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短時間より長時間型睡眠薬のほうが安全?
公開. 更新. 投稿者:睡眠障害.この記事は約6分37秒で読めます.
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ハルシオンよりドラールのほうが安全?
睡眠薬といえば、ハルシオン、レンドルミン、アモバン、マイスリーといった、比較的短時間タイプの睡眠薬が使われることが多い。確かに体の中に長時間ある薬は副作用が強い気がするけど…
ベンゾジアゼピン系薬剤では、短時間作用型のほうが長時間作用型より転倒の危険度は低いと考えられていたが、イタリアの研究では、オッズ比は長時間型1.45倍、短時間型1.32倍と有意差を認めていない。
つまり、「短時間型だから安全」とはいえない。
日本でも短時間型の転倒率の高さが指摘されている。
これは急激な血中濃度の上昇により眠気が急速に現れるため、思わぬ転倒につながっているためと考えられる。
よって睡眠導入剤の服薬指導時には転倒防止のため、服用後すぐに布団に入るように必ず指導することが必要となる。
これは年齢を問わない。
長時間型は日中夜間通して転倒の危険性が高く、短時間型は服用後しばらくの時間帯が危険といえる。
短時間型睡眠薬のほうが副作用は多い?
一般的に、長時間作用する薬よりも短時間しか作用しない薬のほうが副作用は少ないと思われています。
睡眠薬の場合は、そうとも言えない。
睡眠には、脳が休息していて比較的深い眠りのノンレム睡眠と、脳が活動している状態のレム睡眠がある。
就寝後は、まずノンレム睡眠になり、その後レム睡眠とノンレム睡眠を交互に繰り返す。
夢を見るのはレム睡眠中である。
睡眠随伴症状は通常、入眠後早期の、最も深い眠りに至るノンレム睡眠の時間に生じる。
発症メカニズムは明らかではないが、セロトニン神経系の機能異常との関連が示唆されている。
ゾルピデムやベンゾジアゼピン系などのGABAA受容体に作用する睡眠薬による睡眠随伴症状の発現機序としては、次の仮説が提唱されている。
セロトニン神経系はGABAA神経系の制御を受けており、GABAA受容体に作用するゾルピデムやベンゾジアゼピン系の薬物を服用すると、セロトニン神経系の興奮が一過性に高まる。
通常、セロトニン神経系の活性が高まると、自己調節のメカニズムを介してセロトニンの放出は減少するが、このメカニズムが働くまでにタイムラグがあるため、一時的に、セロトニン神経系が活性化した時間帯ができる。
その結果、運動ニューロンの興奮が増加して、通常は睡眠中に起こらない運動が引き起こされることがあると考えられている。
GABAA受容体に作用する睡眠薬のうち、特に、ゾルピデムやトリアゾラムなど消失半減期の短い超短時間型の薬剤は、セロトニン神経系の興奮が一過性に増加したときに、血中濃度が下がっていることが多いため、睡眠随伴症状を起こしやすいと考えられる。
一方、短時間型の睡眠薬については、ブロチゾラム(レンドルミン)で、一過性前向性健忘、もうろう状態の報告があり、十分に覚醒しないまま、車の運転、食事などを行い、その出来事を記憶していないとの報告がある。
また、ロルメタゼパム(ロラメット、エバミール)では、夢中遊行症や夢遊症の報告はないが、健忘などの報告がある。
ドラールを飲むと1日中眠ってる?
睡眠薬は、作用時間によって大きく4つに分類されている。
超短時間型・・・半減期が2~4時間
短時間型 ・・・半減期が6~10時間
中時間型 ・・・半減期が12~24時間
長時間型 ・・・半減期が24時間以上
作用型(半減期) | 薬品名 | 半減期 |
---|---|---|
超短時間作用型(2~4時間) | マイスリー | 1.78~2.30時間 |
超短時間作用型(2~4時間) | ハルシオン | 2.9時間 |
超短時間作用型(2~4時間) | アモバン | 3.66~3.94時間 |
超短時間作用型(2~4時間) | ルネスタ | 4.83~5.16時間 |
短時間作用型(6~10時間) | デパス | 約6時間 |
短時間作用型(6~10時間) | リスミー | 7.9~13.1時間 |
短時間作用型(6~10時間) | レンドルミン | 約7時間 |
短時間作用型(6~10時間) | ロラメット/エバミール | 約10時間 |
中時間作用型(12~24時間) | ベルソムラ | 10時間 |
中時間作用型(12~24時間) | ユーロジン | 約24時間 |
中時間作用型(12~24時間) | サイレース/ロヒプノール | 約7時間 |
中時間作用型(12~24時間) | ネルボン/ベンザリン | 27.1±6.1時間 |
長時間作用型(24時間以上) | ドラール | 36.60±7.26時間 |
長時間作用型(24時間以上) | ダルメート/ベノジール | 14.5~42.0時間 |
超短時間型や短時間型は入眠障害、寝つきの悪い人に処方される。
中時間型は中途覚醒、途中で起きてしまうような人に。
長時間作用型は熟眠障害、早朝覚醒など、眠りの浅い人に、主に処方される。
薬には、血中濃度が半分になる「半減期」というパラメータがある。
半減期が2.9時間のハルシオンは、飲んでから3時間も経てば血中濃度が半分になるので、その倍の時間=6時間も経てば体内から消失する。
しかし、半減期が12時間を超える睡眠薬の場合、体内からの消失が追い付かないので、常に体内に残るような状態になる。
この状態が定常状態です。
じゃあ、ドラールのような長時間作用型の睡眠薬を飲むと24時間眠いという状態が続くのか?
