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ニコチンとニコチン酸は違う?
公開. 更新. 投稿者:喘息/COPD/喫煙.この記事は約5分44秒で読めます.
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ニコチンとニコチン酸は全くの別物?名前が似ているけれど全然違う理由

「ニコチン酸」という成分名を目にして、「えっ、タバコのニコチンと同じもの?」と不安に思ったことはないでしょうか。実際、薬や健康食品の成分表で「ニコチン酸」「ナイアシン」といった表記を見て混同する方は少なくありません。
しかし、結論から言うと、ニコチンとニコチン酸は化学的にも生理作用的にも全くの別物です。名前は似ていても、体に及ぼす影響は正反対と言ってもよいくらい違います。この記事では、それぞれの特徴や作用、歴史、医薬品やサプリでの用途を整理しながら、「どうしてこんなに紛らわしい名前になったのか?」という疑問にお答えします。
ニコチンとは何か
まず、タバコに含まれている有害成分として有名なニコチン(nicotine)。
ニコチンはアルカロイドという植物由来の成分で、主にナス科のタバコに含まれています。神経伝達物質のアセチルコリンと似た構造を持っており、体内ではアセチルコリン受容体を刺激します。この作用によって、ドーパミン分泌が増えて快感や依存を引き起こします。
喫煙者がタバコをやめにくいのは、このニコチンの強い依存性が原因です。
具体的には以下のような作用が知られています。
・交感神経刺激作用:心拍数の増加、血圧上昇
・中枢神経刺激作用:注意力の一時的な向上や気分の高揚
・依存性:禁断症状や渇望を引き起こす
・末梢血管収縮:血流低下
このように、ニコチンは健康に有害な物質であり、医療用途はほとんどありません。
ニコチン酸とは何か
一方、ニコチン酸(nicotinic acid)はまったく性質が異なります。
ニコチン酸はビタミンB3の一種で、ナイアシンと呼ばれる栄養素です。
ニコチン酸は人の体にとって必須であり、欠乏するとペラグラという欠乏症(皮膚炎、下痢、認知機能障害など)を引き起こします。食品では、肉類や魚、穀物、豆類などに豊富に含まれています。
ビタミンとしてのニコチン酸は次のような重要な役割を果たします。
●補酵素としての機能
ニコチン酸はNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)やNADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)の構成成分です。これらは体のエネルギー代謝に不可欠。
●血中脂質の調節
薬用量ではコレステロールや中性脂肪を下げる効果が期待できます。
●末梢血行の改善
血管拡張作用により、冷え症などに使用されることもあります。
このように、体に必要なビタミンであり、依存性は一切ありません。
名前が似ている理由:歴史的な経緯
「なぜニコチン酸という名前になってしまったの?」
これも混乱を生む大きな原因です。
ニコチン酸は、1867年に化学者Huberがニコチンを硝酸で酸化することで初めて単離・合成されました。
当時の慣習で「ニコチンから酸化して得られた酸」という意味で、ニコチン酸と名付けられたのです。
しかし後に、この物質がビタミンとして重要であることが判明し、混乱を避けるためナイアシン(niacin)という名称が提唱されました。
現在では、「ニコチン酸」「ナイアシン」「ビタミンB3」はほぼ同じ意味で用いられます。
医薬品としてのニコチン酸
ニコチン酸は単なるビタミン補充だけでなく、脂質異常症治療薬としても使用されています。
とくに、コレステロールや中性脂肪を下げたい場合に高用量で処方されます。
主な作用は以下の通りです。
●中性脂肪(TG)の低下
・遊離脂肪酸の放出を抑制し、肝臓でのVLDL(超低比重リポタンパク質)の合成を抑えます。
・リポ蛋白リパーゼの活性を高めて、VLDL由来の中性脂肪の分解を促進。
●コレステロール低下
・肝臓からのVLDL分泌が抑制されるため、最終的にLDLコレステロールが低下。
・コレステロール排泄が促進される。
●HDLコレステロール(善玉)の増加
・アポ蛋白A-Iの合成を促進して、HDLの量を増やす。
●Lp(a)低下
・動脈硬化の独立危険因子であるリポ蛋白(a)も減らします。
これらの効果はスタチン系薬にない特徴であり、動脈硬化のリスク低下にも有用とされています。
代表的なニコチン酸製剤
以下の薬品は、ニコチン酸や誘導体を成分とするものです。
●ニコモール(コレキサミン)
・ニコチン酸の誘導体で、末梢血行改善・脂質低下作用。
●ニセリトロール(ペリシット)
・こちらもニコチン酸誘導体で血管拡張作用を持つ。
●トコフェロールニコチン酸エステル(ユベラN)
・ビタミンE(トコフェロール)とニコチン酸が結合した製剤。
・抗酸化作用と血行改善作用を併せ持っています。
副作用と注意点
薬用量のニコチン酸は、副作用が出ることもあります。
代表的な副作用は以下です。
●顔のほてり(フラッシング)
・ニコチン酸の血管拡張作用で顔が赤くなる。
●消化器症状
・吐き気、胃部不快感。
●肝機能障害
・高用量長期使用では肝障害のリスク。
通常の食品に含まれる量、サプリメントの少量摂取では問題は起こりにくいですが、薬として使う場合は医師の指示が必要です。
健康食品やサプリメントでのナイアシン
健康食品やマルチビタミンにも、ニコチン酸(ナイアシン)が含まれていることがあります。
不足すると皮膚炎や口内炎、疲労感の原因になるため、適量摂取は重要です。
1日の推奨量(成人男性)は13mg程度とされており、普通の食事で十分に補えます。
ただし、何種類もサプリを重ねて飲むと過剰摂取に至るケースもあります。
まとめ:「名前は似ているが、中身は正反対」
ニコチンとニコチン酸は、言葉だけを見ると同じ「ニコチン」由来の物質に思えますが、
・ニコチンは有害な神経毒で依存性が強い物質
・ニコチン酸は人体に必要なビタミン
という、全く異なる性質を持っています。
「ニコチン酸=タバコの成分だから危険」と心配する必要はありません。
むしろ、不足すると体調不良の原因になります。
よくある質問
Q. ニコチン酸はタバコに含まれていますか?
A. タバコ葉には微量含まれる可能性はありますが、タバコによる有害作用の主因はニコチンです。ニコチン酸の生理作用はビタミンとしての役割で、喫煙によって補うことはできません。
Q. ニコチン酸とナイアシンは同じですか?
A. 基本的に同じ意味で使われます。ナイアシンはニコチン酸とニコチンアミドの総称です。
Q. 健康食品に入っているニコチン酸は危険?
A. 通常量では安全です。ただし、用法容量を守ることが大切です。