脱毛症にオルミエントが効く？

円形脱毛症とオルミエント

オルミエント（バリシチニブ）はヤヌスキナーゼ（JAK）阻害剤という免疫抑制剤です。

「関節リウマチ」や「アトピー性皮膚炎」に適応を持ち、最近では2021年4月に「SARS-CoV-2による肺炎」、2022年6月に「円形脱毛症」に対しても適応を取得しました。
一見関係なさそうなこれらリウマチ、アトピー、肺炎、脱毛といった疾患に共通しているのがサイトカインです。

サイトカインは、炎症の重要な調節因子で細胞から分泌される低分子のタンパク質の総称です。
サイトカインには、インターロイキン、ケモカイン、インターフェロン、腫瘍壊死因子（TNF）などがあります。

新型コロナウイルス感染症では、サイトカインストームという言葉を報道でよく耳にしました。

ヤヌスキナーゼ（JAK）は細胞のなかでサイトカイン受容体に結合し、サイトカインによる刺激を下流に伝える重要な酵素です。
ちなみに、ヤヌスと聞くと昔の大映ドラマの「ヤヌスの鏡」を思い出しますが、ヤヌスはローマ神話に登場する前と後ろに反対向きの2つの顔を持つ双面神で、サイトカイン受容体の前後に位置する状態がヤヌスに酷似している事がネーミングの由来とされています。

しかし、オルミエントの薬価は4㎎錠で、5274.9円／錠とかなり高価である。円形脱毛症の心理的負担はわかるが、よく適応を取れたなあと思う。
ただし円形脱毛症とは言っても、よくある10円ハゲレベルではなく「本剤投与開始時に、頭部全体の概ね50%以上に脱毛が認められ、過去6ヵ月程度毛髪に自然再生が認められない患者に投与すること。」となっており、頭部の50％以上脱毛している状態が適応であるので、もはや円形ではないレベルの円形脱毛症が適応となっている。

円形脱毛症の原因

円形脱毛症は、約50人に1人の割合で起きるといわれる身近な疾患です。

円形脱毛症の発症の原因には諸説（ストレス説、感染説、内分泌異常説、毛周期障害説、遺伝説、自己免疫説）がありますが、最も有力視されているのが「自己免疫説」です。

円形脱毛症の患者には、甲状腺疾患や尋常性白斑など自己免疫疾患の罹患者が多いです。
さらに、病巣では成長期毛の毛包周囲に多数のリンパ球が浸潤していることなどから、この説が支持されています。

すなわち、成長期毛由来の何らかの自己抗原にＴリンパ球が反応し、産生されたサイトカインにより、成長期毛が障害されて休止期に移行すると考えられています。

円形脱毛症の多くは、何の兆候もなく突然、円形の脱毛斑が生じる。
脱毛が進行している部分には、切れ毛や､毛髪の根元が細くとがった毛、毛孔に毛が詰まった状態の黒点などが認められる。また患者の約4分の1で、爪甲に点状陥凹や横溝が見られる。単発性の典型例であれば自然治癒が高率で期待できるが、広範囲に生じる脱毛や治療に抵抗を示す難治性の症例、再発を繰り返す症例も少なくない。

薬物療法としては、外用薬ではステロイドや局所血流改善薬のカルプロニウム塩化物(フロジン)、内用剤ではセファランチンやグリチルリチン（グリチロン）が用いられる。
補助療法として、漢方薬の柴胡加竜骨牡蛎湯、補中益気湯などが加えられることもある。
アトピー性皮膚炎合併例では、抗アレルギー薬が使用されることも多い。
しかし、アトピー性皮膚炎を合併しない円形脱毛症や脱毛病変面積が50％前後の広範囲にわたるような症例でも、第2世代抗ヒスタミン薬であるエバスチン（エバステル)が奏効したとの報告がある。

円形脱毛症における脱毛部の病理組織像では、毛包周囲、毛包内、血管周囲に、リンパ球とともに肥満細胞の浸潤が認められる。
このため円形脱毛症の発症には、肥満細胞が重要な役割を果たしていると考えられている。
この肥満細胞に免疫グロブリンE抗体(IgE)が結合すると、そこからヒスタミンをはじめとする種々のケミカルメディエーターが放出され、様々な臨床症状を引き起こすことが知られている。
これに対しエバステルは、末梢血単核細胞に対するIgE産生抑制作用や、肥満細胞に対するヒスタミン遊離抑制作用を有するため、円形脱毛症に有効に働くと考えられている。
なお、円形脱毛症の治療効果を判定する基準に定まったものはないが、一つの治療法につき3カ月程度を目安に効果を判定し、治療を進めていくのが一般的なようである。

ストレスと脱毛

このほか、遺伝的素因や精神的ストレスも、円形脱毛症の発症にある程度関与するとされています。
家族内の発症が２０％程度にみられ、円形脱毛症患者の２０～４０％に急激な不安や精神的ショックなどがあったとする報告もあります。

精神的ストレスは免疫異常を起こすといわれ、円形脱毛症の誘因となる可能性が指摘されています。

「ストレスで薄毛になる」というのは、よく言われる説ですが、ストレスは誰にもあるものです。
薄くなり始めた時期とストレスを感じた時期が丁度重なっただけということかも知れません。

AGAではありませんが、円形脱毛症はストレスが原因、という説がまかり通っています。
1995年の阪神淡路大震災の時に、ストレスと薄毛の関係を調べた皮膚科医がいましたが、薄毛になった人が増えたという結果は見られませんでした。
ストレスは直接的には影響しないという医師もいます。

円形脱毛症と育毛剤

円形脱毛症に育毛剤は効かないと聞いたことがあります。

育毛剤のNFカロヤンガッシュの効能効果には、以下のものが書かれています。
■壮年性脱毛症、円形脱毛症、びまん性脱毛症、粃糠（ひこう）性脱毛症
■発毛促進、育毛、脱毛（抜毛）の予防、薄毛
■ふけ、かゆみ
■病後・産後の脱毛
円形脱毛症にも効くようです。

塩化カルプロニウム入ってるのなら、フロジン外用液と同じですね。
リアップの効能効果は壮年性脱毛症なので、円形脱毛症には効かないとされています。

円形脱毛症とステロイド

円形脱毛症では、副腎皮質ホルモン、塩化カルプロニウム外用やセファランチン内服を患者に合わせて選択します。

なお、副腎皮質ホルモン剤外用では、副作用として毛嚢に一致して丘疹や膿疱を生じることがあります。
このようなステロイドざ瘡の部位には外用を中止する必要があります。
重症例では副腎皮質ホルモンの内服や点滴を行うこともあります。