記事
妊婦にCa拮抗薬は禁忌?
公開. 更新. 投稿者:妊娠/授乳.この記事は約10分30秒で読めます.
4,889 ビュー. カテゴリ:目次
妊婦とCa拮抗薬
妊婦にCa拮抗薬は禁忌、という理解であったが、2022年12月にアムロジピン(アムロジン/ノルバスク)、アダラート(ニフェジピン)の禁忌から妊婦が外された。
その2種以外のCa拮抗薬はいまだ禁忌のままである。
医薬品名 | 一般名 | 禁忌 |
---|---|---|
アダラート | ニフェジピン | ー |
アテレック | シルニジピン | 妊婦又は妊娠している可能性のある女性 |
アムロジン/ノルバスク | アムロジピン | ー |
カルスロット | マニジピン | 妊婦又は妊娠している可能性のある女性 |
カルブロック | アゼルニジピン | 妊婦又は妊娠している可能性のある女性 |
コニール | ベニジピン | 妊婦又は妊娠している可能性のある女性 |
ニバジール | ニルバジピン | 妊婦又は妊娠している可能性のある女性 |
バイロテンシン | ニトレンジピン | 妊婦又は妊娠している可能性のある女性 |
ヒポカ | バルニジピン | 妊婦又は妊娠している可能性のある女性 |
ペルジピン | ニカルジピン | 妊婦又は妊娠している可能性のある女性 |
ヘルベッサー | ジルチアゼム | 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人 |
ランデル | エホニジピン | 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人 |
ワソラン | ベラパミル | 妊婦又は妊娠している可能性のある女性 |
そもそもCa拮抗薬が妊婦に禁忌の理由としては、子宮筋の収縮を抑制し分娩を遅らせてしまうから、という理由があり、その作用を応用して早産予防に使われるケースもある。
また、胎盤の血流を低下させて、催奇形性を引き起こすのではないかという疑いもあったが、リスクが上昇したという報告は見当たらない。
妊娠中毒症とアダラート
日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2014」(JSH2014)では、妊娠高血圧症候群に対して4種類の降圧薬を推奨している。①中枢交感神経抑制薬のメチルドパ(アルドメット)、②血管拡張薬のヒドララジン(アプレゾリン)③αβ遮断薬のラベタロール(トランデート)④Ca拮抗薬の長時間作用型ニフェジピン(アダラートCR等)である。
①メチルドーパ(アルドメット・エルドパン)
中枢性に交感神経を抑制することにより末梢血管抵抗の減弱をきたして血圧を下げます。副作用としては傾眠・抑うつ・肝障害があります。また、長期投与により子宮内胎児発育不全がみられることもあります。次のヒドララジンとともに妊娠中の高血圧症に対する第1選択剤です。
②ヒドララジン(アプレゾリン)
細動脈平滑筋を弛緩させることにより血管抵抗の減弱をきたして血圧を下げます。副作用としては動悸・頭痛・顆粒球減少・血小板減少等や200mg/日以上を長期に使用した場合にリウマチ様症状やSLE様症状をみることがあります。先のメチルドーパとともに妊娠中の高血圧症に対する第1選択剤です。
③α ・β遮断薬(トランデート)
α ・β遮断薬は,心拍出量にほとんど影響をあたえずに末梢血管抵抗を減弱させて血圧を低下させます。α遮断による反射性頻脈や血漿レニン活性の低下はβ 遮断により抑制されます。逆に,β遮断による糖代謝・脂質代謝への影響はα遮断により抑制されるため副作用は比較的少ないといえます。
④Ca 拮抗剤(アダラート・ペルジピン)
細胞内へのCa の流入を阻止することにより血管平滑筋の収縮性を減弱させることで血圧を低下させます。強力な降圧作用を有するため少量投与から開始する必要があります。
慢性の降圧にはメチルドーパが第1選択で用いられます。一方、分娩前後の緊急血圧調節など急性の降圧が必要な場合にはヒドララジンが第1選択で用いられます。
