2025年11月16日更新.2,666記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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目薬でめまい?点眼薬による全身性副作用と姿勢による影響

目薬でめまい?

「目薬をさしたあとに、なんだかふらっとする」「目薬を点した直後に立ちくらみのような感覚がある」。
そんな経験をしたことはないでしょうか?

一般に「目薬=局所的な薬」と思われがちですが、実は一部の点眼薬では全身に吸収されることで「めまい」や「ふらつき」が起こることがあります。
とくにβ遮断薬の点眼薬(チモプトール®、リズモン®、コソプト®など)では、このような副作用が報告されています。

β遮断薬の点眼薬とめまい

● チモプトール(チモロール)とは
チモプトール®は「チモロールマレイン酸塩」という成分を含む、β遮断薬系の点眼薬です。
主に緑内障や高眼圧症の治療に使われ、房水の産生を抑制して眼圧を下げる作用があります。

一見すると「目だけに効く薬」と思われますが、点眼薬の一部は涙道(鼻涙管)を通って鼻粘膜から吸収されるため、少量ながら全身に影響を及ぼすことがあります。

● β遮断薬による全身性副作用
β遮断薬はもともと血圧や脈拍を下げる薬として内服薬でも使用されています。
点眼薬であっても、体内に吸収されれば同様の作用が現れる可能性があります。

代表的な副作用は次のとおりです。

・めまい、ふらつき
・徐脈(脈が遅くなる)
・低血圧
・呼吸困難、気道狭窄
・倦怠感、冷え

特に高齢者や心疾患・呼吸器疾患(喘息・COPDなど)のある方では、少量の吸収でも症状が強く出やすいため注意が必要です。

● めまいのメカニズム
β遮断薬による「めまい」は、主に血圧低下が関与しています。
血圧が下がると、脳への血流が一時的に減少し、立ちくらみやふらつきとして感じられます。

また、脈拍が遅くなる(徐脈)ことでも、脳血流量が減少し、眼前暗黒感(視界が暗くなる感覚)を生じることもあります。

これは内服薬と同じ現象であり、点眼薬でも全身への影響を無視できません。

点眼後の「めまい」を防ぐための基本 ― 涙嚢圧迫法

● 目頭を押さえる理由
点眼薬をさしたあと、目を閉じて目頭(鼻寄りの内眼角)を指で軽く押さえるように指導されることがあります。
これは「涙嚢圧迫法」または「鼻涙管圧迫法」と呼ばれるもので、全身への薬の流出を防ぐ重要な手技です。

目から鼻へと続く鼻涙管を一時的に塞ぐことで、点眼液が鼻粘膜や消化管に流れて吸収されるのを防ぎ、
結果として全身性副作用のリスクを下げることができます。

● 正しい方法
・点眼後、目を閉じる(まばたきはしない)
・人差し指で両目の目頭部分(鼻寄り)を軽く押さえる
・そのまま1〜2分程度保持する

この方法により、血圧低下・徐脈・めまいなどのリスクをある程度軽減できます。

ただし、β遮断薬の場合、完全に防ぐことは難しいことも知られています。
涙嚢圧迫を行っても、わずかな吸収で作用が出るほど薬効が強いためです。

点眼時の姿勢と「立ちくらみ」

● 立ったままの点眼でめまい?
特に高齢者で多いのが、「立って目薬をさしたあとにふらつく」「姿勢を戻すとクラッとする」というケースです。
この場合、単に薬の副作用だけでなく、姿勢による血流変化も関係しています。

● 椎骨脳底動脈循環不全とは
脳への血流は、主に「内頚動脈系」と「椎骨脳底動脈系」という2つのルートで供給されています。
後者の椎骨脳底動脈系は、首の骨(頚椎)の中を通るため、首の曲げ伸ばしや回旋で血流が一時的に遮られることがあります。

この血流低下によりめまいが起こる状態を「椎骨脳底動脈循環不全」と呼びます。

典型的には以下のような状況で誘発されます。

・上を向いて点眼しようと首を反らす
・下を向いて長時間固定する
・首をひねった状態で点眼する

このような姿勢変化で一時的に脳への血流が減少し、
回転性めまい、浮動感、意識の一瞬の遠のき、しびれ、吐き気などが出ることがあります。

● 椎骨脳底動脈循環不全が起こりやすい人
・50歳以上の中高年
・動脈硬化、高血圧、糖尿病、高脂血症のある人
・頚椎症、ストレートネックなど頚椎の変形がある人
・首や肩のこりが強い人

