記事
転びやすくなる薬
公開. 更新. 投稿者:副作用/薬害.この記事は約7分22秒で読めます.
6,822 ビュー. カテゴリ:転倒の原因となる可能性のある薬剤
高齢者では転倒から骨折、身体動作の悪化につながる可能性が高いため、ふらつきには特に注意が必要だ、
薬局では、患者から転倒したという話を聞いたら、医師に伝えたかを確認したい。
高齢者は複数の慢性疾患を抱え、愁訴も多い為服用薬剤数が増えやすい。
しかも、肝臓、腎臓機能が低下しているために薬物による有害事象が生じやすい。服用薬剤の増加は転倒リスクの増加につながる。
鎮静催眠薬、抗うつ薬、抗精神病薬は鎮静作用、催眠作用、筋弛緩作用などのために転倒を生じる可能性がある。中でもベンゾジアゼピン系および非ベンゾジアゼピン系の鎮静催眠薬は眠気、ふらつき、注意力の低下など、意識や平衡感覚を低下させやすい。加えて、これらの薬剤は筋弛緩作用を有するものが多い為、下肢の脱力によって転倒しやすくなる。
鎮静催眠薬、抗うつ薬、抗パーキンソン病薬、β遮断薬、H2ブロッカーはせん妄を起こすことがあり、転倒につながる。
起立性低血圧は自律神経障害による血圧調節障害であり、高齢者に多くみられる。また、降圧薬、特にα遮断薬(起立性低血圧)と利尿薬(脱水を起こしやすいため)の使用には注意が生じていないか確認する必要がある。
新しい薬剤の中では、末梢神経障害性疼痛改善薬であるリリカ(プレガバリン)は、効果も認められる半面、浮動性めまいの報告がある。
また、抗認知症薬であるメマリー(メマンチン)にも浮動性めまいや傾眠の報告がある。
パーキンソン病と転倒
一部の薬剤ではパーキンソン徴候(動作緩慢、仮面様顔貌、振戦、ふらつき、小刻み歩行、すくみ足)が出現することがあり、特にふらつきや小刻み歩行、すくみ足を起こし転倒しやすい。
多くの定型抗精神病薬は、抗ドパミン作用のためパーキンソン徴候を起こす可能性がある。そのほか、定型抗精神病薬は遅発性ジスキネジア(口唇や舌の不随意運動や四肢の粗大な振戦)、アカシジア(静座不能)などの錐体外路徴候を起こすことがある。
消化管運動調整薬は長期連用されやすいので、パーキンソン徴候がみられた場合は、薬剤による作用をまず疑う必要がある。
薬剤によるパーキンソン徴候は薬剤を中止することで消失することが多いが、気づかずに、もしくはやむを得ず長期連用した場合、薬剤を中止しても症状が完全に消失しないこともあるので注意が必要である。
睡眠薬とふらつき
ベンゾジアゼピン(BZ)系・非BZ系の睡眠薬は、脳のGABAA-ベンゾジアゼピン受容体 (GABAA受容体)に作用して催眠、 鎮静、抗不安作用などを示す。
同受容体にはω1とω2の2つのサブタイ プがあり、ω1は睡眠、ω2は筋弛緩作用、抗不安作用などに関与している。
BZ系の睡眠薬はω1とω2の両方に作用することから、副作用として脱力やふらつきが起こりやすくなる。
一方、非BZ系は、ω1への選択性が高いため、BZ系に比べ脱力やふらつきが少ない。
またロゼレム(ラメルテオン)とベルソムラ(スボレキサント)は、GABAA受容体には作用しないため、筋弛緩作用はさらに小さい。
ただし、不安や筋緊張が強い、患者の場合、ω2への作用も病態の改善に必要になるため、BZ系の薬が選択されることもある。
また、作用時間が長い睡眠薬は持ち越し効果によりふらつきが出やすくなる。
なお、服用時点が「就寝前」となっていると、実際に寝床に就く数時間前に服用する患者もいるので、転倒防止のためにも布団に入る直前に服用するよう指導する必要がある。
高齢者は不眠の訴えが多く、睡眠薬の使用が多くなりがちである。夜間、睡眠薬の効果が続いている中でトイレに行くと覚醒不良のため転倒する危険がある。
したがって、そのような危険性を本人ならびに家族に説明すること、服用前にトイレをすませておくこと、トイレへの動線を明るく保つこと、つっかけ式のスリッパを使わないことなどの生活指導が大切である。
高齢者には非ベンゾジアゼピン系が良い?
睡眠薬によりふらつきや転倒のリスクが増えるという考えもありますが、非BZD系薬剤はバルビツール酸系やBZDに比べて筋弛緩作用が少なく、消失半減期が短いことから翌日への持ち越し効果も少ないという特徴があります。
こうした点からも、非BZDは生活習慣病患者や高齢患者に対しても、比較的安全に投与できることが分かります。
また、非BZDのゾルピデムは耐性や反跳性不眠が起こりにくく、服薬翌日の認知機能に与える影響も少ないというエビデンスがあります。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は筋弛緩作用も有しており、その作用は高齢者に強く現れます。
トイレに行くために歩いた際や徘徊中に転倒し、骨折する危険性がある(大腿骨頭骨折が多い)ので注意します。
実際に筋弛緩作用が認められたときには非ベンゾジアゼピン系睡眠薬へ変更するなどの対応が必要です。
しかしながら非ベンゾジアゼピン系では催眠効果が得られない場合もあり、その場合はベンゾジアゼピン系に戻さなければなりません。
そうなればどれほど注意しても筋弛緩による転倒の可能性が高まりますので、夜間に離床することを少なくする工夫が重要となります。
高齢者施設などでは、夜間にトイレに立たなくてすむように水分摂取のタイミングを工夫したり、就寝前にトイレに行く習慣づけを行うようにし、中途覚醒を少なくする工夫をしているようです。
ケアを行う人のこのような工夫でかなりの転倒事故のリスクが軽減されていると思います。
マイスリーはω1受容体選択性が高い?