Ca 拮抗剤やα ・β遮断薬は有効性と安全性を示す、数多くの報告がありますが、本邦では添付文書上妊婦への投与は認められていません。こうした薬剤を投与の際には十分な説明を行い同意を得ることが必要です。
妊娠中の高血圧には、おもにメチルドパや、アプレゾリンが使われる。
病態上、推奨薬以外の降圧薬を用いなければならないケースもあり得るが、利尿薬は胎盤血流量を低下させるため肺水腫や心不全などがない限り使用しない。
また、レニン・アンジオテンシン系阻害薬は、妊娠中の服用で胎児腎の形成不全や羊水過少症などを生じるとの報告があり、禁忌である。
また、高血圧に対しては通常、減塩が指示されるが、妊婦が過度の減塩を行うと胎盤血流量の低下を引き起こし得るので、妊娠高血圧症候群では基本的に急激な減塩は勧めない。
切迫早産とアダラート
ニフェジピンは子宮平滑筋の収縮抑制作用があるため、適応外ではあるが切迫早産の治療でも使用されている。
硫酸マグネシウムの注射も切迫早産における子宮収縮の抑制に使われる。
硫酸マグネシウムとニフェジピンのどちらも、カルシウムチャネルの遮断作用を持つ。
ニフェジピンは遅い内向きカルシウム電流を抑制し、細胞外カルシウムが細胞膜を通過して細胞内に流入するのを阻害する。
マグネシウムも同じ機序でカルシウムチャネルを阻害するとされる。
マグネシウムはさらに、アデニル酸シクラーゼを活性化し、環状アデノシン-リン酸(サイクリックAMP:cAMP)を増加させて細胞内マグネシウムを減少させる。
さらに細胞内マグネシウムは筋小胞体によるカルシウム取り込みを促進させるため、筋収縮に利用されるカルシウムが減少する。
このような機序で、マグネシウムは神経伝達遮断薬の作用を増強することが報告されている。
切迫早産の治療薬
子宮収縮抑制作用のある薬剤としては、β刺激薬のリトドリンやイソクスプリンが用いられる場合が多いと思いますが、ほかには硫酸マグネシウムや抗コリン作用のあるピペリドレート、また日本では切迫早産に対する保険適用はありませんがニフェジピンやNSAIDsのインドメタシン、セレコキシブ、さらにニトログリセリンなどが用いられます。
β刺激薬
リトドリン(ウテメリン)、イソクスプリン(ズファジラン)が用いられます。欧米ではβ₂に選択性の高いテルブタリン(プリカニール)も用いられるようですが、日本での保険適用はありません。子宮筋弛緩作用があり、子宮収縮を抑制します。
硫酸マグネシウム(マグセント)
マグネシウムイオンが神経末端でアセチルコリンの放出を抑制することで子宮筋の収縮を抑制します。切迫早産の治療の第一選択薬として使用されることはありません。何らかの理由でリトドリンが使用できない場合や、リトドリンの投与上限量に達してもさらに子宮収縮を抑制しなければならないときにリトドリンと併用して使用されます。
ピペリドレート(ダクチル)
抗コリン薬であり、アセチルコリンによる子宮筋の収縮を抑制することで切迫早産を予防します。子宮だけでなく胃や十二指腸などの筋肉収縮も抑制する作用があり、胃・十二指腸潰瘍、胃炎、腸炎、胆石症、胆嚢炎などによる痙攣性疼痛にも効果を示します。
ニフェジピン(アダラート)
カルシウム拮抗薬で、細胞内へのカルシウムイオンの流入を抑制し、子宮平滑筋の収縮を抑制する作用があります。日本での保険適用はありませんが、欧米では切迫早産治療薬として頻用されています。
ニフェジピンは、リトドリンなどのβ刺激薬や硫酸マグネシウムと比べても子宮収縮抑制作用が同等かそれ以上ということが、海外で実施されたメタアナリシスによって示されています。また、ニフェジピンは母体の副作用発現率がβ刺激薬や硫酸マグネシウムに比べ低く、新生児の合併症や、新生児集中治療室への入室リスクも有意に少ないことが報告されています。
インドメタシン(インダシン)、セレコキシブ(セレコックス)など
子宮筋の収縮作用があるプロスタグランジンの合成を阻害することにより子宮収縮を抑制します。切迫早産治療の第一選択薬として使用されることはなく、リトドリンの補助として坐剤が頻用処方されることがあります。
