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高リン血症はなぜ怖い?
公開. 更新. 投稿者:腎臓病/透析.この記事は約8分34秒で読めます.
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高リン血症はなぜ怖い?
高リン血症になるとどうなるの?
高リン血症はその名の通り体内にリンがたまってしまう病気ですが,問題点はそれ自体の症状にあるのではなく,将来的に引き起こされる合併症にあります.
例えば,体内のリン,カルシウムのバランスが崩れると,PTHというホルモンの分泌が増える病気があります(二次性副甲状腺機能亢進症).
このPTHは骨からカルシウムを溶かしだすため骨がもろくなり,骨の病気を引き起こします.
また体内にたまったリンとカルシウムが骨以外の組織に沈着してしまうことがあります(異所性石灰化).
血管に沈着すると,血管が骨のように硬くなり,心筋梗塞や脳梗塞を発症しやすくなります.
また心臓に沈着することで,心筋の収縮力が低下し心不全を引き起こしやすくなります.
高リン血症
CKD(慢性腎臓病)が悪化すると、末期腎不全に移行するのと並行して高リン血症があらわれます。高リン血症は腎機能が低下することによりリンが排泄できなくなり体内に溜まる病態のことであり、この異常はステージG3より始まるといわれています。
自分のCKDステージを再度確認し、早期発見・早期治療のために、血清リンを測定するよう心がけましょう。
腎機能が低下すると、リンの排泄ができなくなり、徐々に体内に溜まって高リン血症となります。
高リン血症はそれ自体自覚症状はありませんが、高リン状態が続くことにより、骨がもろくなったり、骨ではないところに石灰化を起こして心筋梗塞や脳卒中といった深刻な事態につながります。CKDの患者さんは日頃から血清リンの値に注意を払い、異常が出たらすぐに食事療法やリン吸着薬の服用により、リンの値を基準値内にコントロールすることが大切になります。
リンの正常値
保存期CKDのP値は、診療ガイドラインで通常の基準範囲(2.5~4.5㎎/dL程度)を目標とします。
透析患者では透析前の血清P値で3.5~6.0㎎/dLを目標とします。
リンの働き
リンはヒトの十大元素の1つで、生体内で6番目に多い元素といわれていおり、体重の約1%、700~800g存在します。リンの働きとしては、エネルギーの運搬を行ったり、細胞膜の構成成分となったりします。また、カルシウムとともに骨の主要な成分となり、骨を強く硬くしています。
腎臓病とミネラル
腎臓病になれば、腎の排泄機能が低下し、ミネラルの排泄が滞るので高ミネラル血症になる。
高リン血症、高カリウム血症など。
しかしカルシウムに関しては別の挙動を示します。
腎機能が落ちると、腎臓でビタミンDの産生が落ちるため、腸からのカルシウム吸収が落ち、低カルシウム血症になります。
高リン血症、低カルシウム血症になると、ホメオスターシスが働き、副甲状腺ホルモンを分泌することによってカルシウム濃度を上げようとします。
これが二次性副甲状腺機能亢進症です。
腎不全患者ではビタミンDの産生が落ちるので、ビタミンD製剤の投与がされることが多い。
カルシウム・リン積
カルシウム・リン積とは、血液中のカルシウムとリンの濃度をかけた数値のことです。
健常人の場合、血液中のカルシウム濃度はおよそ9mg/dL、リンの濃度はおよそ4mg/dLなので、カルシウム・リン積は35前後となります。
異所性石灰化症は、カルシウム・リン積が60以上になった場合に起こりやすい。
日本透析医学会のガイドラインでは、血清リン(P)の管理目標値は透析前で3.5~6.0mg/dl、 血清カルシウム(Ca)の管理目標値は8.4~10.0mg/dlとなっています。
