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アビガンがマダニ感染症に効く?
公開. 更新. 投稿者:風邪/インフルエンザ.この記事は約4分36秒で読めます.
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アビガンはマダニ感染症に効く?重症熱性血小板減少症候群(SFTS)とアビガンの新たな適応

かつて新型インフルエンザ治療薬として注目されたアビガン(一般名:ファビピラビル)。そのアビガンに、2024年に新たな適応症が追加されました。それが「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス感染症」です。
この新たな適応症であるSFTSとはどのような疾患なのか、またアビガンがどのように使われるのかについて、勉強します。
SFTSとは?マダニが媒介するウイルス感染症
重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome:SFTS)は、ブニヤウイルス科フレボウイルス属のウイルスによって引き起こされる、マダニを媒介とした感染症です。日本を含むアジア諸国で発症例が報告されており、国内では特に西日本を中心に発生しています。
●主な感染経路
SFTSウイルスの主な感染経路は、マダニに咬まれることです。マダニは野山や草地、藪などに生息しており、人や動物の皮膚に口器を突き刺して長時間(数日〜10日間)吸血します。その際にウイルスを体内へ侵入させることで感染が成立します。
市街地周辺の公園や農地など、森林に隣接する場所にもマダニは分布しており、アウトドアや農作業中の感染リスクも存在します。
●潜伏期間と症状
感染後6日〜2週間の潜伏期間を経て、以下のような症状が現れます:
・発熱
・消化器症状(食欲不振、嘔気・嘔吐、下痢、腹痛)
・筋肉痛・関節痛
・神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)
・リンパ節腫脹
・出血傾向(紫斑、下血など)
致死率は10%を超えるとされ、重症化しやすい感染症です。高齢者や基礎疾患を持つ人では重篤化のリスクがさらに高まります。
●診断と対応の流れ
SFTSの診断には、ウイルスの分離やRT-PCRによる遺伝子検査が必要です。診断が疑われる場合は、保健所や地方衛生研究所を通じて、国立感染症研究所へのウイルス検査依頼が行われます。感染症法に基づき、全数届出対象の四類感染症に指定されています。
治療薬がなかったSFTSに“アビガン”が登場
これまでSFTSには、特効薬もワクチンも存在せず、支持療法や対症療法が中心でした。こうした中、アビガンが治療薬として承認されたことは、感染症治療の歴史においても画期的です。
●アビガンとは?
アビガン(ファビピラビル)は、RNAウイルスに対して広範な抗ウイルス活性を持つ薬剤で、RNAポリメラーゼ阻害作用を有します。
元々は新型インフルエンザの治療薬として2014年に国内承認を受けましたが、その後はパンデミック対策として備蓄されるも、新型コロナ治療薬としては実用化されませんでした。今回のSFTSへの適応追加は、事実上アビガンの“再デビュー”とも言える展開です。
●用法・用量と費用
SFTSに対するアビガンの使用方法は以下の通りです:
・初日:1回1800mgを1日2回
・2日目〜10日目:1回800mgを1日2回
・投与期間:計10日間
アビガン錠は200mg錠であり、治療全体で90錠を服用する必要があります。
気になるのはその費用。薬価は1錠あたり約39,862円、つまり総額では約360万円に達します。
当然ながら保険適用での処方が前提となり、入院管理下で使用されることが想定されます。院外処方される可能性は極めて低いでしょう。
予防が何より重要:マダニ対策の基本
SFTSはマダニを介した感染症であるため、何よりも咬まれないことが最大の予防となります。以下のような対策を徹底しましょう:
・春〜秋のマダニ活動期には特に注意
・草むらや藪へ入るときは、長袖・長ズボン・足首まで覆う靴を着用
・帽子や手袋の使用で露出を最小限に
・皮膚へのマダニ付着を確認したら、無理に引き抜かず、医療機関で処置
SFTS以外のマダニ感染症にも注意
マダニが媒介する感染症はSFTSだけではありません。以下の疾患もマダニによって感染することが知られています:
・日本紅斑熱
・ライム病
・回帰熱
また、中国ではSFTS患者の血液や体液から二次感染が報告されており、医療・介護関係者も患者の体液に接触しないよう、標準予防策を徹底する必要があります。
まとめ:アビガンの新たな価値と今後の展望
アビガンがSFTSという致死的ウイルス感染症に対する治療薬として承認されたことは、
・治療法のなかった疾患への新たな希望
・RNAウイルスに対する薬剤開発の展望
・高額であっても公的医療で管理する意義
を示しています。
一方で、マダニに咬まれないための予防行動が引き続き最重要であることも変わりありません。
薬剤師や医療従事者としては、アビガンの適正使用はもちろん、マダニ感染症のリスク啓発や予防行動の普及にも貢献していく必要があります。
今後、他のマダニ感染症にも新たな治療薬が登場する可能性があり、感染症領域における薬剤師の役割はますます広がっていくでしょう。