胎児の動脈管の早期閉鎖を起こすことがあるため、大量には使用されません。早産を防止するため緊急時に使用されることがあります。
切迫早産治療薬の海外での位置づけ
欧米では切迫早産治療薬に対する評価が日本と大きく異なっています。リトドリンは1980年に米国で承認されましたが、心不全や不整脈などの重篤副作用が相次ぎ1998年に市場から撤退しました。EUでも2013年にβ刺激薬の産科適応について再評価を行い、心血管系のリスクが有効性を上回ると判断され、産科適応の承認が取り消しとなったという経緯があります。
硫酸マグネシウムは米国でも承認されていますが、2013年に食品医薬品局(FDA)が切迫早産の治療に対して硫酸マグネシウムの注射は5~7日までとする勧告を出しました。妊婦への硫酸マグネシウムの長期投与は胎児の骨発育を障害して、胎児・新生児で骨減少・骨折などを引き起こす危険があるためというのが理由のようです。
日本でもこれらの薬について有効性・安全性が議論されているようですが、現状では切迫早産に適応のある薬剤は限られており、リトドリンが広く使用されている。
妊娠中毒症と妊娠高血圧症候群
以前は「妊娠中毒症」と呼ばれてましたが、2005年に日本産科婦人科学会により「妊娠高血圧症候群」と名称変更がなされました。
改名の大きな理由としては、病態が明らかにされてきたことがあり、「中毒症」という「原因毒」が存在するわけではないということが大きいとされています。
妊娠高血圧症の定義
妊娠中毒症の定義
「高血圧、蛋白尿、浮腫の1つまたは2つ以上の症状がみられ、これらの症状が偶発合併症でないもので、妊娠20週以降から産褥6週以内に正常化したもの」
妊娠高血圧症候群の定義
「妊娠20週以降、分娩12週までに高血圧がみられる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものではないもの」
浮腫は無くなりましたね。
以前は、高血圧・蛋白尿・浮腫のいずれの症状も同列に扱っていました。
現在は、妊娠中毒症の主徴は高血圧であると考えられています。
妊娠高血圧で減塩しちゃダメ?
妊娠中の血圧は、正常妊娠であっても妊娠週数によって変動する。
通常、血圧は妊娠初期に低下し始め、その後妊娠20~32週にかけて妊娠前の血圧に戻り、32週以降は上昇する。
一方、妊娠前は高血圧ではなかったのに妊娠20週頃から血圧が上昇し、収縮期で140mmHg以上となった場合に、妊娠高血圧症候群と診断される。
妊娠高血圧症候群の重症度は、血圧値と尿蛋白量により診断する。
収縮期血圧が140~159mmHgもしくは拡張期血圧が90~109mmHgで、尿蛋白量が1日300mg以上2g未満の場合は「軽症」と診断し、薬物療法は行わなくてもよい。
だが、収縮期160mmHg以上もしくは拡張期110mmHg以上の場合は、尿蛋白量によらず「重症」となり、母体臓器障害を防ぐために降圧治療が開始される。
ちなみに、通常の高血圧に対しては生活指導として減塩が指示されるが、妊婦が過度の減塩を行うと胎盤血流量の低下を引き起こしうるので、妊娠高血圧症候群では基本的に減塩は勧めない。
妊娠高血圧症候群に使える薬としては、妊娠週数によらず使用可能な薬としては、中枢性交感神経抑制薬のメチルドパ(アルドメット)、血管拡張薬のヒドララジン塩酸塩(アプレゾリン)、αβ遮断薬のラベタロール塩酸塩(トランデート)がある。妊娠20週以降ではニフェジピンも使用可能であr。
病態上、推奨薬以外の降圧薬を用いなければならないケースもあり得るが、利尿薬は胎盤血流量を低下させるため肺気腫や心不全などがない限り使用しない。
また、ACE阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)などのレニン・アンジオテンシン系阻害薬は、妊娠中の服用で胎児腎の形成不全や羊水過少症などを生じるとの報告があり、禁忌であることに留意したい。
妊娠中毒症の原因は塩分の摂りすぎ?
