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経口補水液とスポーツドリンクの違いは?
公開. 更新. 投稿者:風邪/インフルエンザ.この記事は約6分5秒で読めます.
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水分補給に経口補水液─スポーツドリンクとの違いとは?

「水分補給が大事です」とよく言われますが、すべての水分が同じように体に吸収されるわけではありません。特に、下痢や嘔吐、発熱、運動後の発汗などで脱水が起こっているとき、ただの水やスポーツドリンクを飲んでも十分な効果が得られないことがあります。なぜなら、脱水状態では水分だけでなく、体内の電解質も失われており、それを適切に補わなければ、かえって体調を悪化させてしまうからです。
このような脱水症状に対して注目されているのが、経口補水液(ORS:Oral Rehydration Solution)です。経口補水液は「飲む点滴」とも呼ばれ、特に「OS-1」のような市販製品は、小児科や高齢者施設などでも推奨されることが増えてきました。
経口補水液(ORS)とは?
経口補水液とは、水にナトリウムやカリウムなどの電解質と、糖分を特定の比率で配合した飲料であり、下痢や嘔吐などによって失われた体液を効果的に補うために設計されています。医療現場でも点滴の代替手段として広く活用されており、特に軽度から中等度の脱水時においては、経口補水が推奨される第一選択肢です。
世界保健機関(WHO)や米国疾病対策センター(CDC)は、ORSを使った経口補水療法を長年にわたって支持しており、感染性胃腸炎による脱水や、発熱時の体液喪失などにおいて、高い効果が実証されています。
経口補水液の表示ルールが変わりました(2025年6月〜)
2025年6月から「経口補水液」と名乗るには、国の許可が必要になりました。これまではスポーツドリンクとあまり区別されず、「経口補水液風」の清涼飲料も店頭に並んでいましたが、今後は明確に線引きされます。正式な経口補水液は、「特別用途食品(病者用食品)」として消費者庁の基準を満たし、ナトリウム・カリウム・ブドウ糖の含有量や浸透圧などが厳格に定められています。例えばナトリウムは100mL中40〜115mg、浸透圧は270mOsm/kg以下などの条件があります。許可を受けていない飲料は、「経口補水液」「熱中症対策飲料」などの表示を使うことができません。見た目や味が似ていても、中身には大きな違いがあるのです。
スポーツドリンクとの違い
多くの人が「水分補給」と聞くと、ポカリスエットやアクエリアスなどのスポーツドリンクを思い浮かべるでしょう。確かにスポーツドリンクは軽度な脱水時や発汗による電解質の補給に役立ちますが、脱水症状が進行した状態では、必要な成分が不足しているのが実情です。
項目 | 経口補水液(OS-1) | スポーツドリンク |
---|---|---|
ナトリウム | 約50mEq/L | 9~23mEq/L |
カリウム | 約20mEq/L | 3~5mEq/L |
糖分 | 約2.5g/dL | 約6~10g/dL |
浸透圧 | 低張(250mOsm/L前後) | 等張~高張(約300mOsm/L) |
ナトリウムは水の吸収を助け、カリウムは細胞内の浸透圧や神経伝達、筋肉の機能に不可欠です。スポーツドリンクではこれらの濃度が低く、糖分が過剰に含まれているため、逆に浸透圧性下痢を悪化させるリスクすらあります。特に乳幼児や高齢者では注意が必要です。
スポーツドリンクにも違いがある?「アイソトニック」と「ハイポトニック」
一口にスポーツドリンクといっても、実はすべてが同じ設計ではありません。大きく分けると、「アイソトニック飲料」と「ハイポトニック飲料」の2種類があります。それぞれ、体液との“濃度バランス”=浸透圧に違いがあり、使い分けが重要です。
●アイソトニック飲料とは
「アイソトニック(isotonic)」とは、体液(血液など)とほぼ同じ浸透圧をもつ飲料のことです。糖分や電解質(ナトリウム・カリウムなど)がバランスよく配合されており、運動前や日常生活での水分補給に適しています。ポカリスエットやアクエリアス(通常品)などが代表例です。
ただし、体液と同じ濃度であるため、脱水時には体内への吸収がやや遅れることもあります。
●ハイポトニック飲料とは
一方、「ハイポトニック(hypotonic)」は、体液よりも浸透圧が低く設定されている飲料です。糖質が少なめで水分がすばやく吸収されるため、運動中や運動直後、また大量に汗をかいたときの水分補給に向いています。アクエリアスゼロやポカリスエットイオンウォーターなどがこれにあたります。
吸収は速いものの、糖分が少ない分、エネルギー補給にはやや不向きです。
● 適切な使い分けが大事
・通勤・日常生活:アイソトニック
・軽い運動の前後:アイソトニック
・激しい運動中や発汗後:ハイポトニック
・高温多湿の屋外作業:ハイポトニック
経口補水液(ORS)とは異なり、これらのスポーツドリンクはあくまで日常生活や運動時の「軽度〜中等度の脱水」への対応を想定しています。経口補水液ほど塩分濃度は高くないため、医療目的の脱水補正には向きません。
なぜ経口補水液が優れているのか?