睡眠薬はGABA-A受容体複合体のω受容体に働き、GABAの作用を増強し、睡眠作用を発揮します。
ω受容体には2つのサブタイプがあり、ω1受容体は催眠鎮静作用に、ω2受容体は抗不安作用や筋弛緩作用に深く関与。
ベンゾジアゼピン系はω1、ω2両方に作用、ゾピクロンやゾルピデムはω1選択性が高く、筋弛緩作用が弱い。
と言われています。
しかし、ゾルピデムはほかのω1、ω2受容体選択性のない睡眠薬と比較して、強力な協調性運動障害作用が認められたとの報告もあり、ω1受容体選択性と筋弛緩作用の関連性は不明なところもあります。
高齢者にはマイスリーが使いやすい?
マイスリーやアモバンなどの非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、筋弛緩作用が弱いので、転倒のリスクが少ないとされ、高齢者に使用されることが多いです。
しかし、マイスリーによる転倒・転落事故の報告は多いとのこと。
単純に事故の起こりやすい高齢者に処方されるケースが多いだけなのかも知れませんが、マイスリーは飲んですぐ効くので、飲んだ後にテレビを見てのんびり過ごしたりしていると、急にふらついて危ないです。
睡眠薬を飲んだ後はすぐに布団に入ることが重要です。だからといって、高齢者に長時間作用型の睡眠薬は、蓄積による副作用が発生するといわれていて、あまり使われません。
ベンゾジアゼピン受容体には、ω1、ω2などのサブタイプが存在することが知られており、トリアゾラムなど多くのベンゾジアゼピン系薬剤はω1とω2の両方の受容体を刺激する。
これに対し、ゾルピデムなど非ベンンジアゼピン系の薬剤は、比鮫的ω1受容体への選択性が高い。
ω1、ω2の脳内分布は異なり、ω1受容体が小脳や嗅球、淡蒼球、大脳皮質の第4層などに多いのに対して、ω2受容体は筋緊張に関与する脊髄や、記憶に関与する海馬に多い。
このことから、主にω1は催眠・鎮静作用に、ω2は筋弛緩作用に関与し、非ベンゾジアゼピン系薬剤の方が、ベンゾジアゼピン系薬剤に比べて、筋弛緩作用によるふらつきや脱力感、倦怠感などの副作用が発現しにくしとされている。
マイスリーはふらつきが多い?
エチゾラムをはじめ、現在使用されているベンゾジアゼピン系薬剤の多くは、ω1、ω2受容体に対する選択性を持たないといわれるが、比較的新しく開発された睡眠薬であるゾルピデム、クアゼパムは、ω1受容体に対する選択性があり、催眠・鎮静作用に対して、筋弛緩作用が少なく、筋弛緩作用による転倒のリスクが少ないことが特徴とされる。
ただし、健常人男性に酒石酸ゾルピデム10mg、トリアゾラム0.25mg、クアゼパム15mgをそれぞれ投与し、静的平衡機能検査等によりふらつきの程度を検討した報告では、ω1受容体選択性のあるゾルピデムがふらつきの程度が最も大きく、服用1時間と2時間後に顕著であったとされている。
また、クアゼパムによるふらつきはゾルピデムよりは少ないが、そのピークは服用4時間後にあり、8時間後にも持続がみられ、長時間持続することも報告されている。
ω1受容体選択性のあるゾルピデムの方が、選択性のないトリアゾラムに比べてふらつきの程度が大きかった理由は明確ではないが、薬剤服用によるふらつきには、筋弛緩作用だけでなく、催眠鎮静作用による小脳抑制作用等、複数の作用が関与している可能性が推測され、ω1選択性であっても、転倒に対する注意を忘れてはならないことが示唆されている。
また、ω1受容体選択性の薬剤では、筋弛緩作用とともに、抗不安作用も少ない可能性があり、日中不安のリスクが高くなる危険性についても、あわせて注意する必要があると考えられる。
マイスリーに耐性は生じにくい?
現在多く用いられている睡眠薬の中には、睡眠薬としての効果が減弱しやすいものと減弱しにくいものがあります。
また、効果が減弱しやすい睡眠薬の中でも、服用開始後の早い時期に減弱するものと、長期間を要するものがあります。
睡眠薬に対する耐性は主として薬力学的耐性(薬物作用点の感受性の低下)によると考えられるが、酵素誘導、特にCYP3A4の誘導を誘発する薬物との併用でも生じることは念頭に置くべきである。
臨床的に、ベンゾジアゼピン系薬物(抗不安薬、睡眠薬)に対する耐性は、作用時間の短い薬物ほど早期に出現されると言われており、特にトリアゾラムでは他のベンゾジアゼピンに比して耐性形成が顕著である。
また、催眠・鎮静作用、協調運動抑制作用などに対する耐性は投与期間に依存して生じるが、抗不安作用や記憶障害(健忘)に対する耐性は生じないとされている。
一方、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(別名”Z-薬物”)であるゾルピデム、ザレプロン(本邦では未承認)、およびエスゾピクロンではベンゾジアゼピン系薬物に比較して耐性が形成されにくいとする報告が多い。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
そんな薬剤師には、m3.com(エムスリードットコム)の、薬剤師のための「学べる医療クイズ」がおすすめ。