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高血圧の診断基準値と降圧目標値
公開. 更新. 投稿者:高血圧.この記事は約5分41秒で読めます.
2,742 ビュー. カテゴリ:血圧がどのくらい高いと薬を飲んだほうがいいの?
降圧剤が処方されている患者に対して血圧の数値を聞くのはよくあることです。
同じような薬歴にならないように、個別の患者の情報を記載するためです。
しかし個人的には、薬剤師が血圧の具体的な数値の聞き取りを行ったとしても、あまり意味は無いと思っています。
検査値を聞いたとしても、それに対して薬剤師が「高い」「低い」と判断するのは気をつけた方がよい。高い数値であったとしても「良し」とされている患者もいる。判断するのは医師である。
高血圧治療ガイドライン2019
いまだに、収縮期血圧140/拡張期血圧90という数値以外うろおぼえの私です。
高血圧治療ガイドラインが改訂されましたが、全然頭に入ってこない。
「治療により血圧をコントロールできている人が27%にすぎない現状」
「厳格治療と通常治療を比較すると、厳格な降圧により心血管イベントを抑制することができる」
といったような理由で降圧目標値の引き下げが行われたようですが、
「新たに450万人が降圧薬治療の対象となるとの試算が発表されています。」
とか聞くと、単なる降圧剤の市場拡大という理由にしか思えず、厳格化により血圧コントロールできている人はさらに減るだろうと思われる。
高血圧治療ガイドライン2019では、2014から診断基準はかわりません。
診察室での血圧と、家で測る血圧では診断基準が異なる。
診察室血圧(高血圧治療ガイドライン2019)
収縮期血圧 | 拡張期血圧 | ||
---|---|---|---|
正常血圧 | < 120 | かつ | < 80 |
正常高値血圧 | 120-129 | かつ | < 80 |
高値血圧 | 130-139 | または | 80-89 |
I 度高血圧 | 140-159 | または | 90-99 |
II 度高血圧 | 160-179 | または | 100-109 |
III 度高血圧 | ≧180 | または | ≧ 110 |
(孤立性)収縮期高血圧 | ≧140 | かつ | < 90 |
家庭血圧(高血圧治療ガイドライン2019)
収縮期血圧 | 拡張期血圧 | ||
---|---|---|---|
正常血圧 | < 115 | かつ | < 75 |
正常高値血圧 | 115-124 | かつ | < 75 |
高値血圧 | 125-134 | または | 75-84 |
I 度高血圧 | 135-144 | または | 85-89 |
II 度高血圧 | 145-159 | または | 90-99 |
III 度高血圧 | ≧160 | または | ≧ 100 |
(孤立性)収縮期高血圧 | ≧135 | かつ | < 85 |
降圧目標値が、高血圧治療ガイドライン2014では、以下の数値
診察室血圧 | 家庭血圧 | |
---|---|---|
若年、中年、前期高齢者 | 140/90mmHg未満 | 135/85mmHg未満 |
後期高齢者 | 150/90mmHg未満(忍容性があれば140/90mmHg未満) | 145/85mmHg未満(忍容性があれば135/85mmHg未満) |
糖尿病患者 | 130/80mmHg未満 | 125/75mmHg未満 |
CKD患者(蛋白尿陽性) | 130/80mmHg未満 | 125/75mmHg未満 |
脳血管障害患者、冠動脈疾患患者 | 140/90mmHg未満 | 135/85mmHg未満 |
高血圧治療ガイドライン2019では以下の数値に変更になった。
診察室血圧 | 家庭血圧 | |
---|---|---|
75歳未満の成人、糖尿病患者、脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし)、冠動脈疾患患者、CKD患者(蛋白尿陽性)、抗血栓薬服用中 | 130/80mmHg未満 | 125/75mmHg未満 |
75歳以上の高齢者、CKD患者(蛋白尿陰性)、脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり,または未評価) | 140/90mmHg未満 | 135/85mmHg未満 |
色々と細分化されるとわかりづらくなる。基本130/80が目標で、めまいふらつき等リスクの高い人は140/90まで容認する。
日本の高血圧の有病者は約4300万人いるが、治療しているのは約半数とされる。さらに治療により血圧を適正にコントロールできているのは約1200万人と、全体の3割に満たない現状。
背景には、高血圧は自覚症状に乏しく、患者が危機感を抱きにくいことがある。降圧が不十分であっても、患者が嫌がるなどの理由で医療者側が降圧薬の追加をためらってしまうこともある。
JSH2019では、この状況を「Clinical inertia」(臨床イナーシャ)として問題視し、早期の積極的な介入を求めた形。
血圧は低ければ低いほど良い?