妊娠中毒症、今は妊娠高血圧症候群と呼ばれています。
妊娠中に何らかの毒ができ、その毒によって病気が発生すると考えられたため中毒症と名付けられていました。
妊娠中毒症の原因はわかっていません。
「太りすぎ」「塩分の摂りすぎ」が原因のように言われることもありますが、これは結果として起きた高血圧に対する対症療法でしかありません。
妊娠中毒症でも無い妊婦が、過剰に太りすぎを意識しても、赤ちゃんに必要な栄養を摂取できなくなります。
塩分制限はある程度必要ですが、カリウムの摂取や、たんぱく質の摂取も必要なので、食事はバランスが重要です。
妊婦とACE阻害薬、ARB
妊娠中には妊娠中毒症によって血圧が高くなることがあります。そのようなときに降圧剤が処方されますが、使用する降圧剤の種類には注意が必要です。
PMDAからの医薬品適正使用のお願いとして「高血圧治療剤(ARB 及びACE 阻害剤)の適正使用の注意喚起について」というものが出されました。
「アンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤(ARB)及びアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤の妊婦・胎児への影響について」
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。また、投与中に妊娠が判明した場合には、直ちに投与を中止すること。〔妊娠中期及び末期にアンジオテンシン変換酵素阻害剤を投与された高血圧症の患者で羊水過少症、胎児・新生児の死亡、新生児の低血圧、腎不全、高カリウム血症、頭蓋の形成不全及び羊水過少症によると推測される四肢の拘縮、頭蓋顔面の変形等があらわれたとの報告がある。また、海外で実施されたレトロスペクティブな疫学調査で、妊娠初期にアンジオテンシン変換酵素阻害剤を投与された患者群において、胎児奇形の相対リスクは降圧剤が投与されていない患者群に比べ高かったとの報告がある。〕
以前は妊娠中期及び末期に関する注意書きだけでしたが、2006年7月に妊娠初期に関する注意書きも加えられた。
催奇形性があるので、妊娠中全期間でACE阻害薬、ARBは禁忌となっています。また、妊娠中期および末期にARBやACE阻害薬を投与された高血圧患者で羊水過少症、胎児・新生児の死亡、新生児の低血圧、腎不全、高カリウム血症、頭蓋の形成不全などが現れたとの報告がある。
授乳中の婦人に関しても、ラットで水腎症の増加が認められていることから投与を避け、やむを得ず投与する場合には授乳を中止することとされている。
「代表的な症例」を見てみると、産婦人科で処方されているものもあります。
「分娩当日まで妊娠に気付かずにいた」という症例も。。。あるのね。
妊娠25週相当からミコンビ処方されてるし。
普通25週くらいだとポッコリしてそうですが。医師も気付かないのですね。
もし中年女性にACE阻害薬が処方されていたら、どうしようと考える。
最近は高齢出産も増えてきているので、40代後半の女性を見て、「もう無いだろう」とか判断するのも失礼。
今後は50代でも出産できる世の中になるかも知れない。
「もう出産する気はありません」とか言っていても、人の気持ちは揺らぐもの。
女性にACE阻害薬、ARBが処方されていたら「禁忌」と判断するくらいの気持ちで臨む。
もし処方されていたら、なんて聞こう。
妊娠も出産もする気はないかも知れない。
結婚すらしていないかも知れない。
いやはや彼氏すらいないかも知れない。
「妊娠していませんか?」
そもそも妊娠に気付かないケースもあるわけだから、「最近ご無沙汰ですか?」なんて聞いたらバカだな。
「ご結婚されていますか?」セクハラだな。
「彼氏はいますか?」告白だな。
「妊娠中に飲んではいけない薬」というメッセージが「危険な薬」という印象を持たれ、ノンコンプライアンスになる可能性もある。
伝え方に注意しよう。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
そんな薬剤師には、m3.com(エムスリードットコム)の、薬剤師のための「学べる医療クイズ」がおすすめ。