記事
モーラステープは妊婦に禁忌?―貼り薬でも気をつけたい痛み止め
公開. 更新. 投稿者: 4,292 ビュー. カテゴリ:痛み/鎮痛薬.この記事は約5分9秒で読めます.
目次
モーラステープは妊婦に禁忌?―貼り薬でも気をつけたい痛み止め

妊娠中の薬といえば、多くの方が「飲み薬」に注意を向けます。
しかし実際には、湿布薬や塗り薬などの外用薬でも、体内に成分が吸収されてお腹の赤ちゃんに影響を及ぼす可能性があります。
「貼るだけだから安全」と思い込むのは危険です。
この記事では、痛み止め成分として広く使われているケトプロフェン(モーラステープなど)を中心に、妊娠中に気をつけたい外用NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)について詳しく解説します。
モーラステープとは?その有効成分と作用機序
モーラステープの有効成分はケトプロフェンです。
ケトプロフェンはNSAIDsに分類され、プロスタグランジンの合成を阻害することで鎮痛・抗炎症作用を発揮します。
このプロスタグランジンは、痛みや熱、炎症の原因となる一方で、胎児の血管や腎臓の働きを保つ重要な物質でもあります。
そのため、妊婦がNSAIDsを使用すると、胎児の体内で動脈管の収縮や羊水量の異常といった問題が生じることがあります。
モーラステープ添付文書の改訂と「妊婦への禁忌」
モーラステープの添付文書は2008年12月に改訂され、次のような注意が加えられました。
「妊娠後期の女性に投与したところ、胎児動脈管収縮が起きたとの報告がある。」
この改訂を受け、2008年以降は妊娠後期の女性には慎重投与とされました。
さらに2014年3月、厚生労働省は大きな方針転換を行います。
ケトプロフェンを含むすべての外用剤(テープ剤、クリーム剤、ゲル剤など)について、
・妊娠後期は禁忌
・妊娠中期は必要最小限にとどめ慎重に使用
と添付文書に追記するよう、製薬会社に通達が出されました。
胎児動脈管とは?―胎内でだけ開いている特別な血管
胎児には「動脈管」という特殊な血管があり、肺動脈と大動脈をつないでいます。
胎児は子宮内で呼吸をしていないため、肺に血液を送る必要がなく、動脈管を通じて心臓からの血液を全身に回しています。
この動脈管の開存を維持しているのがプロスタグランジンです。
しかし、NSAIDsを使用するとプロスタグランジンの生成が抑えられ、動脈管が収縮・閉鎖してしまう危険があります。
動脈管が閉じると胎児の循環が保てず、胎児死亡や新生児の心肺障害を引き起こす可能性もあります。
経口薬や注射剤のNSAIDsが妊娠後期に禁忌とされてきたのは、このためです。
「貼り薬でも安全とは限らない」理由
経皮吸収型の薬は、「血中濃度が低いから安全」と誤解されがちです。
しかし、モーラステープのような外用薬でも有効成分は皮膚から吸収され、全身に循環します。
実際に、ケトプロフェンのテープ剤を使用した妊娠後期の女性で胎児動脈管の狭窄・閉鎖が報告されました。
そのうち1例は「1日1枚を1週間」という少量・短期間の使用にもかかわらず発生したケースです。
この報告を受けて、妊娠後期の使用が「禁忌」とされました。
さらに、妊娠中期に使用して羊水過少症を引き起こした症例もあり、慎重投与が求められています。
NSAIDsが羊水に与える影響
羊水は胎児を守るクッションであり、発育に欠かせない環境です。
その量は母体と胎児の間で常に産生と吸収を繰り返しています。
妊娠初期は母体血漿や胎児血漿の滲出液が主ですが、妊娠中期以降は胎児の尿が主な構成成分になります。
つまり、胎児の腎臓が正常に働いていなければ羊水が減ってしまうのです。
NSAIDsは胎児の腎血流を減らすことで尿の産生を抑え、結果として羊水過少症を起こす可能性があります。
羊水過少は、胎児の呼吸機能や骨格の発達にも悪影響を及ぼすため、慎重な対応が求められます。
ボルタレンゲルはどうなのか?
同じNSAIDsでも、成分によって添付文書上の扱いは異なります。
● ボルタレンゲル(ジクロフェナクナトリウム)
・錠剤・坐剤:妊娠後期禁忌
・ゲル剤:禁忌ではない
つまり、外用剤に関しては明確な禁忌指定はありません。
とはいえ、経皮吸収によって一定量が血中に移行するため、「安全」と言い切ることはできません。
インタビューフォームによると、ボルタレンゲル7.5g(有効成分75mg)を塗布した場合のAUC(血中濃度曲線下面積)は、ボルタレン錠25mg内服時の約1/30に相当します。
一見するとわずかですが、塗布範囲が広がったり、密封療法(ODT)を誤って行うと吸収量が増え、経口剤より高い血中濃度に達する危険もあります。
したがって、妊婦や妊娠の可能性がある女性には、漫然と使用しないことが原則です。
「家族でシップを分け合う」は危険
家庭では、痛み止めの湿布薬を家族で共有するケースが少なくありません。
「薬局でもらったシップが余ってるから使ってみて」と安易に渡してしまうのは非常に危険です。
妊婦本人が薬に慎重でも、家族や周囲が無意識にリスクを持ち込むことがあります。
湿布や塗り薬であっても、妊婦にとっては胎児への影響を及ぼす可能性があるため、安易な譲渡は厳禁です。
ケトプロフェン以外のNSAIDsは?
現時点で、妊娠後期における外用剤使用が明確に禁忌とされているのはケトプロフェン製剤のみです。
しかし、インドメタシンやジクロフェナクなど他のNSAIDsでも、胎児動脈管収縮の報告があり、添付文書では注意喚起が行われています。
したがって、現場では「ケトプロフェンだけ注意すればよい」ではなく、NSAIDs全体を慎重に扱う姿勢が必要です。
今後、さらなる症例報告の集積により、他剤でも禁忌指定が拡大される可能性があります。
妊娠中に使える痛み止めは?
妊娠中の安全性が比較的確立している薬としては、アセトアミノフェン(カロナールなど)が代表的です。
アセトアミノフェンは胎盤を通過しますが、これまでに胎児への重篤な影響は報告されておらず、
多くのガイドラインでも「妊娠中でも使用可能」とされています。
ただし、漫然と長期使用することは避けるべきであり、医師・薬剤師の判断のもとで使用します。
妊婦と薬剤師のコミュニケーションが大切
妊娠中の薬物治療では、「飲まない」「塗らない」だけでは解決できないことも多いです。
痛みや炎症を我慢することが母体に悪影響を与える場合もあります。
重要なのは、
・妊娠の時期(初期・中期・後期)
・使用する薬の種類・投与経路
・使用期間と使用部位
これらを総合的に判断して、リスクとベネフィットを天秤にかけることです。
薬剤師としては、患者の状態や生活背景をふまえ、「塗り薬だから安全」という誤解を解く啓発が求められます。
まとめ:外用薬も「全身作用」を持つ
モーラステープに代表されるNSAIDs外用剤は、貼る・塗るだけでも体内に吸収され、胎児に影響することがあります。
・妊娠後期のケトプロフェン製剤は使用禁忌
・妊娠中期は慎重投与
・妊娠初期も自己判断での使用は避ける
・他のNSAIDsでも同様のリスクに注意
「湿布だから大丈夫」と思わず、妊娠中はすべての薬を医師・薬剤師に確認してから使うようにしましょう。
家族や周囲の人も、安易に薬を勧めないことが大切です。




