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慢性膵炎=低脂肪食、はもう古い?
公開. 更新. 投稿者: 34 ビュー. カテゴリ:肝炎/膵炎/胆道疾患.この記事は約4分1秒で読めます.
目次
慢性膵炎では「脂肪を減らしすぎていないか?」

慢性膵炎の患者さんと話していると、よく聞く言葉がある。
「脂っこいものは、もうほとんど食べていません」
たしかに、慢性膵炎=脂肪制限、というイメージは強い。
腹痛や下痢、脂肪便を経験した患者さんほど、「脂肪=悪」という認識が刷り込まれやすい。
しかし、現在の治療環境を考えると、
脂肪を減らしすぎることが、むしろ問題になるケースも少なくない。
・膵消化酵素薬(とくにリパクレオン)の位置づけ
・「1回4カプセル」という服薬負担の現実
・慢性膵炎患者が脂肪を恐れすぎてしまう理由
・なぜ「適切な脂肪摂取」が重要なのか
という点を軸に、
脂肪制限一辺倒ではない慢性膵炎管理について考えていく。
膵消化酵素薬といえばリパクレオン、だが…
慢性膵炎の治療で、
膵外分泌不全に対して処方される代表的な薬剤といえばリパクレオンだろう。
リパクレオンの特徴
・脂肪・たんぱく質・炭水化物の消化を補う
・特に脂肪消化(リパーゼ)補充が主目的
・食事と一緒に服用することで効果を発揮
添付文書やガイドラインに沿うと、
1回3~4カプセル、1日3回という用量になることも珍しくない。
「1回4カプセル」が患者さんに与える心理的負担
薬剤師の立場では見慣れた用量でも、
患者さんにとっては、こう感じられることが多い。
「なんでこんなに飲まなきゃいけないの?」
「本当に必要なの?」
「これ以上、薬を増やしたくない」
特に慢性膵炎の患者さんは、
・長期治療
・多剤併用
・食事制限によるストレス
をすでに抱えている。
そこに毎食4カプセルが加わると、
「飲むのが大変」「面倒」「減らしたい」という気持ちが出るのは自然だ。
その結果、起こりやすい行動
服薬が大変に感じる患者さんほど、
次のような行動をとりがちになる。
・脂肪を極端に避ける
・食事量そのものを減らす
・「脂っこくなければ薬はいらない」と判断する
・自己判断で酵素薬を減らす・中止する
一見すると、
「脂肪を減らしているから、理にかなっている」
ようにも見える。
しかし、ここに慢性膵炎管理の落とし穴がある。
慢性膵炎で脂肪を減らしすぎると、何が起こるか
① エネルギー不足・体重減少
脂肪は、最も効率のよいエネルギー源である。
脂肪を避け続けると、
・摂取カロリー不足
・体重減少
・筋力低下
が進みやすい。
慢性膵炎患者では、
「痩せてきた」「体力が落ちた」という訴えは非常に多い。
② 脂溶性ビタミン欠乏
脂肪摂取が少ないと、
・ビタミンA
・ビタミンD
・ビタミンE
・ビタミンK
といった脂溶性ビタミンの吸収低下が起こる。
その結果、
・夜盲症
・骨粗鬆症
・出血傾向
など、膵炎とは一見関係なさそうな症状が出てくることもある。
③ 「腹痛=脂肪が悪い」という誤学習
慢性膵炎で腹痛を経験した患者さんほど、
「脂肪を食べると痛くなる」
という記憶が強く残る。
その結果、
・痛みの原因をすべて脂肪に帰結させる
・「少しでも脂っこいとダメ」と思い込む
・必要以上に食事を制限する
・という過度な回避行動につながりやすい。
いまは「脂肪を減らす」より「消化させる」時代
ここで重要なのが、
膵消化酵素薬の存在である。
膵消化酵素薬の本来の役割
・脂肪を食べても
・消化できる状態を作る
・腹痛や下痢を防ぐ
つまり、
脂肪を我慢させるための薬
ではなく
脂肪を食べられるようにするための薬
という位置づけである。
脂肪制限が必要な場面も、もちろんある
誤解してはいけないのは、
脂肪制限が不要という話ではないという点だ。
脂肪制限が有効なケース
・急性増悪時
・腹痛が強い時期
・下痢・脂肪便が顕著な場合
このような状況では、
一時的な脂肪制限は理にかなっている。
ただし重要なのは、
「ずっと続けるかどうか」
である。
慢性期では「適切な脂肪摂取」が重要
腹痛が落ち着いている慢性期では、
・脂肪をゼロに近づける
・常に低脂肪食を続ける
必要性は低い。
むしろ、
・膵消化酵素薬を適切に使い
・症状を見ながら
・必要な脂肪はきちんと摂る
という方向が推奨される。
薬剤師としてできる介入ポイント
① 「脂肪=悪」ではないことを伝える
患者さんには、こんな言い方が伝わりやすい。
「脂肪が悪いのではなく、消化できないとつらい」
「今は、消化を助ける薬がある」
「我慢しすぎないことも大事」
② リパクレオンの「多さ」に意味があることを説明
「量が多い=効いていない」ではない
「脂肪量に合わせて必要な量」
という考え方を共有する。
③ 食事量・体重の変化に目を向ける
・最近、食事量が減っていないか
・体重が落ちていないか
・脂肪を避けすぎていないか
これらは、服薬指導の会話の中で拾える重要なサインである。
「脂肪を減らしすぎていませんか?」という問いかけ
慢性膵炎患者の管理で、
いま薬剤師に求められているのは、
「制限を守らせる役」
ではなく
「制限しすぎていないかを確認する役」
かもしれない。
まとめ
・慢性膵炎では脂肪制限が指導されてきた
・しかし現在は、膵消化酵素薬がある
・脂肪を減らしすぎると、低栄養・QOL低下を招く
・リパクレオンの多さは「脂肪を食べる前提」の設計
・脂肪を我慢させるより、消化させる発想が重要
慢性膵炎の患者さんにとって、
「食べること」は生活の質そのものである。
脂肪を怖がりすぎていないか。
その一言をかけられる存在として、
薬剤師が果たせる役割は、決して小さくない。