経口補水液は、ナトリウムとグルコースがほぼ1対1から2のモル比で含まれており、この比率が小腸にあるナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT1)を最大限に活用できる構成になっています。これにより、水分と電解質が一緒に効率良く吸収されるのです。
さらに、経口補水液は低張設計(体液よりやや低い浸透圧)になっており、これが水分の吸収効率をさらに高め、腸内に水がとどまるのを防ぎます。この低張性こそが、経口補水液が「飲む点滴」と呼ばれる所以です。
子どもにおける水分補給のポイント
小児は体重に対する体液量が多く、胃腸炎などの感染症にかかるとあっという間に脱水症状を起こします。そのため、経口補水液による早期の対応が重要です。
推奨される初期補水量は体重1kgあたり50〜100mLで、たとえば10kgの幼児では500〜1000mLを3〜4時間かけて与える必要があります。一度に大量に飲ませると吐いてしまうことがあるため、5〜10mLずつ、スプーンやスポイトでゆっくり与えるのが基本です。
ゼリータイプや味を工夫した経口補水液も市販されており、子どもが嫌がらずに飲めるよう様々な工夫がなされています。
家庭で作れる経口補水液
市販品が手に入らないときには、家庭で簡易的な経口補水液を作ることも可能です。以下がそのレシピです:
・水1L
・食塩3g(小さじ1/2)
・砂糖40g(大さじ4)
・レモン果汁少量(飲みやすくし、カリウムも補える)
ただし、塩分や糖分の配合比率を誤ると、吸収効率が下がるばかりか逆効果になることもあるため、正確な計量が求められます。
水分補給の落とし穴
水分補給としてアルコールやコーヒー、紅茶を選ぶ人もいますが、これらはカフェインやアルコールによる利尿作用があり、体内の水分をむしろ排出させてしまいます。
また、清涼飲料水やジュースを多量に摂取する「ペットボトル症候群」も問題です。これは糖分の過剰摂取によって高血糖になり、ケトアシドーシス(血液が酸性に傾く状態)を引き起こす疾患です。慢性的な疲労感や多尿、口渇を感じる方は要注意です。
冬の脱水と高齢者の注意点
冬でも脱水は起こります。特に高齢者はのどの渇きを感じにくく、暖房による乾燥も加わって、知らぬ間に脱水が進んでいる「かくれ脱水」状態になることがあります。
かくれ脱水とは、体重の1〜2%に相当する水分が失われているが、自覚症状がほとんどない状態を指します。この段階で気づいて補水を行うことが、深刻な脱水症状の予防につながります。
飲む点滴としての経口補水液
経口補水液は、医療現場で使われる点滴と同等の電解質バランスを持ち、かつ口から手軽に摂取できることから「飲む点滴」とも呼ばれています。点滴は確実に体内に成分を届けられる反面、侵襲的で時間もかかります。経口補水液なら、早期の対処が可能となり、入院を防ぐこともできます。
経口補水液の注意点と誤用
経口補水液はあくまで脱水症状時の治療用飲料であり、常用するべきではありません。日常的に飲むことで、ナトリウムやカリウムの過剰摂取となる可能性があります。特に腎機能が低下している人や高血圧の人には注意が必要です。
また、冷やしすぎたり、凍らせたり、とろみをつけるなどの加工をすると、濃度が変化し吸収効率が落ちてしまいます。
まとめ
水分補給とは、単に「水を飲む」ことではありません。体液に近いバランスで電解質を補える経口補水液は、脱水時における最も効果的な選択肢です。特に乳幼児や高齢者、感染症による嘔吐・下痢がある場合は、スポーツドリンクでは不十分です。状況に応じた適切な飲料の選択が、命を救う一歩になることもあります。
日頃から経口補水液を家庭に常備しておき、「飲む点滴」として正しく活用することをおすすめします。