2025年10月8日更新.2,645記事.

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シュアポストは低血糖になりやすい?グリニド系薬の使い分け

グリニド系薬の使い分け―シュアポスト・グルファスト・ファスティックを比較する―

糖尿病治療薬のなかで、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド系)は「食直前に服用し、食後の急激な血糖上昇を抑える」という特徴をもつ薬剤群です。SU薬(スルホニルウレア薬)と同じく膵β細胞からのインスリン分泌を促進しますが、作用の発現や持続時間が異なるため、「食後高血糖の改善薬」として位置づけられています。

しかし、同じグリニド系でも薬剤ごとに性質が微妙に異なり、処方頻度にも差があります。実臨床では、シュアポスト(レパグリニド)>グルファスト(ミチグリニド)>ファスティック(ナテグリニド)の順に使われることが多いのではないでしょうか。

各薬剤の薬理作用や臨床上の特徴を整理し、なぜシュアポストがよく処方されるのか、低血糖リスクとの兼ね合いはどう考えるべきかを勉強します。

グリニド系薬とは

基本的な作用機序
グリニド系薬は、膵β細胞膜上のATP感受性K⁺チャネル(KATPチャネル)に作用し、チャネルを閉鎖します。これにより細胞膜が脱分極し、Ca²⁺チャネルが開口、細胞内にカルシウムが流入し、インスリンが分泌されます。

SU薬と同じメカニズムですが、グリニド系は作用発現が速く、持続時間が短い点が特徴です。

グリニド系の位置づけ
・作用開始が速い → 食直前服用で食後血糖の上昇を抑える
・作用持続が短い → SU薬と比べ低血糖リスクが少ない
・HbA1c改善効果はやや弱め → 主に「食後高血糖の是正」に狙いを絞った薬

グリニド系薬の種類と特徴

現在日本で使用されている主なグリニド系薬は以下の3剤です。

一般名製品名作用発現作用持続排泄経路主な特徴
ナテグリニドファスティック、スターシス速い短い腎排泄初期に登場。食後血糖抑制に限定。
ミチグリニドグルファスト速い比較的短い腎排泄日本で開発。効果はマイルド。
レパグリニドシュアポスト速いやや長い胆汁排泄空腹時血糖も下げ、HbA1c改善効果が明確。

各薬剤の特徴と臨床評価

ファスティック(ナテグリニド)
・グリニド系の先駆けとして登場。
・作用発現が速く、食後血糖スパイクの抑制効果はある。
・しかし作用持続が非常に短く、空腹時血糖への影響は乏しい。
・HbA1c全体の改善効果が限定的なため、近年は使用頻度が低下している。

グルファスト(ミチグリニド)
・日本で開発された薬剤。
・ナテグリニドに比べるとやや持続時間が長く、効果はマイルド。
・腎排泄型のため、腎機能低下患者では血中濃度が上昇する可能性がある。
・処方はされるが、第一選択で使われることは少ない印象。

シュアポスト(レパグリニド)
・作用は速効型だが、他のグリニドより持続がやや長い。
・そのため「食後血糖」だけでなく「空腹時血糖」にも効果が及ぶ。
・HbA1c全体を下げる効果が明確で、臨床で「効きが良い」と実感されやすい。
・胆汁排泄型のため、腎機能障害のある患者でも比較的安全に使用できる。
・その反面、低血糖リスクは他のグリニドより高め。特に高齢者や食事量の不安定な患者では注意が必要。

シュアポストがよく処方される理由

① HbA1c全体を下げやすい
・グルファストやファスティックは「食後血糖の改善」に留まることが多い。
・一方、シュアポストは空腹時血糖も下げるため、HbA1c全体に寄与しやすい。
・医師にとって「効きが見えやすい」薬であることが大きい。

② 腎機能障害でも使いやすい
・糖尿病患者では腎機能低下を合併していることが多い。
・グルファストやファスティックは腎排泄型で注意が必要だが、シュアポストは胆汁排泄型で比較的安心。

③ SU薬より安全とされる
・SU薬(特にグリベンクラミド)は低血糖リスクが大きな問題。
・シュアポストは作用時間が長いとはいえSU薬ほどではなく、低血糖の深刻さは軽い。
・「SU薬を避けたいけれど、HbA1cをある程度下げたい」というケースで選ばれやすい。

デメリット:低血糖リスク

・他のグリニドに比べ、低血糖リスクは高め。
・特に 食事を抜いたとき、高齢者、腎機能低下患者では注意が必要。
・ただし、SU薬のような長時間の低血糖ではなく、比較的軽度~中等度で済むケースが多い。
・服薬指導では「食直前に必ず服用」「食事を抜くときは服用を中止」と伝えることが必須。

実際の処方傾向

実感として、処方頻度は以下の順になっているケースが多いでしょう。

シュアポスト > グルファスト > ファスティック

この傾向は、
・HbA1c全体を下げる効果の明確さ
・腎機能障害患者でも使いやすい点
・医師にとって「効きが見える」点
が理由になっていると考えられます。

低血糖リスクというデメリットはあるものの、それを上回るメリットが臨床で評価されているということです。

薬剤師としての服薬指導ポイント

食直前服用を徹底
→ 食事を抜くときは服用しない。

低血糖症状の確認
→ 冷や汗・ふらつき・空腹感などの症状が出たらブドウ糖を摂取。

他の糖尿病薬との併用時に注意
→ インスリン、SU薬、SGLT2阻害薬などとの併用でリスク増。

高齢者・腎機能障害患者には慎重に
→ 特に少食・不規則な食生活の人には注意を強調。

まとめ

・グリニド系薬は「食直前投与で食後血糖スパイクを抑える」薬。
・ファスティック(ナテグリニド)は作用が短く、近年は使用頻度が減少。
・グルファスト(ミチグリニド)はマイルドな効果だが、腎排泄型で注意が必要。
・シュアポスト(レパグリニド)は作用がやや長く、空腹時血糖も下げるため、HbA1c改善効果が明確。
・低血糖リスクは高めだが、SU薬ほど深刻ではなく、臨床では「メリットのほうが大きい」と評価されている。

結果として、「処方頻度:シュアポスト > グルファスト > ファスティック」という現状が形成されていると考えられます

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