カルシウムとリンを掛け合わせたCa・P積を55以下にすることが大切です。
高リン血症治療薬一覧
高リン血症治療薬は、リン吸着薬とも呼ばれ、消化管内でリンと結合して糞中リン排泄を促進することにより、消化管からのリン吸収を抑制し血中リン濃度を低下させるという作用機序である。
分類 | 薬品名 | 一般名 | 剤形・規格 | 用法用量 | 適応 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Ca含有 | カルタン | 沈降炭酸カルシウム | 細粒(83%)、錠(250㎎、500㎎)、OD錠(250㎎、500㎎) | 1回1g 1日3回 食直後 | 保存期及び透析中の慢性腎不全 | ||
Ca非含有 | ポリマー | フォスブロック/レナジェル | セベラマー塩酸塩 | 錠(250㎎) | 1回1000~2000mg 1日3回 食直前(1日9000mgまで) | 透析中の慢性腎不全 | |
キックリン | ビキサロマー | 顆粒(86.2%)、250㎎ | 1回500mg 1日3回 食直前(1日7500mgまで) | 透析中の慢性腎不全 | |||
金属系 | 鉄 | リオナ | クエン酸第二鉄 | 錠(250㎎) | 1回500mg 1日3回 食直後(1日6000mgまで) | 慢性腎臓病 | |
ピートル | スクロオキシ水酸化鉄 | 顆粒分包(250㎎、500㎎)、チュアブル錠(250㎎、500㎎) | 1回250mg 1日3回 食直前(1日3000mgまで) | 透析中の慢性腎臓病患者 | |||
ランタン | ホスレノール | ランタン | 顆粒分包(250㎎、500㎎)、OD錠(250㎎、500㎎)、チュアブル錠(250㎎、500㎎) | 1回250mg 1日3回 食直後(1日2250mgまで) | 慢性腎臓病 |
適応症はそれぞれ、
・フォスブロック/レナジェル:下記患者における高リン血症の改善 透析中の慢性腎不全患者
・カルタン:下記患者における高リン血症の改善 保存期及び透析中の慢性腎不全患者
・リオナ:慢性腎臓病患者における高リン血症の改善
・キックリン:慢性腎臓病患者における高リン血症の改善
・ホスレノール:慢性腎臓病患者における高リン血症の改善
・ピートル:透析中の慢性腎臓病患者における高リン血症の改善
となっており、フォスブロック/レナジェルとピートルは透析患者にしか使えない。
ピートルチュアブル錠のインタビューフォームに「1000mgのリン酸の吸着に必要なリン吸着薬の量」を比較したデータが載っているが、消化管のpHによってもリン吸着能が異なる。
ピートルチュアブルやフォスブロック・レナジェルはどのpHでも高い吸着力を示す。ホスレノールやカルタンはpHによってリン吸着能が左右される。
カルタンの特徴
カルシウム含有製剤。
リン吸着薬は大きくはカルシウム含有製剤と非含有製剤に分かれます。炭酸カルシウム製剤のカルタンは古くから使用されています。
血中カルシウムが高い場合はカルシウムを含まないカルシウム非含有製剤のほうがよい。
メリット
・他剤に比べて消化器系副作用が少ない
デメリット
・胃内pHによってリン吸着能が左右される。胃酸分泌抑制薬内服時など、胃内pH上昇するとCaの解離が低下しリン吸着力が低下する。
・1日服用量は6錠とほかのリン吸着薬と比べ少な目ではあるが、リン値が高くても増量できないのはデメリット。
フォスブロック/レナジェルの特徴
ポリマー性カルシウム非含有製剤。
メリット
・カルシウムを含まないので高カルシウム血症の心配がない。カルシウム負荷による血管石灰化のリスクが無い。
・胃内pHによってリン吸着能が左右されることが少ない。
デメリット
・便秘・腹部膨満などの消化器症状が多い。
・適応が透析中の慢性腎不全に限られ、保存期には使えない。
