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ダスモックで肺がキレイになる?清肺湯の効果
公開. 更新. 投稿者: 4,880 ビュー. カテゴリ:喘息/COPD/喫煙.この記事は約5分51秒で読めます.
目次
「肺をキレイにする薬」って本当にあるの?

最近、テレビCMやドラッグストアでよく見かける「ダスモック(小林製薬)」。
パッケージにはこう書かれています。
「タバコ・排気ガスなどでつらいせき・たんなどに。気管支の汚れをキレイにして、たん・せきを治し、呼吸を楽に!」
「肺をキレイにする」という響きは、とても魅力的です。
特に、タバコを吸っている方や、咳や痰が続く方にとっては「まるで洗浄してくれる薬」のように感じるかもしれません。
しかし、薬剤師の立場から見ると、少し注意が必要です。
「気管支の汚れをキレイにする」という表現は、生理学的な意味では存在しないからです。
ダスモックの有効成分である清肺湯(せいはいとう)とは何か、
そして「肺をキレイにする」という表現の真意について詳しく解説します。
ダスモックとは? ― 小林製薬流の“ネーミング漢方”
ダスモックは、漢方薬の清肺湯(せいはいとう)をベースにした市販薬です。
小林製薬が近年得意としている、「伝統的な漢方処方にわかりやすい商品名をつける戦略」のひとつですね。
たとえば:
・チクナイン → 辛夷清肺湯(鼻づまり・副鼻腔炎に)
・ナイシトール → 防風通聖散(肥満症・便秘に)
・コムレケア → 芍薬甘草湯(こむら返りに)
そして、ダスモックは「スモーク(煙)を出す」「モヤモヤを出す」という語感から名付けられた清肺湯のOTC製剤です。
「モヤモヤした肺をキレイにする」といったイメージを訴求しています。
清肺湯とは ― 漢方的な“清熱・去痰”の方剤
清肺湯は、江戸時代から伝わる漢方処方のひとつで、
体力中等度で痰が多く、咳が長引くタイプに用いられる薬です。
● 清肺湯の構成生薬(一般的な処方例)
・桔梗(ききょう)
・杏仁(きょうにん)
・黄芩(おうごん)
・山梔子(さんしし)
・麻黄(まおう)
・桑白皮(そうはくひ)
・貝母(ばいも)
・甘草(かんぞう)
・人参(にんじん)
・地骨皮(じこっぴ) など
これらの生薬はそれぞれ、
・去痰作用(痰を切れやすくする)
・鎮咳作用(咳を抑える)
・抗炎症・清熱作用(気道の炎症を鎮める)
をもっています。
清肺湯のメカニズム ― 「肺を掃除する」ではなく「炎症を鎮める」
「肺をキレイにする」とは、文字通り“洗浄”するわけではありません。
清肺湯は、気道の炎症や過剰な粘液分泌を整えることで、結果的に“呼吸が楽になる”のです。
● 作用のポイント
①気道粘液の分泌を促す
→ 痰をサラサラにし、繊毛運動(気道の掃除機能)を助ける。
②気管支の炎症を鎮める
→ 黄芩や山梔子が熱や炎症を抑える。
③咳反射の過敏性を低下させる
→ 桔梗・杏仁などが鎮咳効果を発揮。
④気道の粘膜を保護する
→ 甘草や人参が粘膜をうるおし、修復を助ける。
つまり、「肺の汚れを掃除する」ではなく、
「気道の炎症と粘液バランスを正常化させる」のが正しい理解です。
ダスモックと医療用清肺湯の違い
小林製薬のダスモックは「第2類医薬品」に分類されるOTC薬です。
有効成分は清肺湯エキスですが、医療用漢方製剤に比べると生薬量が少なめです。
つまり、「ダスモックはマイルドな清肺湯」と考えて良いでしょう。
軽い咳や痰が長引く方、または禁煙後の違和感などに試すことはできますが、
慢性的な咳や喫煙性の咳嗽には医師の診断が必要です。
「肺をキレイにする」という表現の問題点
