2025年7月27日更新.2,546記事.

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ピルと抗菌薬の併用で避妊失敗?低用量ピルと抗菌薬の相互作用

低用量ピルと抗菌薬の相互作用

経口避妊薬(OC:Oral Contraceptives)、いわゆる低用量ピルは、女性の避妊だけでなく月経困難症や子宮内膜症など多くの疾患治療にも用いられています。これらのピルの効果を左右する因子として、他の薬剤との併用があります。特に、抗菌薬(抗生物質)との相互作用は、長らく注意喚起されてきたテーマです。

低用量ピルの成分と代謝経路

低用量ピルの主成分であるエチニルエストラジオール(EE)は、肝臓で抱合され、主に胆汁を経由して腸管内へ排泄されます。その後、腸内細菌によって抱合体が加水分解され、非抱合体として再吸収される「腸肝循環」が行われます。この再循環は、血中濃度の安定や持続的な効果に重要な役割を果たしています。

この腸肝循環に関わる腸内細菌の働きが、抗菌薬によって抑制されると、再吸収が不十分となり、血中のエチニルエストラジオール濃度が低下する可能性があると考えられてきました。

添付文書に記載のある相互作用

日本国内で流通している以下の低用量ピルの添付文書には、ペニシリン系およびテトラサイクリン系抗生物質との併用注意が記載されています。

医薬品名
・ジェミーナ配合錠
・プラノバール配合錠
・ヤーズ配合錠
・ルナベル配合錠

いずれも「これらの抗生物質により腸内細菌叢が変化し、エチニルエストラジオールの再吸収が減少して効果が弱まる可能性がある」との記載があります。

現代のエビデンスと見解

しかしながら、近年の研究により、ペニシリン系やテトラサイクリン系抗菌薬が低用量ピルの避妊効果を有意に減弱させるエビデンスは乏しいとされています。

エビデンスのポイント:

・腸肝循環の抑制は確認されていても、臨床的に避妊失敗に直結する明確なデータは少ない
・実際に避妊効果が低下するリスクが高いとされるのは、リファマイシン系抗生物質(例:リファンピシン)などCYP酵素誘導作用のある薬剤
・それ以外の抗菌薬については、添付文書に記載があっても臨床上の影響は限定的

リファマイシン系との相互作用:明確なリスク

CYP3A4を強力に誘導するリファンピシンやリファブチンは、エチニルエストラジオールおよびプロゲスチンの血中濃度を大きく低下させます。これは避妊失敗のリスクを高めるため、併用時は以下のような指導が必須です:

・非ホルモン性の避妊法(例:コンドーム)を追加
・抗菌薬の投与中および中止後7日間は補助避妊法を併用する

ピルユーザーに伝えるべきこと

・すべての抗菌薬がピルの効果を弱めるわけではないこと
・「添付文書に書いてある=臨床的に避妊失敗が多い」というわけではない
・心配な場合は補助避妊を併用することでリスク回避ができる

まとめ

・昔から言われてきた「抗菌薬でピルの効果が下がる」は、現在では一部の薬剤に限った話
・添付文書には注意喚起があるが、実際に避妊失敗のエビデンスが明確なのはリファマイシン系抗菌薬のみ
・ただし、安全性を重視するなら、抗菌薬併用中はコンドームなどの補助避妊を勧めることが望ましい

補足:薬剤師・医師ができる対応

・処方薬の名前を確認し、抗菌薬の種類を分類する
・ピルユーザーには、服用中の抗菌薬名とその影響の有無を正しく伝える
・不安が強い場合は一時的な補助避妊を提案し、心理的安心感もサポートする

医療の現場では、古い通説にとらわれず、最新の知見を基に個々の患者に適切な情報提供を行うことが求められます。ピルと抗菌薬の相互作用もその一つ。安全で信頼される医療を支えるために、現場の判断力が問われています。

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