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患者に処方せんのコピーを渡してもいいか?
公開. 更新. 投稿者:薬局業務/薬事関連法規.この記事は約5分44秒で読めます.
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処方せんのコピーを患者に渡してもよい?薬局業務と個人情報保護の視点から考える

薬局で日々業務を行っていると、患者さんから様々な要望や質問を受けます。その中でも、「処方せんのコピーをもらえますか?」という問いかけに戸惑った経験がある薬剤師の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一見単純に思えるこの要望ですが、処方せんは医療情報を含む重要書類であり、法的根拠や個人情報保護の観点を踏まえた慎重な対応が必要です。処方せんコピーに関する法令や実務のポイントを整理し、薬局現場でどのように対応すべきかを考えます。
処方せんは誰のもの?
そもそも処方せんとは、医師などの保険医が患者に対して発行する診療命令書です。薬局は処方せんに基づいて調剤を行い、保険請求に必要な書類として管理します。
しかし、処方せんは患者が受診後に医療機関から交付されるものであり、患者本人に帰属する重要な医療記録という側面も持っています。つまり「処方せんの原本を保管するのは薬局だが、その情報は患者本人のものである」という二重の性格があるのです。
患者から「処方せんのコピーがほしい」と言われたら?
患者さんが処方せんのコピーを求める理由は様々です。
・家族や介護者に服薬内容を説明したい
・別の医療機関に受診歴を伝えたい
・自分で記録として残したい
このような正当な理由で求められることも少なくありません。
法令上、処方せんのコピーを患者に交付すること自体は禁じられていません。
むしろ、患者本人が自己情報を把握する権利は「個人情報保護法」で認められています。したがって、薬局としても特段問題なく対応できます。
個人情報保護法との関係
2005年(平成17年)4月から「個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)」が全面施行され、薬局は個人情報取扱事業者として、患者の個人情報を保護する義務を負っています。
患者から「自分の個人情報を開示してほしい」と求められた場合は、法令上原則として応じる必要があります。
この開示には一定の手続きを踏むことが必要です。
例:
・本人確認(保険証、運転免許証など)
・開示請求の申請書
・開示の記録保管
開示請求に対する不当な拒否は、患者の権利侵害になりかねません。
ただし、例外として第三者(家族や代理人)が開示を求める場合には、代理権を証明する書類(委任状など)が必要です。
注意すべき点:疑義照会の記録やコメント
処方せんのコピーには、場合によっては疑義照会の記録や薬剤師のコメントが書き込まれていることがあります。
例えば:
・医師に用量確認した経緯
・他剤との相互作用の確認結果
・患者への指導内容
これらは診療内容に関わるセンシティブ情報であり、患者自身にとっても重要です。しかし、内容によっては誤解を生むリスクがあります。特に疑義照会の結果が処方医の判断と異なる印象を与える場合、患者と医療機関との信頼関係に影響する可能性もあります。
そのため、開示前に以下を確認しましょう。
・処方内容と調剤結果が一致しているか
・開示する情報に不正確な記載がないか
・内容を正しく説明できる準備があるか
万一、内容の説明に不安がある場合は、上司や管理薬剤師と相談することが大切です。
処方せんコピーの発行手順(薬局での運用例)
薬局ごとに運用は多少異なりますが、一般的な流れは次の通りです。
●患者本人の要望を確認
・理由を丁寧に聞き、誤解のないように説明。
●本人確認
・保険証や身分証を確認し記録。
●開示手続きの書類
・開示申請書など所定の様式を記入。
●コピーの作成
・原本を正確に複写。
・不要な個人情報(他の患者の情報など)が混入していないか確認。
●説明・交付
・内容を簡単に説明し、誤解を防ぐ。
●記録保管
・開示履歴を一定期間保存。
このような手続きを標準化しておくと、職員間でも対応が統一され、患者への安心感にもつながります。
よくある質問
Q. 患者が「コピーではなく原本を返してほしい」と言った場合は?
→ 調剤済の処方せんは保険請求の証拠書類として3年間の保存義務があります(健康保険法施行規則)。
原本を返却することはできません。
Q. 家族が代理でコピーを欲しいと依頼した場合は?
→ 家族であっても本人の委任状や代理権確認が必要です。個人情報保護の観点からも厳格に対応しましょう。
Q. コピーの交付に手数料は取れる?
→ 法令上手数料を取っても禁止はされていませんが、患者負担を求める場合は事前に説明し、同意を得る必要があります。自治体や保険者の指導に沿って対応してください。
患者応対の心構え
患者にとって、処方せんの内容は自分の治療経過を知る大事な情報です。
「患者の権利として、知ることができる」「薬局はその支援をする」という姿勢が求められます。
一方で、個人情報の保護や正確な情報管理は、薬局としての責務です。この両立を意識しながら、患者と信頼関係を築くことが大切です。
まとめ
・処方せんのコピーを患者に渡すことは、法令上禁止されていない
・個人情報保護法に基づき、患者本人の開示請求には原則応じる必要がある
・誤解やトラブルを防ぐため、適切な手続きを定める
・家族や代理人の場合、本人の同意や委任状が必要
・開示履歴の記録と説明責任を忘れない
患者の「知る権利」と薬局の「個人情報保護」を両立させるには、日頃からの運用ルールの整備と職員教育が重要です。
「処方せんのコピーが欲しい」
Q.先日、処方せんを持ってきた患者から「処方せんのコピーが欲しい」といわれました。
このような場合、調剤済みの処方せんのコピーを渡しても構わないのでしょうか。
法令上、特に問題はないのでしょうか。
A.患者が調剤済みの処方せんを必要とする理由はわかりませんが、そもそも処方せんは患者が薬局に持参するものです。
また法令上、調剤済みの処方せんの開示を禁止しているものではありませんので、特段問題はないものと考えられます。
ただし、疑義照会の内容が記入されている場合には、治療に際して支障がないことなどを十分確認したうえで開示に応じる必要があるでしょう。
また、平成17年4月1日より、「個人情報の保護に関する法律」が全面施行されています。
個人情報取扱事業者(薬局)としては、利用者(患者)から保有個人データについて開示するよう求めがあった場合には、法令上、その開示要求に応じなければなりません。
調剤済みの処方せんを開示する際は、その薬局で定めている必要な手続き(開示請求のための申請書類など)に沿って、適切に応じることが必要です。
参考書籍:保険調剤Q&A平成22年版