ダスモックのキャッチコピーである
「気管支の汚れをキレイにして、呼吸を楽に!」
という表現には、医学的な誤解を招く可能性があります。
❌ 肺は“汚れ”をため込む臓器ではない
肺には本来、自己防御機能(線毛運動・マクロファージ)があり、
異物や汚染物質を常に排出しています。
「汚れが溜まっている」わけではありません。
問題は「炎症」と「粘液分泌の異常」
喫煙や大気汚染によって、肺や気道の粘膜に慢性炎症が起こり、
痰が増えたり、咳が出やすくなったりします。
清肺湯はこの“炎症と粘液の異常”を鎮める薬であり、
「掃除する」のではなく「整える」働きを持つのです。
タバコと咳・痰 ― まず禁煙が最優先
ダスモックを買いに来る方の多くは、喫煙者です。
しかし、薬剤師として最も伝えたいことはただ一つ。
まず、タバコをやめましょう。
喫煙によって起こる慢性気管支炎やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は、
どんな薬でも「治す」ことはできません。
清肺湯やダスモックは一時的に症状を和らげることはできますが、
原因そのもの(タバコによる炎症)は残ったままです。
禁煙をすると、気道の炎症が徐々に改善し、
体が本来持っている「肺を守る力(繊毛運動やマクロファージ活性)」が回復します。
ダスモックはその「回復を助けるサポート薬」として位置づけるのが適切です。
似た市販薬・代替薬との比較
・ダスモック(清肺湯エキス):去痰・鎮咳+抗炎症(漢方系)
・クールワン去痰カプセル(L-カルボシステイン):痰をサラサラにして排出促進
・麦門冬湯(バクモンドウトウ)(漢方製剤):乾いた咳に(乾性咳嗽)
・銀翹散(ぎんぎょうさん)(漢方製剤):急性の咽頭炎・風邪の初期に
湿性の咳や痰にはダスモック、
乾いた咳には麦門冬湯、
ウイルス性の咽頭炎なら銀翹散――
このように、咳のタイプ別に選ぶのが大切です。
ダスモックを使う際の注意点
・即効性はない:漢方薬は数日〜数週間の服用で効果が出ることが多い。
・長引く咳は医師へ:3週間以上続く場合は、感染症や喘息、COPDの可能性も。
・併用注意:他の漢方薬(特に甘草含有)との重複に注意。
・体力目安:清肺湯は「体力中等度〜やや虚弱」に適する。虚証が強い人には合わないことも。
清肺湯が向くタイプ/向かないタイプ
・湿った咳・痰が絡む ◎ :痰が黄〜粘稠で切れにくい場合に効果的
・乾いた咳・空咳 × :麦門冬湯などが適す
・急な発熱・風邪初期 △ :銀翹散などを優先
・COPD・慢性咳嗽 ○ :補助療法として有用(ただし禁煙が前提)
まとめ ―「肺をキレイにする」は比喩である
成分:清肺湯エキス(漢方)
働き:気道の炎症を鎮め、痰を切れやすくする
「肺をキレイに」 実際には炎症や粘液異常を整えること
注意点:禁煙が前提、長引く場合は受診を
対象:痰が絡む湿性の咳に向く
ダスモックは、ネーミングのインパクトで「肺を掃除する薬」と誤解されがちですが、
その実態は「気管支を整える漢方薬」です。
体内の“掃除”をするのではなく、炎症を鎮め、痰を切れやすくし、呼吸を楽にします。
そして何より、喫煙によるダメージを減らす最も確実な方法は、禁煙です。
「薬でキレイに」よりも、「吸わないことで守る」。
それが、本当の“肺をキレイにする方法”です。





2 件のコメント
カナダに住んでます。ルームメイトが部屋で葉っぱを吸っている為,何も吸っていない私の肺から絶えず煙の匂いがします。煙が嫌いなのでとにかく辛いです。いわゆる受動喫煙症では無いかと思います。ダスモックはそんな私にも効果はあるのでしょうか?
コメントありがとうございます。
わかりません。