というと、そうではない。
簡単に言えば、睡眠薬にはそれほどの力が無いという理由。
麻酔薬のような覚醒にも影響を及ぼす麻酔作用はありません。
人が眠るためのシステムには、「睡眠」と「覚醒」という2つのシステムがあり、睡眠薬は睡眠を補助しますが、覚醒に関するシステムには影響を及ぼさないという、わかるようでわからない説明。
じゃあベルソムラはどうなんだ?
覚醒に関するホルモン、オレキシンの拮抗薬で、覚醒のレベルを落とすよ。
まあいずれにせよ、睡眠薬飲んでも眠れないっていう人のほうが多いから、「1日中眠い」なんて心配はしなくてもいいのかな。
早朝覚醒型なら長時間作用型の睡眠薬がいい?
不眠症は、症状によって入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒の3タイプに分けられます。
朝早く目覚める早朝覚醒では、半減期の長い中間作用型や長時間作用型の睡眠薬を使うのが原則です。
ただし、あくまで原則。
実際の現場では、筋弛緩作用が強かったり翌日に残る長時間作用型の睡眠薬は、転倒が怖いために高齢者には投与しにくいです。
そのため、アモバンやマイスリーなど筋弛緩作用が弱く、作用時間が短い薬を処方して様子を見る場合もあります。
また、長時間作用型はすぐには効果が出にくいので、早朝覚醒でも、最初効果が出やすい短時間作用型を処方し、徐々に処方を切り替えていく場合もあります。
入眠障害
なかなか寝つけない。
眠るまでに30分以上かかってしまい、本人が苦痛に感じているのであれば入眠障害。
中途覚醒
夜中に何度も目が覚める。
再び眠るまでに時間がかかる「再入眠困難」を伴う。
熟眠障害
ぐっすり眠った気がしない。
早朝覚醒
朝早く目が覚めてしまう。
睡眠薬の使い分け
①消失半減期が2~4時間の超短時間作用型は、服用とともに血中濃度が上昇し、睡眠の前半に強く作用し、入眠障害に対して効果があり、翌朝の覚醒時には有効血中濃度を下回って、残薬感を残しません。
しかし、連用により日中不安をきたし、依存を生じる可能性があります。
高用量やアルコールとの併用により、健忘をきたしやすいといわれています。
②消失半減期が6~10時間の短時間作用型も、超短時間作用型とほぼ同様のプロフィールをもっています。
③消失半減期が20~30時間の中間作用型では、翌朝まである程度の血中濃度が維持されており、連用により中等度の蓄積が生じ、4~5日のうちに定常状態に達します。
したがって、覚醒時に眠気、ふらつき、頭重感などの持ち越し効果を残すことがあります。
主に入眠障害に加えて中途覚醒や早朝覚醒を主症状とするタイプに用いられます。
④消失半減期が50~100時間の長時間作用型では、血中濃度が定常状態に達するまでに1週間前後かかり、持ち越し効果や日中の精神機能に及ぼす影響も多くありますが、急に中断しても反跳性不眠や離脱症状は起こしにくいといわれています。
⑤高齢者以外の慢性の不眠には、半減期の長い睡眠薬を使用すると減量、中止が行いやすくなります。
⑥慢性の不眠症患者では、睡眠薬に対する依存とともに、睡眠薬を服用することに罪悪感を伴う感情をもっており、自分勝手な判断で睡眠薬を中断し、半減期の短い睡眠薬を服用している場合、反跳性不眠に陥ってしまうことがあります。
半減期の長い睡眠薬では反跳性不眠を生じにくいといわれています。
⑦慢性の不眠患者では眠れないことに過剰に反応し、早い時刻から就寝しようとして眠れなくなっている場合もあり、就寝時刻を少しだけ遅くにずらしてみることも不眠の改善につながる可能性があります。
⑧睡眠薬の服用後は健忘を予防するためと入眠を容易にするため、すみやかに入床することが重要です。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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