2025年6月22日更新.2,504記事.

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ニューキノロンのキレート形成しやすさには強弱がある?

ニューキノロンと金属カチオンの相互作用:キレート形成の強さ

ニューキノロン系抗菌薬は、広い抗菌スペクトルを持ち、さまざまな感染症の治療に用いられています。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、同時に服用する薬剤や食品との相互作用に注意が必要です。中でもよく知られているのが、金属カチオンとの相互作用、つまりキレート形成による吸収阻害です。金属イオンとの併用による影響の程度や、ニューキノロン系薬剤ごとの違い、そして服薬指導における現実的な対応について勉強していきます。

金属カチオンとの併用による吸収低下

ニューキノロンやテトラサイクリンなどの抗菌薬は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)などの金属イオンと結合して不溶性のキレートを形成することで、消化管からの吸収が著しく低下することが知られています。

このため、以下のような一般的な服薬指導が行われます:

・制酸薬(アルミニウム・マグネシウム含有)と併用しないようにする
・鉄剤やカルシウム製剤、サプリメントとの併用に注意する
・牛乳や乳製品との時間を空ける

たとえば、バファリンのようなNSAIDsの中にはアルミニウムが含まれる製剤もあるため、意外なところに注意が必要です。

本当にそんなに影響があるの?

「多少吸収が下がっても、まったく効果がなくなるわけじゃないのでは?」
「むしろ、飲み忘れるより一緒に飲んだほうがいいのでは?」

このような疑問は現場でもよく聞かれます。確かに、すべての組み合わせが劇的に効果を損なうわけではなく、相互作用の程度には薬剤ごとの差が存在します。

金属カチオンとのキレート形成能の強さ(一般的傾向)

まず、金属イオン側のキレート形成力には以下のような強さの順序があります:

Al > Cu > Zn > Mg > Fe > Ca

この順番は、キレート形成に関与する金属の電荷密度や錯形成定数に基づいています。アルミニウムは最も強く、カルシウムは比較的弱いとされています。

ニューキノロン系薬剤ごとのキレート感受性

同じニューキノロンでも、薬剤によって金属イオンとの相互作用の強さが異なります。以下に、代表的なニューキノロン系薬剤のキレート形成による吸収阻害の程度を示します(吸収率低下の程度に基づいた概略):

強く影響を受けやすいやや影響を受ける比較的影響が少ない
バクシダール(ノルフロキサシン)ガチフロ(ガチフロキサシン)ロメバクト、バレオン(ロメフロキサシン)
シプロキサン(シプロフロキサシン)クラビット(レボフロキサシン)
スオード(トスフロキサシン)
オゼックス(トスフロキサシン)

具体例として、以下のようなデータがあります:
・バクシダール+アルミニウム → AUC(血中濃度曲線下面積)97%低下
・バクシダール+牛乳 → 40%低下
・クラビット+アルミニウム → 44%低下
・クラビット+牛乳 → 影響ほぼなし

このように、薬剤により大きな差があることから、服薬指導は一律でなく、使用薬剤に応じて調整すべきです。

服用タイミングによる影響の緩和

ニューキノロンのTmax(最高血中濃度到達時間)は1~2時間程度であり、胃腸内にとどまっている時間も比較的短いです。

一方、アルミニウムやマグネシウムなどの金属カチオンは、腸管からほとんど吸収されず、結腸に達するまでに約4時間かかるとされています。

このため、服用タイミングを工夫することで、相互作用の影響を最小限に抑えることが可能です。

おすすめの服用間隔:
・ニューキノロン服用 → 2時間以上あけて金属剤服用
・または、金属剤服用 → 3~6時間あけてニューキノロン服用

実際の服薬指導では、患者の理解度や服薬コンプライアンスを踏まえ、「とにかく同時には避ける」「食間にニューキノロン、食後にサプリ」といった簡易的な説明も有効です。

また、「抗菌力がゼロになるわけではない」という点も事実ですが、耐性菌の出現防止や治療効果の最大化のためには、可能な限り相互作用の回避が望まれます。

まとめ

・ニューキノロンと金属カチオンはキレートを形成し、吸収を阻害することがある
・金属側ではAlが最も影響が強く、Caは比較的影響が弱い
・薬剤ごとに吸収阻害の程度は異なる(特にバクシダールは大きく低下)
・服用間隔を2~6時間空けることで相互作用を軽減できる
・現場では、過度な厳密さよりも「飲み方の工夫」で継続性を重視することも大切

服薬指導の際には、薬剤の性質と患者の生活リズムのバランスを取りながら、より現実的な指導が求められます。

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