正常血圧の数字はガイドラインが改定されれば変わってきます。
この数字以下になれば降圧治療としてはOKということでしょう。
しかし、「どのくらい血圧を下げたら危険」などという基準はないので、数字で示すことはできません。
高血圧の治療では「The lower, the better」という話を聞く。
The 比較級 the 比較級 で「~なほど~だ」という意味。
低いほど良い。
厳格な降圧治療が世界共通の常識なようです。
降圧剤の併用は欧米では主流。
2015年に発表された米国の大規模臨床試験「SPRINT」を挙げる。120mmHg未満の厳格降圧を行った患者では、複合心血管イベントの発生率が標準治療群よりも25%減少したとの結果が示された。
血圧の下げ過ぎに不安を感じる患者にはここらへんの情報を提供するといいだろう。
しかし、高齢者の急激な降圧によるめまい、ふらつきにより転倒などのリスクも出てくるので注意が必要です。
血圧は年齢+100?
年齢+100が血圧の理想と言われていたこともありました。
しかし、現在では収縮期血圧140mmHg未満、拡張期血圧 90mmHg未満が、年齢に関係なく理想であるとされています。
さらに、かつては140~160/90~95mmHgの血圧を境界型高血圧といって、これくらいの高血圧は治療をしてもしなくてもよいといっていた時代もありました。
しかし、その後の研究でこの血圧でも将来的に高血圧合併症がやはり発生する頻度が高くなっていることが明らかになりました。
したがって、現在ではWHOでも年齢に関わらず基本的には血圧を140/90mmHgよりも低く保つことを勧めています。
血圧が10mmHg上がると死亡リスクが15%増加?
「健康日本21」の資料中には、収縮期血圧が10mmHg上昇すると、脳卒中罹患・死亡の危険度が男性では約20%、女性では約15%高まることが示されており、さらに男性では冠動脈疾患罹患・死亡のリスクが約15%増加することが示されています。
悪玉血圧と善玉血圧
血圧にもコレステロールと同じように、善玉血圧と悪玉血圧というのがあるらしい。
善玉血圧というのは、駆出圧のことで、心臓が血液を体の隅々まで送り出すために発生する駆出圧波で、必要不可欠な圧力です。
悪玉血圧というのは、反射圧のことで、善玉血圧が血管に伝播していく過程で、血管から跳ね返ってくるもので、いわば不要な圧です。
血管が硬い、血管内腔が狭い、血管の壁が厚いなど、動脈硬化を起こしている血管ほど、悪玉血圧が大きくなります。
上腕で測定する血圧計では、反射圧が肩の骨などに吸収されてしまうので、善玉血圧しか測定できません。
心臓を出た直後の血圧(中心血圧)を測らなければ、悪玉血圧はわからない。
2つの収縮期血圧
血圧を下げると血流も下がる、と思われがち。
それは駆出圧のことしか考えていないから。
収縮期血圧には2つあり、心臓から血液を送り出すときの圧力と、送り出された血液が血管壁から跳ね返ってくるときの圧力。
跳ね返りの血圧(反射圧)を下げれば、血流はスムーズになり、血のめぐりがよくなる。
ARBやACE阻害薬、Ca拮抗薬などの血管拡張薬は反射圧を下げる薬。
β遮断薬や利尿薬は、駆出圧を下げる薬。
うまく使い分ける、あるいはコンビネーションで使うことが必要。
しかし、反射圧が悪玉というのは、まあいいとして、駆出圧を善玉と呼ぶのは、ちょっと疑問。
患者によっては、駆出圧を下げる必要のある者もいる。
血圧とは
血圧とは、心臓から送り出される血液が血管でどのくらいの抵抗を受けているかを数値化したものです。
「血圧=心拍出量×末梢血管抵抗」
と定義されています。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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