内に残る場合
カルシウムの吸収率が低い場合、吸収されなかった分が大腸まで届き、腸内で水分を吸着してしまいます。
その結果、便が乾燥して硬くなり、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)も低下して便秘につながると考えられています。
昔のカルシウム製剤は吸収率が低く、こうした影響が出やすいものでした。そのため、炭酸マグネシウム(便を柔らかくする作用を持つ)を併用してバランスを取っていたのです。
② 吸収率の高いカルシウムでは起こりにくい
近年のカルシウム製剤や食品由来のカルシウムは吸収率が高く、小腸でほとんど吸収されてしまいます。そのため、大腸まで残る量が少なく、便秘の原因になることは少なくなっています。
たとえば、乳製品のカルシウム(乳糖やカゼインリン酸ペプチドとの相互作用によって吸収率が高い)は便秘を起こしにくく、むしろ腸内環境を整える効果が期待されます。
食品のカルシウムは便秘の心配なし
牛乳、ヨーグルト、小魚、小松菜、豆腐など、食品に含まれるカルシウムは自然の形で存在しており、吸収効率が良好です。
これらを通常の食事から摂る分には、便秘の心配はほとんどありません。
また、乳製品に含まれる乳糖や脂肪分が腸の動きを助けるため、むしろ排便を促す方向に働くこともあります。
したがって、「牛乳を飲むと便秘になる」と感じている場合は、カルシウムではなく、乳糖不耐症(乳糖を分解できない体質)による腹部膨満感やガスの影響であることが多いです。
サプリメントや医薬品では注意が必要
カルシウムを錠剤や粉末として摂る場合、食品とは異なる点に注意が必要です。
● 摂取量が多くなりやすい
サプリメントや処方薬では、一度に数百mgのカルシウムを摂取することが可能です。
日本人の1日の推奨摂取量(成人女性:約650mg)を簡単に上回ってしまうこともあります。
一度に大量に摂取すると吸収効率が低下し、吸収されなかったカルシウムが大腸に残って便を硬くしてしまう可能性があります。
● 吸収率と副作用の関係
医薬品に使われるカルシウムには、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、グルコン酸カルシウム、アスパラギン酸カルシウムなどがあります。
この中で炭酸カルシウムは吸収率が低めで、便秘を起こしやすいとされます。
一方で、有機酸カルシウム(アスパラCaなど)は吸収率が高く、便秘を起こしにくいといわれます。
医薬品における便秘の記載
実際に医薬品の添付文書を確認してみると、カルシウムの種類によって副作用の傾向が異なります。
アスパラギン酸カルシウム(アスパラCa)
副作用頻度:0.1〜5%未満
主な症状:腹部膨満感、胸やけ、軟便
→ 便秘の記載はなく、むしろ軟便の傾向。
炭酸カルシウム(カルタン錠など)
副作用頻度:5%以上または頻度不明
主な症状:便秘、下痢
→ 吸収されなかったカルシウムが腸に残ることで、便秘が生じることも。
このように、同じカルシウムでも「どの化合物として摂取するか」で副作用の出方が変わります。
ビタミンD製剤と便秘 ― 間接的な影響
カルシウムの吸収を高める目的でビタミンD製剤(アルファカルシドールなど)が処方されることがあります。
この場合、カルシウムの吸収効率が上がるため、血中カルシウム濃度が高くなりすぎる(高カルシウム血症)ことがあります。
高カルシウム血症になると、食欲不振、悪心・嘔気、倦怠感、便秘などが生じます。
これは腸管や腎臓での水分バランスが変化することによるもので、ビタミンD自体が便秘を引き起こすというより、カルシウム過剰の結果として現れる副作用です。
実際に「ワンアルファ®(アルファカルシドール)」の副作用欄には以下のように記載されています。
・消化器(0.1~5%未満):食欲不振、悪心・嘔気、下痢、便秘、胃痛
つまり、カルシウムとビタミンDは連動して働くため、両方を同時に摂取している場合は、体内のカルシウムバランスに注意する必要があります。
薬との飲み合わせにも注意
カルシウム製剤は他の薬と相互作用を起こすことがあります。特に次の薬とは要注意です。
・ジギタリス製剤(心不全の治療薬)
→ カルシウムが作用を増強し、不整脈のリスクが上昇。
・ニューキノロン系抗菌薬(レボフロキサシンなど)
・テトラサイクリン系抗菌薬(ミノサイクリンなど)
→ カルシウムと結合して吸収が阻害され、効果が低下。
したがって、抗菌薬を服用する際はカルシウム製剤と時間をずらして服用(少なくとも2時間以上)することが推奨されます。
カルシウムを安全に摂取するポイント
基本は食事から
乳製品、小魚、野菜、豆腐などからバランスよく摂取。
サプリメントは不足分を補う程度に
1日の摂取目安量(成人:650mg前後)を超えないように。
水分と食物繊維を意識して便秘を防ぐ
カルシウムを摂るときは、野菜や海藻類などの食物繊維、十分な水分摂取も忘れずに。
マグネシウムとのバランスが大切
マグネシウムには腸の蠕動を助ける働きがあり、カルシウム過剰による便秘を緩和してくれます。
「カルシウム:マグネシウム=2:1」程度が理想的といわれます。
まとめ ― カルシウムは悪者ではない
カルシウムが便秘を引き起こすのは、「吸収されなかったカルシウムが大腸に残る場合」や「過剰摂取した場合」に限られます。
食品から摂る分には心配なく、サプリメントや薬を利用する際に摂取量と吸収率を意識することが大切です。
薬剤師としての立場から言えば、カルシウム不足の方が問題になるケースのほうが圧倒的に多いです。
「カルシウムを摂ると便秘になる」という印象だけで摂取を避けてしまうと、骨粗鬆症や骨折のリスクを高めることにもなります。
正しい知識とバランスのとれた摂取を意識し、カルシウムを“味方”にして健康を守っていきましょう。