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プロスタンディン軟膏で出血しやすくなる?
公開. 更新. 投稿者:褥瘡.この記事は約4分40秒で読めます.
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治癒促進薬の影にある「出血」というリスク

創傷治療に用いられる外用薬の中で、「プロスタンディン軟膏(一般名:アルプロスタジルアルファデクス)」は、血流を増加させることで創傷の治癒を促進する薬剤として広く使用されています。とくに褥瘡(床ずれ)や熱傷(やけど)、皮膚欠損創などに対して有効です。
しかしその一方で、「プロスタンディン軟膏を使ったら出血しやすくなった」という声が現場から聞かれることもあります。
プロスタンディン軟膏の基本情報
●有効成分:アルプロスタジルアルファデクスとは
プロスタンディン軟膏の主成分であるアルプロスタジルアルファデクスは、プロスタグランジンE₁(PGE₁)誘導体の一種です。PGE₁には強力な血管拡張作用があり、もともとは循環器系の治療に使用されていた経緯があります。
外用薬として皮膚に塗布することで、以下のような作用が期待されます:
・皮膚血流の増加
・血管新生の促進
・肉芽形成の促進
・上皮形成の促進
・創傷治癒促進
・熱傷や皮膚潰瘍の改善
これらの作用により、血流の悪い部位でも治癒が進みやすくなり、創面の再生が促進されます。
出血を助長する理由とは?
プロスタンディン軟膏には「出血を助長するおそれがある」という副作用上の注意が記載されています。これには血流改善作用が裏目に出る可能性があるためです。
禁忌に記載されている「出血リスク」
添付文書には、以下のような禁忌事項があります:
出血(頭蓋内出血、出血性眼疾患、消化管出血、喀血等)している患者には使用しないこと。〔出血を助長するおそれがある〕
つまり、すでに出血傾向のある患者には、血流促進による出血悪化が懸念されるため、使用が禁じられています。
実臨床でみられる出血傾向
創傷部位では、肉芽形成や血管新生が進行中です。そこにプロスタンディン軟膏を塗布すると、新しく形成された細い血管(新生血管)が刺激に弱く、出血しやすくなることがあります。
添付文書にも次のような注意喚起がなされています:
潰瘍の改善に伴って形成される新生肉芽は、軽微な刺激により新生血管が損傷し、出血症状を招くことがあるので、ガーゼの交換等の処置は十分注意して行うこと。
特に、ガーゼを剥がすときの刺激や、ドレッシング材の交換、患者自身の体動などによって、予期せぬ出血が起こるケースがあります。
出血しても使用継続してよいのか?
ここで問題となるのが、プロスタンディン軟膏による治癒促進効果と、出血リスクとのバランスです。
軽度の滲出血なら問題ないことも
プロスタンディン軟膏は「治癒を促進する薬」です。使用によって多少の出血がみられても、それが新生血管の活発な再構築に伴う生理的な現象であり、治癒過程の一環である場合もあります。
たとえば、褥瘡や熱傷の処置中に、血がにじむ程度の軽微な出血がみられたとしても、その後の治癒が順調に進むならば、継続使用は差し支えないことが多いとされています。
しかし、中等度以上の出血では中止を検討
一方で、添付文書には次のような記載もあります:
出血傾向が認められることがあるので、本剤を使用して出血傾向が増強した場合は、本剤の使用を中止すること。
つまり、「以前より明らかに出血傾向が強まった」「ガーゼが血まみれになる」といった場合には、いったん使用を中止し、医師に相談することが推奨されます。
創傷管理時の注意点
ガーゼ交換時のポイント
・剥離時に強い摩擦を与えないよう、湿潤を保った状態で交換
・創部が乾燥している場合は、ガーゼが癒着しないよう潤いを保つ
・出血があった場合、無理に拭き取らず、圧迫止血を基本に
他の外用薬との併用は?
プロスタンディン軟膏は他の抗菌薬軟膏や保湿剤と併用されることがあります。ただし、出血のリスクがある患者や部位では、軟膏層が厚くなりすぎないように注意が必要です。軟膏の厚塗りはガーゼとの密着を強くし、剥がす際の出血を助長することもあります。
患者説明のポイント
プロスタンディン軟膏を使用する際は、患者や介護者への説明も重要です。
説明例:
「この薬は血流を良くして、傷を治りやすくしますが、そのため血がにじむことがあります」
「少しの出血なら心配いりませんが、血が多い、なかなか止まらないときは教えてください」
「ガーゼ交換のときに強くこすらず、やさしく扱ってください」
といった形で、出血の可能性とその対処法をあらかじめ伝えておくことが望まれます。
まとめ:プロスタンディン軟膏の利点とリスクを正しく理解する
プロスタンディン軟膏は、創傷治癒促進において非常に優れた薬剤であり、褥瘡や熱傷、皮膚潰瘍において臨床的な恩恵は大きいものです。
しかし、血流を増やすという作用の裏には、出血リスクが隠れていることを忘れてはいけません。
使用にあたっては、創部の状態や出血傾向の有無を見極める観察眼と、適切な処置手技が求められます。
今後も臨床現場で安全に活用していくためには、薬剤の特性を理解し、患者やスタッフへの説明を丁寧に行うことが何より大切です。