2025年9月10日更新.2,621記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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疲労にアマンタジンが効く?

はじめに:慢性疲労は薬で治せるのか?

「疲れが取れない」「いつもだるい」。そんな訴えは誰もが経験したことがあるでしょう。多くは睡眠や栄養、ストレス対策で改善されるものの、中には病的な“慢性疲労”に悩まされる患者もいます。

この“慢性的な疲労感”に対して、特定の疾患では薬物療法の適応が存在します。その中でも注目されている薬剤のひとつがアマンタジンです。

アマンタジンとはどんな薬?

アマンタジン(amantadine)は、もともとインフルエンザA型の治療薬として開発され、その後、パーキンソン病やレボドパ誘発性ジスキネジアの治療薬としても使われるようになった薬です。

主な作用機序
・中枢神経刺激作用
・ドパミン放出促進作用
・NMDA受容体拮抗作用(抗グルタミン酸作用)
・抗ウイルス作用(M2タンパク質阻害)

これらの作用が精神的な覚醒や意欲の向上、疲労感の軽減に関わっていると考えられています。

疲労とは何か?「疲れ」と「疲労」の違い

「疲れ」は通常の生活で起きる一過性の生理的現象
「疲労」は休息を取っても回復しない病的な状態を指すこともある

とくに神経疾患や膠原病などの慢性疾患では、主観的疲労感(fatigue)が患者のQOLを著しく低下させることが知られています。

疲労にアマンタジンが使われる代表的な疾患

多発性硬化症(MS)に伴う疲労
MS(Multiple Sclerosis)は、中枢神経系の脱髄性疾患で、20〜40代の女性に多く見られます。MSの疲労(MS fatigue)は患者の約80%が経験し、疼痛や運動麻痺以上にQOLへ影響を与えるとも言われています。

アマンタジンの使用実態
・アメリカ・カナダなどのガイドラインではfirst-line treatmentとして言及あり
・推奨用量:100mgを1日2回(朝と昼)
・有効性を示した研究と、プラセボと差がなかった研究が混在

エビデンス:研究内容と結果
Randomized trial (1994):アマンタジン100mg × 2回/日 vs プラセボ、有意に疲労軽減(軽度)
MS Council for Clinical Practice Guidelines:1998年ガイドライン、短期投与の試行を推奨

MS患者における疲労軽減に、即効性があるわけではないが、数週間の投与で改善が見られる症例があるとされます。

パーキンソン病の疲労・無気力

パーキンソン病(PD)では、運動症状以外の非運動症状として「アパシー(意欲低下)」や「慢性疲労」が多く報告されています。

アマンタジンは、パーキンソン病の以下の症状改善に関わります:

・運動症状(特にジスキネジア)
・疲労感・無気力(軽度〜中等度)

一部研究より
ジスキネジアの改善と同時にQOLスコアが上昇

疲労やアパシーの改善に寄与した症例報告あり

ただし、日本では疲労やアパシー単独への保険適応はありません。

その他:慢性疲労症候群(ME/CFS)への適応は?

慢性疲労症候群(Myalgic Encephalomyelitis / Chronic Fatigue Syndrome)は、いまだ原因不明の疾患で、診断も困難です。

アマンタジンについては:
・過去に数例の使用報告はあるが、有効性を示す信頼性のある臨床研究は存在しない
・ME/CFSでは抗けいれん薬、抗うつ薬、リハビリ、睡眠改善薬など多面的アプローチが基本

したがって、ME/CFSに対するアマンタジンの使用は現時点で推奨されていません。

副作用・注意点

アマンタジンは中枢神経刺激作用があるため、副作用も注意が必要です。

主な副作用
・不眠、幻覚、焦燥感、神経過敏
・めまい、むくみ、頻脈、皮膚の網状紅斑(livedo reticularis)
・長期使用による耐性や依存的傾向の可能性

腎機能障害に要注意
アマンタジンは腎排泄型の薬剤であり、高齢者や腎機能低下患者では中毒症状(せん妄・興奮)が出現しやすいとされます。

疲労にアマンタジンを使う場合のポイント
・対象疾患:多発性硬化症、パーキンソン病など神経変性疾患に限る
・投与期間:数週間を目安に効果判定(長期投与は推奨されない)
・対象患者:睡眠障害・うつ病・疼痛が主因でない場合
・その他:血中濃度が上昇しやすい患者では減量・間隔延長を検討

結論:「疲労にアマンタジン」は、誰にでも効く薬ではない

「アマンタジンは疲労に効く」という表現は、誤解を生むおそれがあります。
正しくは、以下のように言い換えるのが適切です。

アマンタジンは、多発性硬化症やパーキンソン病に伴う病的な疲労に対し、限定的ながら有効例がある。
ただし、誰にでも効くわけではなく、使用には医師の診断と観察が必須である。

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