2025年6月26日更新.2,507記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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「以下余白」と「次頁あり」— 処方せん枚数ミスを防ぐ注意ポイント

処方せんは複数枚になることがある

調剤薬局の現場では、患者さんが持参する処方せんが複数枚になるケースが少なくない。特に高齢者や複数疾患を抱える患者の場合、長期処方・併用薬が多くなるため、一枚の処方せん用紙に収まりきらずに、二枚、三枚と発行されることがある。

このときに重要となるのが「以下余白」や「次頁あり」といった表記だ。これらは、処方せんが複数枚にわたることを示すサインであり、薬剤師にとって見逃してはならない重要な確認ポイントである。

「次頁あり」を見落とした失敗

私自身、過去に「次頁あり」の記載を見逃してしまった苦い経験がある。患者さんが持参した処方せんが1枚だけだったため、それが全ての処方内容だと早合点して調剤を行った。しかし後から患者さんより「薬が足りない」とのクレームが入り、調査の結果、実は2枚目の処方せんが交付されていたことが判明した。

もちろん、患者さんが2枚目を出し忘れたのが直接の原因ではあったが、薬剤師として「次頁あり」という注意書きを見逃した私にも大きな過失がある。調剤ミスは患者の安全に直結する重大インシデントであり、どの段階でも確認を怠ってはならない。

「以下余白」「次頁あり」の意味と使われ方

医療機関によって表記は多少異なるが、よく使われるのは次のパターンである:

「以下余白」 :現ページに記載すべき処方は終了しており、続きの処方はないことを示す。
「次頁あり」 :処方内容が次のページにも続くことを示す。
「前頁あり」 :前のページに処方の続きがあることを示す。

たとえば、1枚目に「次頁あり」と記載があれば、少なくとももう1枚の処方せんが存在するはずである。逆に、最終ページには「以下余白」と書かれていることが多い。

処方内容の番号付与にもヒントがある

処方せんによっては、各薬の先頭に通し番号((1)、(2)、(3)…)が付けられていることがある。この番号付けが手がかりとなることもある。

例えば、持参された処方せんの最初の薬剤が(4)から始まっている場合、「(1)~(3)はどこに?」と疑問を抱くことができる。これが確認漏れ防止の大事なヒントとなるわけだ。

ただし注意したいのは、医療機関によってはこの通し番号の付与が一貫しておらず、必ずしも(1)から始まるとは限らない。別ページからの引用や診療科ごとの処方分割など、例外も存在する。

処方せん渡し忘れの原因あれこれ

処方せんの渡し忘れには、以下のようにさまざまな原因がある。

●医療機関での交付忘れ
・受付や窓口で事務員がうっかり複数枚あるうちの一部しか手渡さなかった。
・担当医が複数枚刷ったうちの一部だけを患者に渡した。

●患者の受け取り忘れ
・複数枚あると気づかず、1枚だけを受け取って帰宅した。
・手提げ袋やカバンに入れ忘れた。

●薬局受付での提出忘れ
・2枚持参しているが1枚だけ薬局受付で渡した。
・家族が代理で持参し、全部受け取ったことを把握していない。

こうしたケースでは、患者本人も薬局も気づかないまま調剤が進んでしまうリスクがある。特に複数科受診や複数医師処方が絡むと、患者自身も全体像を把握しきれていないことが多い。

そのまま調剤してしまう危険性

処方せんの提出が1枚だけだった場合、薬剤師は「これが全てだ」と思い込みがちだ。特に忙しい業務中では確認を怠ってしまうことがある。薬歴を記入しているときや患者からの質問で処方内容の漏れに気づくケースもあるが、そのまま気づかずに調剤・交付してしまうと重大な調剤過誤となる。

調剤後に不足分が発覚した場合、患者への連絡や再来局、医療機関との再確認、場合によっては処方せんの郵送対応など、後処理が煩雑になる。何より患者の信頼を損ねるリスクもある。

「以下余白」「次頁あり」確認のルーティン化

このようなヒューマンエラーを防ぐためには、受付時と調剤時の両方で確認をルーティン化することが重要だ。

●受付時
・処方せんが複数枚ある可能性を常に想定する。
・処方番号のスタートを確認。
・「次頁あり」「以下余白」の記載有無を確認。

●調剤時
・各薬剤番号の抜けがないか再確認。
・処方日数や服用期間が極端に短い薬がないかを確認(途中で処方が途切れていないか)。
・患者との対話で「今回の処方はこれで全てですね?」と確認を取る。

処方せんの電子化と今後の展望

電子処方せんの普及により、こうした用紙枚数の問題は将来的には軽減される可能性がある。電子データであれば複数ページの管理が自動化され、患者や薬局側の提出忘れリスクは理論上なくなる。

ただし、現状ではまだ紙の処方せんが主流であり、特に高齢者や地方の小規模医療機関では電子化が進んでいない現場も多い。そのため、現行の紙媒体での確認作業は今後も重要であり続ける。

実際に起きた事例紹介

例えば以下のような事例が報告されている:

・高齢女性が複数診療科を受診後、内科分の処方せん2枚のうち1枚を渡し忘れて薬局来局。服薬指導中に患者が「胃薬も出てるはずだが」と発言し発覚。

・入院から退院した患者が7日分の退院処方せんを持参。薬局受付で1枚目のみ提出。調剤後、家族から「血圧の薬が出ていない」と連絡が入り再確認したところ、2枚目が自宅に残っていた。

・複数医師が処方を分担して発行。院内事務員が印刷時に誤って1枚だけ渡すミス。患者本人も処方全体を把握していなかった。

まとめ

「以下余白」「次頁あり」「前頁あり」—— こうした小さな文字が薬剤師の確認作業では非常に大きな意味を持つ。どれだけシステムが進歩しても、最終確認はやはり人の目と注意力に依存している部分が大きい。日々の業務の中で「見逃しそうなサイン」にアンテナを張り続けることが、調剤過誤を未然に防ぐ最大の武器となる。

処方せんは1枚だけとは限らない—— その意識を常に持ち続けたい。

2 件のコメント

  • 田中なつみ のコメント
         

    先日、患者さんに処方箋の二枚目
    を渡し忘れました。病院の薬剤部に調剤薬局から問い合わせがあり
    薬剤部が口頭で二枚目の内容を伝えたから、処方せんの
    原本は、破棄して良いとのことでしたが、
    心配です。
    後から問題になりませんか?

  • yakuzaic のコメント
         

    コメントありがとうございます。

    まあ薬局側で「問題ない」と言うのであれば、破棄して差し支えないとは思いますが、私がその薬局の薬剤師であれば念のため2枚目の処方箋を郵送で送ってもらいますね。
    個別指導が入られたときに、説明するのが煩わしいですし。

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yakuzaic
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