2025年11月19日更新.2,666記事.

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てんかんにビタミンB6が効く?

てんかんにビタミンB₆が効く? ― 点頭てんかんとの関係

てんかんというと、抗てんかん薬(バルプロ酸、フェニトイン、カルバマゼピンなど)で治療するイメージが強いでしょう。
しかし実は、一部のてんかん発作にビタミンB₆(ピリドキシン)が有効な場合があります。

特に「点頭てんかん(ウエスト症候群)」の一部や「ビタミンB₆依存性てんかん」では、
通常の抗てんかん薬が効かず、ビタミンB₆投与で発作が劇的に改善することが知られています。

てんかんとは ― 脳の電気信号の暴走

てんかん(epilepsy)は、脳内の神経細胞が異常に興奮し、過剰な電気活動が繰り返し起こる病気です。
その結果、けいれん、意識障害、自動症など多様な症状を呈します。

てんかん発作を引き起こす要因はさまざまで、
・遺伝的素因
・脳形成異常
・低酸素脳症
・外傷・感染後の瘢痕
・代謝異常
などが挙げられます。

この中の「代謝異常」によるてんかんの一部が、ビタミンB₆欠乏や依存性と関連しています。

点頭てんかんとは ― 乳児期に特有のてんかん症候群

「点頭てんかん(ウエスト症候群)」は、乳児期(生後3〜12か月頃)にのみ発症する特殊なてんかん症候群です。
乳児の脳は急速に発達する時期であり、その成熟過程に障害が起きることで発症すると考えられています。

症状の特徴
・頭を前に「カクン」とうなずくような動き(点頭発作)
・手足を突っ張る、または全身を丸めるような発作
・1回数秒程度の発作が1日に何十回も起こる
・EEG(脳波)では「ヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)」という特徴的な異常波形

原因と予後
脳形成異常、周産期障害、感染、代謝異常などさまざまな原因があり、
原因不明(特発性)のケースも少なくありません。
治療が遅れると発達遅滞や知的障害を残すことが多く、予後は不良とされています。

点頭てんかんの治療 ― ACTH療法が基本

点頭てんかんの治療では、最も効果が高いとされるのが副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)療法です。

ACTH療法の概要
・使用薬:テトラコサクチド酢酸塩注射剤(コートロシンZ)
・投与方法:1日1回、午前中に筋肉内注射
・治療期間:通常2〜6週間
・効果:8割以上の患者で発作が一度は消失すると報告されています。

この効果が、ステロイド分泌促進によるものか、ACTH自体の神経作用によるものかは明確ではありません。
しかし、副作用として脳萎縮・心肥大・高血圧などが出ることがあるため、
多くの症例ではまず他の治療(ビタミンB₆や抗てんかん薬)を試すことがあります。

ビタミンB₆大量投与療法 ― 点頭てんかんの一部に著効

ビタミンB₆(ピリドキシン)の役割
ビタミンB₆は、アミノ酸代謝や神経伝達物質の合成に関与する重要な補酵素です。
特に、抑制性神経伝達物質GABA(γ-アミノ酪酸)の生成に必要不可欠です。

そのため、B₆が不足したり働かなくなると、
脳内の興奮が抑えられなくなり、けいれん発作が起こる可能性があります。

点頭てんかんでの使用
点頭てんかんでは、ACTH療法の前に試みられる治療として、
活性型ビタミンB₆(ピリドキサールリン酸エステル水和物)の大量投与療法があります。

・投与量:体重1kgあたり1日10〜30mg
・効果がなければ40〜50mg/kgまで増量することもある
・有効例では数日で脳波が改善し、発作回数も減少する

報告によれば、点頭てんかん患者の約1割に著効します。
有効例ではそのまま維持投与が継続されます。

ビタミンB₆依存性てんかんとの違い

点頭てんかんにビタミンB₆が効くと聞くと、混同されやすいのが「ビタミンB₆依存性てんかん」です。

ビタミンB₆依存性てんかんとは
・新生児期に発症するまれな先天性代謝異常。
・ALDH7A1遺伝子の異常により、GABA合成に必要な酵素が働かない。
・通常の抗てんかん薬では無効だが、ビタミンB₆で発作が劇的に改善。
・治療をやめると再発するため、生涯にわたりビタミンB₆を継続投与する。

点頭てんかんとの違い
点頭てんかんは脳の成熟障害や構造異常に起因する症候群であり、
ビタミンB₆依存性てんかんは代謝異常による単一疾患です。

ただし、乳児期のけいれん発作では両者が似た症状を示すため、
B₆投与試験(ピリドキシンテスト)を行って反応を確認することが推奨されています。

ビタミンB₆欠乏によるけいれん ― 栄養や薬剤も関与

B₆欠乏とけいれん
ビタミンB₆は肉や魚に多く含まれており、通常の食生活では不足しにくい栄養素です。
しかし、欠乏すると神経伝達物質GABAの合成が低下し、けいれんやてんかん様発作を起こすことがあります。

ギンナン中毒との関連
ギンナンを大量に食べてけいれんを起こすことがありますが、
その原因物質は4-メトキシピリドキシン(MPN)という成分です。
MPNはビタミンB₆に構造が似ており、B₆の働きを妨げる(拮抗する)ことで発作を誘発します。

したがって、ギンナン中毒は「ビタミンB₆欠乏と同じ状態」を一時的に引き起こすと考えられています。

ビタミンB₆と抗てんかん薬の相互作用

ビタミンB₆は一見「栄養補助」で安全そうに思えますが、
抗てんかん薬との相互作用に注意が必要です。

フェニトイン・フェノバルビタールとの関係
ピリドキシンを1日200mg以上摂取すると、
フェニトインやフェノバルビタールの血中濃度を下げる可能性が報告されています。

これはB₆が薬物代謝酵素を活性化することで、薬の代謝が早まるためと考えられます。
そのため、自己判断での高用量サプリ摂取は避けるべきです。

まとめ ― ビタミンB₆は一部のてんかんに有効

項目内容
ビタミンB₆依存性てんかん新生児期発症。B₆で劇的改善。代謝異常が原因。
点頭てんかん(ウエスト症候群)乳児期発症。B₆が有効な例は一部。まずACTH療法。
B₆欠乏・拮抗物質欠乏やギンナン中毒でけいれん発作を起こすことがある。
相互作用B₆大量摂取でフェニトイン・フェノバルビタール濃度低下の報告。

おわりに

ビタミンB₆は、一般的なてんかん治療薬ではありません。
しかし、「B₆依存性てんかん」や「B₆が有効な点頭てんかん」など、限られた条件下で極めて重要な役割を果たします。

栄養素としてのビタミンB₆と、薬としてのピリドキサールリン酸製剤は全く別の意味を持ちます。
ビタミンだからといって安全・万能ではなく、適応と用量を守って使用することが大切です。

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