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エストラジオール(E2)とエステトロール(E4)の違いは?
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エストラジオール(E2)とエステトロール(E4)の違いとは?

女性ホルモンの代表である「エストロゲン」は、女性の健康と深く関わる重要なステロイドホルモンです。
骨や血管、子宮内膜、乳腺、脳など全身に作用し、女性のライフステージに応じて大きな役割を果たしています。
エストロゲンと一口にいっても、実は種類があり、それぞれ体内での存在場所や作用が異なります。エストロゲンには、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)、そして近年注目されている エステトロール(E4) があります。
従来の中心的エストロゲンである E2(エストラジオール) と、新しく医薬品に応用され始めた E4(エステトロール) に焦点を当て、その違いを勉強します。
エストロゲンの種類と特徴
まずは全体像を整理しておきましょう。
名称 | 略号 | 主な産生部位 | 特徴 | 臨床的意義 |
---|---|---|---|---|
エストロン | E1 | 卵巣、副腎、脂肪組織 | 閉経後に優位になるエストロゲン。作用は弱いが、E2に変換され得る | 閉経後女性の主要な循環エストロゲン |
エストラジオール | E2 | 卵巣 | 最も強力なエストロゲン。生殖年齢女性で主役 | 月経周期調節、骨・脂質代謝、HRTや避妊薬で利用 |
エストリオール | E3 | 胎盤 | 妊娠時に大量に産生される。作用は弱い | 妊娠時母体血中で主要エストロゲン |
エステトロール | E4 | 胎児肝臓 | 妊娠時にのみ産生される特殊な天然エストロゲン。組織選択的作用 | 新しいLEPやHRTの成分として注目 |
この中で、これまで医薬品の中心を担ってきたのは E2(またはその誘導体EE) ですが、近年 E4 が新しい治療薬として臨床応用され始めています。
E3(エストリオール)であるエストリール錠もよく使われますが、E3はE2(エストラジオール)の代謝産物で、より穏やかな作用を持ちます。
エストラジオール(E2)の特徴
エストラジオール(E2)は、女性ホルモンの中で最も強力かつ代表的な存在です。
産生と役割
・産生部位:卵巣の顆粒膜細胞
・血中濃度:妊娠していない女性の主要エストロゲン
・作用:
子宮内膜を増殖させ妊娠に備える
骨密度維持、脂質代謝改善
脳機能(気分・認知)への作用
皮膚や血管の健康維持
医薬品での応用
・ホルモン補充療法(HRT)
・低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)
・避妊薬の成分
・外用剤(貼付剤・膣錠)
長年にわたり女性医療の基盤を支えてきたホルモンですが、同時に 静脈血栓塞栓症(VTE)リスク が問題とされてきました。特に合成誘導体の エチニルエストラジオール(EE) は肝臓や血管に強く作用するため、凝固系に影響を与えることが知られています。
エステトロール(E4)の特徴
エステトロール(E4)は、比較的新しく注目されている天然型エストロゲンです。
発見と産生
・1965年、妊婦尿から発見
・胎児の肝臓でのみ産生され、母体血中に移行
・妊娠中以外の生理状態ではほとんど検出されない
特徴的な作用
・子宮・卵巣など生殖器に選択的に作用
・肝臓や血管への影響は少ない
・「組織選択的エストロゲン作用」を持つ
・作用はE2より穏やか
医薬品としての応用
・欧州では既に経口避妊薬や更年期障害治療薬に利用
・日本では2024年に「アリッサ配合錠」が初登場
月経困難症とLEP配合薬
月経困難症は、月経に随伴する病的な下腹痛・腰痛を特徴とし、大きく分けると:
・機能性月経困難症:器質的疾患がない場合。子宮内膜由来のプロスタグランジン過剰が関与。
・器質性月経困難症:子宮内膜症や子宮筋腫などが原因。
国内ガイドラインではまず NSAIDs が推奨され、効果不十分な場合に LEP配合薬 が選択されます。
既存のLEP配合薬
・ヤーズ®/ヤーズフレックス®(EE+ドロスピレノン)
・ルナベル®(EE+ノルエチステロン)
・ジェミーナ®(EE+レボノルゲストレル)
いずれも高い有効性を持ちますが、EE由来の血栓症リスクが常に懸念されています。
アリッサ配合錠の登場
2024年、日本で初めて E4を含むLEP配合薬「アリッサ配合錠」 が承認されました。
成分
・エストロゲン成分:エステトロール(E4)
・プロゲスチン成分:ドロスピレノン(抗ミネラルコルチコイド作用・抗アンドロゲン作用あり)
作用機序
・E4が下垂体に作用 → FSH・LH分泌抑制 → 排卵を抑制
・ドロスピレノンが子宮内膜の過剰増殖を抑制 → 月経困難症改善
安全性の期待
・E4は肝臓や血管への作用が少ない
・凝固系への影響も穏やかとされ、血栓症リスク低減が期待される
・子宮・卵巣に選択的に作用するため、治療効果と安全性のバランスが良い
まとめ
・E2(エストラジオール) は女性の主要エストロゲンであり、医療でも中心的に利用されてきました。
・E4(エステトロール) は妊娠時に胎児肝臓でのみ産生される特別なエストロゲンで、組織選択的に作用し、安全性に優れる可能性があります。
・日本で登場した アリッサ配合錠 は、E4を含む初のLEP配合薬であり、従来のEE製剤に比べ血栓症リスクの低減が期待されます。
今後、E4を用いた薬剤は月経困難症だけでなく、更年期治療や避妊薬としての応用も広がっていく可能性があります。