記事
ニューキノロンは小児に禁忌?
公開. 更新. 投稿者:抗菌薬/感染症.この記事は約4分56秒で読めます.
10,618 ビュー. カテゴリ:目次
ニューキノロンは小児に禁忌?

ニューキノロン系抗菌薬(フルオロキノロン系)は、広域スペクトラムを持ち、呼吸器感染症や尿路感染症など幅広い感染症に用いられる強力な抗菌薬です。しかし、日本の添付文書上では基本的に小児への投与は禁忌とされており、臨床現場でも「子どもには使ってはいけない薬」という印象が強く根付いています。
では、なぜ小児に禁忌とされているのか、例外的に使用できる薬剤はあるのか、また海外ではどう扱われているのか勉強していきます。
ニューキノロンの小児禁忌の理由
ニューキノロン系抗菌薬は、動物実験において関節障害が報告されたことから、小児への使用が制限されています。具体的には、幼若犬やラットなどの成長期の動物に投与した際、関節軟骨に損傷を与え、軟骨変性や関節痛を生じたという知見があるのです。
この現象は、いまだに正確な発症機序が解明されていませんが、以下のような仮説があります。
金属イオンとのキレート形成
カルシウムなどの二価金属イオンと結合することで、軟骨形成や骨の成長に悪影響を及ぼす可能性。
ミトコンドリア毒性
細胞のエネルギー産生を担うミトコンドリアに対して障害を与えることで、成長期の組織にダメージを与える可能性。
酸化ストレスの増加
酸化的ストレスを介して軟骨細胞を傷害する可能性。
こうした動物実験の知見を受け、日本の添付文書では「小児への投与は原則禁忌」と記載されるに至りました。
小児に適応を持つニューキノロン
ただし、例外的に小児に投与できるニューキノロンも存在します。代表的なのは以下の2剤です。
バクシダール(ノルフロキサシン)
小児用に適応のある感染症:
表在性皮膚感染症、慢性膿皮症、咽頭・喉頭炎、扁桃炎、急性気管支炎、膀胱炎、腎盂腎炎、感染性腸炎、腸チフス、パラチフス、炭疽、野兎病
比較的幅広い感染症に適応を持っていますが、呼吸器感染症(肺炎や中耳炎)に適応がない点が臨床現場では使いにくさにつながっていました。
オゼックス(トスフロキサシン)
小児用製剤(オゼックス細粒小児用15%)の適応症:
肺炎、中耳炎、コレラ、炭疽
特に小児の日常診療で多い肺炎や中耳炎に適応を持つ点が大きな特徴であり、耐性菌の問題に直面する小児感染症領域において、処方される機会が増えました。
小児感染症と耐性菌の問題
小児感染症の分野では、耐性菌の増加が大きな課題となっています。
・PRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)
・BLNAR(βラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌)
これらは耳鼻科領域や小児科領域でしばしば問題となる耐性菌であり、従来のペニシリン系やセフェム系抗菌薬では治療が難しい症例が増加してきました。
そのため、小児に使用可能で、かつこれらの耐性菌に有効なニューキノロン(特にオゼックス)の登場は、臨床的に大きな意義があったといえます。
海外でのニューキノロン使用状況
日本では「小児=原則禁忌」というスタンスが取られていますが、海外では必ずしもそうではありません。
例えば米国ではレボフロキサシン(クラビット)も小児に対して禁忌とはされておらず、実際に小児呼吸器感染症などで使用されることもあります。
この背景には、以下のような考え方があります。
・耐性菌の増加により、治療選択肢が限られるケースがある。
・重症感染症では「軟骨障害リスクよりも生命予後の改善が優先される」。
・長期的な追跡調査において、ヒト小児における関節障害のリスクは必ずしも明確に高いとは言えない。
つまり、日本はより慎重な立場を取っているのに対し、アメリカなどでは「必要な場合には使う」という柔軟な運用がなされているのです。
ニューキノロンのリスクとベネフィットのバランス
臨床現場では、常に「副作用リスク」と「治療ベネフィット」のバランスが考慮されます。
・原則としては禁忌:軽症感染症であれば、他の安全性が高い抗菌薬を優先する。
・やむを得ない場合の選択肢:重症感染症や耐性菌による治療困難例では、ニューキノロンが選ばれることもある。
薬剤師としては、以下の点を意識して服薬指導や処方鑑査に臨むことが重要です。
適応症の確認
バクシダールやオゼックスの添付文書を確認し、適応外使用になっていないかを確認する。
年齢・体重に応じた用量設定
小児は体重に基づいて投与量が決定されるため、計算ミスがないか注意する。
副作用モニタリング
関節痛や歩行異常などの症状が出ていないか、保護者への説明と観察を徹底する。
代替薬の検討
βラクタム系やマクロライド系で十分にカバーできる場合は、リスクの少ない薬剤を優先する。
まとめ
ニューキノロン系抗菌薬は、原則として小児に禁忌とされています。これは動物実験における関節障害の報告に基づくものですが、臨床的には例外的に使用可能な薬剤も存在します。
・バクシダール:適応はあるが肺炎や中耳炎には使いにくい。
・オゼックス:肺炎・中耳炎に適応があり、耐性菌問題に対応するため臨床現場で使用される。
・海外ではクラビットなども小児に投与可能とされるケースがある。
薬剤師としては、「小児にニューキノロン=絶対NG」という単純な理解ではなく、適応・リスク・ベネフィットを総合的に判断することが求められます。
今後も耐性菌の動向や海外での使用実績を踏まえ、日本における小児へのニューキノロン使用の位置づけが変化していく可能性もあるでしょう。
4 件のコメント
関節障害の機序も明らかではありませんが、薬剤のミトコンドリアに対する毒性や、金属とのキレートが関係している可能性も指摘されています。
というのをもう少し詳しく教えてください。
またこの件に関する何か文献があれば教えてください。
コメントありがとうございます。
すみません、拾い読みしたものをそのまま載っけてしまって、参考となる文献についてはよくわかりません。
ミトコンドリアに対する毒性というのは、ニューキノロンの作用機序であるDNAジャイレース阻害作用が、ミトコンドリアDNAにも働いて、ミトコンドリアの働きも阻害してしまって、関節に障害をきたすということでしょう。
金属とのキレートというのは、ニューキノロンがカルシウムとキレート結合してしまって、骨や関節が作られにくくなってしまうということでしょう。
おそらく。
「ちなみにアメリカ~」のところ誤字してませんか?
コメントありがとうございます。修正しました。