・ポリマー製剤で、1日服用量が12錠から36錠と多く、服用が大変。
・ポリマー製剤で、水分を吸収し腸内で膨潤することにより腸管内容物の通過障害を来すおそれがあることから、便秘を発現・悪化させる。
リオナの特徴
鉄含有製剤。非ポリマー性リン吸着薬。
メリット
・カルシウムを含まないので高カルシウム血症の心配がない。カルシウム負荷による血管石灰化のリスクが無い。
・非ポリマー性なので、ポリマー性のリン吸着薬で認められる便秘や腸閉塞・腸管穿孔等の重篤な胃腸障害の発現リスクが低い。
・鉄なので、ランタンの長期投与に伴う骨への蓄積のような懸念は少ない。
・胃内pHによってリン吸着能が左右されることが少ない。
デメリット
・1日服用量は6錠から24錠と多く、服用が大変。
ピートルの特徴
鉄含有製剤。非ポリマー性リン吸着薬。
メリット
・カルシウムを含まないので高カルシウム血症の心配がない。カルシウム負荷による血管石灰化のリスクが無い。
・チュアブル錠は水なしで飲めるので、水分制限を気にせず服用できます。
・1日服用量は1日3錠から6錠と、他のリン吸着薬と比べ少な目である。
・非ポリマー性なので、ポリマー性のリン吸着薬で認められる便秘や腸閉塞・腸管穿孔等の重篤な胃腸障害の発現リスクが低い。
・鉄なので、ランタンの長期投与に伴う骨への蓄積のような懸念は少ない。
・胃内pHによってリン吸着能が左右されることが少ない。
デメリット
・適応が透析中の慢性腎不全に限られ、保存期には使えない。
キックリンの特徴
ポリマー性カルシウム非含有製剤。
メリット
・カルシウムを含まないので高カルシウム血症の心配がない。カルシウム負荷による血管石灰化のリスクが無い。
・ポリマー製剤ではあるが、膨潤の程度が小さく、消化管系の副作用が比較的少ない。
デメリット
・1日服用量が1日6~30カプセルと多く、服用が大変。
・ポリマー製剤で、水分を吸収し腸内で膨潤することにより腸管内容物の通過障害を来すおそれがあることから、便秘を発現・悪化させる。
ホスレノールの特徴
ランタン製剤。
メリット
・チュアブル錠は水なしで飲めるので、水分制限を気にせず服用できます。
・ポリマー製剤に比べ服薬錠数が少なめで飲む。1日服用量は3錠から9錠。
・カルシウムを含まないので高カルシウム血症の心配がない。カルシウム負荷による血管石灰化のリスクが無い。
デメリット
・吐き気、嘔吐などの消化器症状がある。
・長期投与における蓄積のエビデンスが十分とはいえない。
・胃内pHにかかわらず高いリン除去効果を示す。
ランタンは、消化管内で食物由来のリン酸イオンと結合して不溶性のリン酸ランタンを形成し、腸管からのリン吸収を抑制することにより、血中リン酸濃度を低下させる。
ホスレノールの成分はランタン、重金属である。
重金属と聞くと、水銀、ヒ素、鉛、カドミウムなど危険なイメージを浮かべる人も多いですが、鉄、亜鉛、銅、マンガンなどの必須元素も重金属ですので一概に危険というわけではありません。
ランタンの吸収率は0.001%程度で、蛋白結合率も99.7%と非常に高く糸球体濾過されないため、腎からほとんど排泄されず、糞便中に排泄されるので腎不全でも蓄積される恐れはありません。
しかし、長期的な安全性、骨への蓄積における影響などは懸念されている。
リン吸着薬の併用
リンを吸着する薬は、他のミネラル、カルシウムや鉄やランタンにも影響を及ぼすことは無いのか?
リン吸着薬同士の併用は可能なのだろうか。
リンは陰イオン、カルシウムや鉄やランタンは陽イオンなのでくっつくが、カルシウムと鉄やランタンなど陽イオン同士はくっつかない。
カルタンからフォスブロックへの切り替え
Q:透析患者の高リン血症に,リン吸収抑制薬を炭酸カルシウムから塩酸セベラマー(フォスブロック,レナジェル)に変更したいが,注意点は?