これらの人では、点眼動作そのものが「めまい誘発のきっかけ」となることがあるため、
無理な体勢を避けることが重要です。

めまいを防ぐ点眼姿勢の工夫

● 仰向けで点眼する
椎骨脳底動脈循環不全のリスクを下げるには、
首を曲げずに済む姿勢=仰臥位(仰向け)で点眼するのが最も安全です。

・ベッドやソファに仰向けになる
・枕を外して首をまっすぐ保つ
・点眼後はそのまま数分安静にする

この方法で、首を強く反らす必要がなくなり、血流の安定が保たれます。
特に高齢者や血圧変動のある方には有効です。

● 座位で行う場合の注意
椅子に座って点眼する場合も、頭を後ろに倒しすぎないよう注意します。
軽く上を向く程度で十分です。
もしふらつきを感じたら、すぐに頭を起こして深呼吸し、座ったまま休みましょう。

β遮断薬以外でも注意が必要な目薬

β遮断薬以外にも、全身に影響を及ぼす可能性のある点眼薬があります。

・ブリモニジン(α2刺激薬) アイファガン®:眠気、倦怠感、低血圧 中枢抑制作用あり
・抗ヒスタミン点眼薬 パタノール®など:眠気、頭痛 稀に全身吸収あり

これらの薬でも「なんとなく体がだるい」「立ちくらみがある」といった症状が出ることがあり、
特に複数の点眼薬を併用している場合には注意が必要です。

点眼後の異常を感じたら

もし点眼後に以下のような症状が続く場合は、自己判断せず医師・薬剤師に相談してください。

・めまい、立ちくらみ、息苦しさ
・胸の圧迫感や脈が遅い感じ
・視界が暗くなる、ふらふらする
・咳や喘息様の症状が出る

これらは点眼薬による全身性副作用の可能性があります。
緑内障治療薬の中には複数の成分を含む配合剤(例:コソプト®=チモロール+ドルゾラミド)もあり、
他の薬との相互作用にも注意が必要です。

薬剤師の指導ポイント

薬剤師が透析患者や高齢者に点眼薬を渡す際、以下のような説明が望まれます。

・点眼後の目頭圧迫法を具体的に指導する
・立って点眼しないよう指導する(座位または仰臥位)
・β遮断薬点眼中は脈・血圧変動に注意
・他の降圧薬・抗不整脈薬との併用に注意
・気管支喘息・COPD患者では禁忌の可能性

また、医療従事者は「点眼薬でも全身副作用が起こる」ことを常に念頭に置き、
患者の全身症状を見逃さない姿勢が求められます。

まとめ:目薬によるめまいを防ぐポイント

対策
・点眼後に目頭を軽く押さえる←鼻涙管からの吸収を防ぎ、副作用を軽減
・点眼は座位または仰向けで行う←首を反らさず、血流を保つ
・β遮断薬点眼では全身作用を意識する←脈拍・血圧低下、めまいに注意
・複数の点眼を使う場合は順番を守る←吸収や効果に影響
・めまいが続く場合は医療機関へ相談←重大な副作用や循環不全の可能性

「目薬でめまい?」というと、少し意外に思うかもしれません。
しかし、目と全身は涙道を通じてつながっており、点眼薬が血流に乗って全身に作用することがあります。

特にβ遮断薬系点眼薬は内服薬並みの全身作用を示すこともあり、めまいや倦怠感は見逃してはならないサインです。

安全に点眼を続けるためには、

・正しい点眼方法(目頭圧迫)
・安定した姿勢(仰向けまたは座位)
・定期的な医師・薬剤師への相談

この3点を守ることが大切です。

「たかが目薬」と思わず、体全体に影響しうる医薬品として正しく扱うことが、安心して治療を続ける第一歩になります。

1 件のコメント

  • 匿名 のコメント
         

    こんにちは。

    白内障の点眼液カレーユニを朝晩使って10日です。
    昨夜11時に寝て1:00に目が覚めてトイレに行き
    すぐに寝付いたのですが 3:00にまた目覚めて
    右側を下にしてテレビを見ていました。
    1時間後に眠くなりテレビを消してうすわとうとしてました。
    左側に寝返りを打って頭の耳の後ろを掻いた
    途端に地震が起きたのかと思うぐらい
    右側後ろに引っ張られてしまう感覚で上を向いたとたんに
    目が回ってしまいました。
    右側に寝返りをうったら落ち着きましたが
    しばらくしてから同じように
    左側に寝返りしたら、まためまいが起きました。
    少し座っていたら落ち着きました。
    朝食も昼食も食べて今は何ともありませんが
    ちょっと気になってます。

    右耳は2年前に中耳炎をしてます。たまに痒さで耳かきを使うと
    痛い時があります。

    よろしくお願いします。

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