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オンダンセトロンがかゆみに効く?
公開. 更新. 投稿者:癌/抗癌剤.この記事は約4分37秒で読めます.
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オンダンセトロンがかゆみに効く? ― 5-HT₃受容体拮抗薬の意外な作用

オンダンセトロン(Ondansetron)は、抗がん剤や放射線治療、手術後に生じる悪心・嘔吐(CINV:chemotherapy-induced nausea and vomiting)を防ぐために使われる代表的な制吐薬です。日本でもゾフラン®(注射液・内服液・錠剤など)として広く知られています。
本来の適応は「悪心・嘔吐の予防・治療」ですが、近年になって「オンダンセトロンが痒みに効くのではないか?」という報告が散見されるようになりました。
オンダンセトロンの薬理作用をおさらいしたうえで、痒みに対する効果が検討された領域(オピオイド誘発性、胆汁うっ滞性、腎性など)を紹介し、エビデンスの信頼性や臨床的意義について勉強します。
オンダンセトロンとは?
基本情報
・一般名:オンダンセトロン(Ondansetron)
・薬効分類:5-HT₃受容体拮抗薬(セロトニン拮抗型制吐薬)
・承認適応:
がん化学療法に伴う悪心・嘔吐の予防・治療
放射線療法に伴う悪心・嘔吐の予防・治療
手術後の悪心・嘔吐の予防・治療
作用機序
・小腸の迷走神経終末や延髄の化学受容器引金帯(CTZ)に存在する5-HT₃受容体を遮断することで、セロトニンによる嘔吐反射を抑制。
・即効性があり、1回静注でも効果を発揮。
このように「吐き気止め」としての地位が確立していますが、5-HT₃受容体がかゆみの伝達にも関与しているのではないかと考えられ、掻痒症治療への応用が模索されています。
オンダンセトロンと痒み ― 注目される理由
かゆみ(pruritus)は、ヒスタミンだけでなくセロトニン、オピオイド、胆汁酸、サイトカインなど多様な経路によって引き起こされます。
・オピオイド誘発性掻痒:モルヒネなどが脊髄レベルでセロトニン受容体を介して痒みを誘発する可能性。
・胆汁うっ滞性掻痒:胆汁酸の増加によりセロトニンが関与すると考えられる。
・腎性掻痒:透析患者に多く、神経伝達物質や炎症性サイトカインに加えセロトニンも関与か。
この背景から、オンダンセトロンの「5-HT₃受容体拮抗作用」が痒み軽減に役立つのではと期待されています。
エビデンス①:オピオイド誘発性掻痒(OIP)
発生機序
硬膜外や脊髄くも膜下に投与されたモルヒネで高頻度に見られる副作用。抗ヒスタミン薬では改善しにくい。
オンダンセトロンの効果
・RCT報告:オンダンセトロン4mg静注で痒みの発生率が有意に低下。
・麻酔科領域で複数の報告があり、メタ解析でも有効性が支持されている。
・特に硬膜外モルヒネ使用時に有効。
まとめ
→ オピオイド誘発性掻痒にはエビデンスが比較的強い。
エビデンス②:胆汁うっ滞性掻痒(Cholestatic pruritus)
特徴
・原発性胆汁性胆管炎(PBC)や妊娠性胆汁うっ滞などで発生。
・胆汁酸や内因性オピオイドが関与。
オンダンセトロンの報告
・小規模試験では「改善した」との報告がある一方、プラセボと差がなかった試験も存在。
・標準治療はウルソデオキシコール酸、コレスチラミン、ナロキソン、リファンピシンであり、オンダンセトロンは補助的扱い。
まとめ
→ 効果はまちまちで、標準治療とは位置づけられていない。
エビデンス③:腎性掻痒(Uremic pruritus)
特徴
・慢性腎不全・透析患者に多い難治性の痒み。
・炎症性サイトカインや神経学的異常が複雑に関与。
オンダンセトロンの報告
・小規模臨床研究で透析患者にオンダンセトロンを投与したところ一部改善が見られた。
・しかし、メタ解析レベルでは有意差を示さないケースが多い。
まとめ
→ 症例報告はあるが、確実な効果は証明されていない。
他の領域での報告
・アトピー性皮膚炎に対しても試されたが、有効性は限定的。
・掻痒性皮膚疾患全般に対しては、今のところ十分なエビデンスなし。
安全性と注意点
オンダンセトロンは一般的に安全性が高いが、副作用として以下がある。
・頭痛、便秘、潮紅
・QT延長(高用量静注時)
かゆみ目的で使用する場合は「適応外使用」となるため、医師の責任下で行われる。
保険請求も適応外であるため、臨床現場では限定的な使用にとどまっている。
薬剤師としての関わり
・処方箋に「オンダンセトロン+掻痒症」の記載があれば、適応外であることを理解し、患者説明に注意。
・掻痒の原因(オピオイド投与、肝疾患、腎疾患)を確認することが重要。
・標準治療薬(抗ヒスタミン薬、ナロキソン、コレスチラミンなど)と比較し、位置づけを把握しておく。
まとめ
・オンダンセトロンは本来「制吐薬」だが、かゆみ(掻痒症)に効く可能性があるとの報告がある。
・特にオピオイド誘発性掻痒ではエビデンスが比較的強い。
・胆汁うっ滞性掻痒・腎性掻痒では報告があるものの、結果は一定せず、標準治療ではない。
・臨床では「適応外使用」であり、薬剤師としてはその背景とリスクを理解しておく必要がある。