質疑応答 2007年3月
A:炭酸カルシウムから一度に塩酸セベラマーに変更すると,便秘症状の悪化や腹部膨満発症の原因となるため,塩酸セベラマーを少量ずつ追加し,血清リン値の低下とともに炭酸カルシウムを漸減していく。炭酸カルシウムの投与量が1日3g未満の場合は塩酸セベラマーを1回1g,炭酸カルシウムの投与量が1日3g以上の場合は塩酸セベラマーを1回2g,1日3回食直前から投与を開始する。
フォスブロックの添付文書にも、
沈降炭酸カルシウムから切り替える場合
沈降炭酸カルシウムの投与量が1日3g未満の場合は1回1gから、1日3g以上の場合は1回2gから投与を開始し、その後血清リン濃度の程度により適宜増減する。
と書いてあります。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
そんな薬剤師には、m3.com(エムスリードットコム)の、薬剤師のための「学べる医療クイズ」がおすすめ。
2 件のコメント
初めまして。私は専門医として透析医療に従事している者です。わかりやすくリン吸着剤をまとめて下さって大変参考になりました。有難うございます。
ホスレノールについて、「胃内pH上昇するとCaの解離が低下しリン吸着力が低下する」と書かれていますが、CaではなくLaの間違いですか?炭酸Caは胃内のPHが上がると効果が減弱することは誰しも認めていますが、ホスレノールに関してはまちまちで、添付文書を見ても相互作用のある薬剤にPPIやH2 blockerは挙げられていません。しかし、リオナやピートルのメーカーは、自社製品がPHに影響されないことをPRしたいのに加え、一番売れているホスレノールの足を引っ張りたい意図も見え隠れしますが、ホスレノールは制酸剤で効果が減弱するとしたデーターを見せてきます。どっちが正しいのかわかりません。ホスレノールの作用がPHに影響されるとすれば、どういう機序でリンの吸着効果が阻害されるのでしょうか?ご教示いただければ幸いです。
コメントありがとうございます。
ホスレノールの指摘箇所、間違っていましたので訂正してお詫び申し上げます。
私のような未熟な薬剤師のブログにコメントいただきありがとうございます。以下、釈迦に説法となってしまいますが、私なりに調べた結果を述べさせていただきます。
ホスレノールについては、インタビューフォームで、
「リン元素として300mgを含有するリン酸ナトリウム溶液をpH3,5,7に調整後,炭酸ランタン,炭酸カルシウム,酢酸カルシウム,水酸化アルミニウムをそれぞれ添加して反応させた後,その反応液をろ過し,リン除去率を算出した.炭酸ランタンはpH3で97.5%,pH5で97.1%,pH7で66.6%のリン除去率を示し,pHに依存せず,高いリン結合作用が認められた. 水酸化アルミニウムも同様に各pHで高いリン除去率を示したが,炭酸カルシウム及び酢酸カルシウムのpH3におけるリン除去率は0%で,pH5では90%以上であったが,pH7では炭酸カルシウム6.2%,酢酸カルシウム99.9%であった。」
とpHに依存せず,高いリン結合作用が認められたとのことです。
ピートルについては、インタビュフォームで、
スクロオキシ水酸化鉄,セベラマー塩酸塩,炭酸ランタン水和物及び沈降炭酸カルシウムをリン酸標準溶液と室温で1時間インキュベートし,リン吸着能を比較検討した。臨床での効果を推測するため,消化管内の条件を模したpH3.0, 5.5及び8.0にてリン吸着能を評価し,1000mgのリン酸の吸着に必要なリン吸着薬の量を求めた。スクロオキシ水酸化鉄の必要量(鉄量として)は, pH3.0, 5.5及び8.0でそれぞれ1.72g, 2.46g及び3.9gであり,いずれのpHにおいてもリン吸着能を示した(原薬のスクロオキシ水酸化鉄量としてはそれぞれ8.6g, 12.3g及び19.5g)。
行われている試験の様式も違うので一概に比較はできませんが、方法としては、ホスレノールで行っている「どの程度リンを除去したか」という試験のほうが信憑性があって、ピートルで行っている「100%リンを除去するのにどのくらいの薬の量が必要か」という比較試験は、先生がおっしゃっている通り、「ホスレノールよりピートルが優れている」という点を強調したいだけの、作られたグラフのように見えてきます。
300mgのリン吸着だと差が出なくて、1000mgのリン吸着だと差が出たのかも知れません。
個人的には、ランタンとリンのイオン結合よりも、ピートルの複合体構造はリンをガッチリとキャッチしていて、pHの変動でも離れにくそうなイメージではあります。