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SSRIで出血しやすくなる?セロトニンと血小板の関係
公開. 更新. 投稿者:うつ病.この記事は約4分15秒で読めます.
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SSRIで出血しやすくなる?─セロトニンと血小板の関係

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、うつ病や不安障害の治療に広く用いられている抗うつ薬です。脳内のセロトニン濃度を高めることで、感情の安定や意欲の改善を図ります。
一方で、SSRIには「出血しやすくなる」といった副作用があることをご存じでしょうか?
精神科の薬と出血という、一見無関係に思えるこの現象には、セロトニンと血小板の密接な関係が影響しています。
SSRIが出血リスクを高める理由とそのメカニズム、注意すべき併用薬や実際の対策について、勉強します。
セロトニンは脳だけで働くわけではない
セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、脳内での神経伝達に関与していることでよく知られています。しかし、セロトニンの約90%以上は消化管粘膜で産生されており、全身の生理機能にも関わっています。
その一つが「止血」です。
血小板とセロトニン
血小板は出血を止める働きを担う血液成分ですが、血小板自体はセロトニンを合成できません。血小板内のセロトニンは、血中から取り込まれて貯蔵されたものです。
出血が起きた際、血小板は凝集して血栓を作り、止血を開始します。その過程で、セロトニンを放出して血管を収縮させ、さらに血小板の凝集を促進します。
つまり、血小板の止血機能にはセロトニンが不可欠なのです。
SSRIの作用と血小板への影響
SSRIは脳内でセロトニンの再取り込みを阻害し、神経間のセロトニン濃度を高めて抗うつ作用を発揮しますが、これは末梢でも同様に作用します。
血小板へのセロトニン取り込みが阻害される
血小板には、セロトニンを取り込むためのセロトニントランスポーター(SERT)が存在しています。SSRIはこのトランスポーターを阻害するため、血小板はセロトニンを取り込めなくなり、内部のセロトニン濃度が低下します。
その結果、血小板の凝集能が低下し、出血傾向が現れるのです。
出血のリスクは実際にどれくらい?
多くの観察研究やメタアナリシスで、SSRI使用と出血リスクの関連が報告されています。以下のような出血リスクが高まることが知られています。
主な報告例
出血部位と症状・所見
・消化管:胃潰瘍・十二指腸潰瘍からの出血、黒色便、吐血
・鼻腔・皮膚:鼻血、あざ(紫斑)、点状出血
・婦人科:月経過多、不正出血
・術後・抜歯後:止血困難
・脳(極めて稀):脳出血、くも膜下出血(報告あり)
特に消化管出血のリスクは比較的多く報告されており、高齢者やNSAIDsとの併用でリスクが上昇します。
併用に注意すべき薬剤
SSRI単独でも出血リスクは上がりますが、以下の薬剤と併用することでさらにリスクが高まることが分かっています。
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
・ロキソプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナクなど
・胃粘膜障害を起こす作用があるため、SSRIと併用で消化管出血リスクが加算的に上昇
・消化管出血のオッズ比は3〜6倍に上昇すると報告されている
抗血小板薬
・アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールなど
・血小板凝集を抑制する薬剤のため、出血傾向がさらに増強
抗凝固薬
・ワルファリン、DOAC(エリキュース、リクシアナ、プラザキサなど)
・抗凝固作用+血小板機能低下によって、重篤な出血リスク
その他
・三環系抗うつ薬(TCA)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)も、やや出血傾向を持つ可能性があります。
・高用量のビタミンEやオメガ3系脂肪酸サプリメントも抗血小板作用を持つため、慎重に。
特に注意が必要な患者
以下のような患者では、出血リスクの管理が重要です。
患者背景と対応
・高齢者:胃粘膜が脆弱。出血リスクが高いため注意
・消化性潰瘍の既往:併用薬の見直しや、胃酸分泌抑制薬(PPI)投与を検討
・術前・抜歯予定:止血困難の可能性あり、SSRI服薬中を歯科医に伝える
・抗凝固療法・抗血小板療法を併用中:定期的な血液検査や出血症状の観察が必要
実際の症例・相談例(薬局での対応)
「薬を飲んでからあざが増えた」
「鼻血が止まりにくくなった」
「下血があった(便が黒い)」
これらの相談があった場合、SSRI服用中かどうかを確認し、必要に応じて医師に連絡するようアドバイスすることが大切です。
また、OTCのNSAIDsを求めてきた患者がSSRI服用中であれば、胃腸障害や出血のリスクについて説明し、代替薬(アセトアミノフェンなど)を提案するなど、薬剤師の判断が求められます。
予防・対策
胃粘膜保護剤(PPI・H2ブロッカー)の併用
SSRIとNSAIDsの併用時には、PPI(オメプラゾール、ランソプラゾールなど)を併用することで、消化管出血のリスクを低減できるとされています。
服薬指導の強化
患者への指導内容としては以下のような点が重要です:
・あざ、鼻血、便の色など、出血傾向のサインを確認すること
・自己判断でNSAIDsを服用しないこと
・抜歯や手術時には医師にSSRI服用中であることを申告すること
処方医への情報提供
複数科から薬を処方されている患者では、併用リスクに気づかれていないケースもあるため、薬局から疑義照会や情報提供することも安全性向上につながります。
まとめ:SSRIと出血─“隠れた副作用”に注意
SSRIは非常に有効な抗うつ薬であり、うつ病や不安障害の治療に欠かせない薬です。一方で、血小板機能への影響から出血しやすくなるという意外な副作用があることは、医療従事者として常に意識しておく必要があります。
特にNSAIDsや抗血小板薬、抗凝固薬との併用には注意が必要であり、患者個々の背景を考慮したリスク管理が重要です。
薬剤師としては、服薬指導時に出血傾向の兆候を確認したり、OTC薬の選択を慎重に判断することで、重大な有害事象を未然に防ぐ役割を担っています。