2025年9月11日更新.2,622記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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中耳炎のときプールに入っちゃダメ?

耳に水が入ると中耳炎になるの?

「赤ちゃんをお風呂に入れるとき、耳に水が入らないように指でふさいでいました。」
そんな声を、薬局や育児相談の現場でよく聞きます。実際、筆者自身も親として同じように考えていました。「耳に水が入ると中耳炎になる」と信じていたからです。

しかし、結論から言うと、健康な耳に水が入っただけで中耳炎になることは基本的にはありません。外耳(耳の入口から鼓膜まで)と中耳(鼓膜の奥の空間)は、鼓膜によってしっかりと隔てられています。通常の状態であれば、どんなに水が耳に入っても、その水が鼓膜を越えて中耳に侵入することはありません。

ただし、耳に入った水が細菌や汚れを多く含んでいる場合、外耳炎(耳の穴の炎症)を起こすリスクはあります。特に長時間のプールや不衛生な水場では注意が必要です。

では、「中耳炎になっているとき」に水に入るのはどうなのでしょうか?
ここからが本題です。

中耳炎のときのお風呂はOK?

かつては、「中耳炎になったらお風呂はやめましょう」と医師から指導されるのが一般的でした。「耳に水が入ると悪化する」と考えられていたためです。

しかし、現在では中耳炎であっても、お風呂に入ること自体が症状を悪化させることは少ないとされています。耳に直接水が入らないようにさえすれば、基本的に入浴は問題ありません。

ただし注意点があります。それは、熱いお風呂や長風呂によって「体が温まりすぎる」と、耳の中の炎症やうみが悪化することがあるという点です。特に中耳炎の急性期では、炎症が強く、鼓膜の内圧が上昇している場合もあります。そうした状態で体が温まりすぎると、耳痛がひどくなったり、熱が上がることがあります。

入浴時のポイント
・シャワー程度であれば基本的に問題なし
・湯船に入る場合も短時間にとどめる
・耳に水が入らないよう注意(耳栓や髪を洗わない選択肢も)
・症状が強いとき(耳だれ、強い耳痛、発熱時)は無理せず休む

中耳炎とプール:なぜNGなのか?

お風呂はよくても、プールはどうなのか――。
答えは「中耳炎があるときは基本的にプールは避けるべき」です。

その理由は大きく分けて2つあります。

理由① 鼓膜の状態と水の侵入リスク
中耳炎が進行すると、鼓膜に穴(穿孔)が開くことがあります。これを「耳だれ(耳漏)」が出る状態ともいいます。耳だれが出ているということは、すでに鼓膜が破れているということです。この状態で水に入れば、プールの水が直接中耳まで入り込み、炎症を悪化させる可能性があります。

また、プールで遊ぶ場合、飛び込みや潜水などで鼓膜に圧がかかります。鼓膜が薄くなっている状態や、穿孔が閉じたばかりの状態では、これが再穿孔の原因になることもあります。

理由② 鼻と中耳のつながりと塩素の刺激
中耳と鼻は「耳管(じかん)」という管でつながっています。風邪やアレルギーで鼻水が増えると、ウイルスや細菌がこの耳管を通って中耳に侵入し、中耳炎が起こります。

プールの水には塩素が含まれており、この塩素が鼻の粘膜を刺激します。鼻の奥が炎症を起こすと、耳管を通じて中耳にまで波及するリスクがあるのです。
目が充血するのと同じ理由で、鼻の奥も傷つくわけです。

つまり、「水そのものが耳に入ること」よりも、「塩素や雑菌が鼻から入ること」が中耳炎の悪化につながるのです。

鼻水に注意!プール前のチェックポイント

東京都港区の神谷町耳鼻咽喉科・土橋信明医師によると、プールに入る前には「子どもの鼻の状態をよく観察すること」が重要だといいます。

・黄緑色の鼻水が出ている
・鼻の奥に詰まっている
・鼻を頻繁にすする

こうした症状があるときは、鼻腔内に炎症がある可能性が高く、その状態でプールに入ると中耳炎のリスクが高まります。

中耳炎とプール:医師の許可が必要な理由

「中耳炎と言われたけど、プールに入っても大丈夫ですか?」
薬局や学校、保育園などでよくある質問です。

この問いに対しては、「主治医の許可が出るまでプールは控えてください」とお答えするのが原則です。

耳だれが出ている場合はもちろんNG。さらに、耳だれが止まったからといって「もう泳げる」とは限りません。炎症が完全に治っておらず、再発のリスクが残っていることが多いのです。

一方で、症状が軽くなってきたら「顔をつけない程度の水遊び」であれば、医師の判断によって許可が出ることもあります。

医師の判断が難しい理由
中耳炎には個人差が大きく、また診察でも「鼓膜が完全に治っているかどうか」を判断するのは難しいことがあります。

特に小児はじっとしていられないため、耳の奥の鼓膜をしっかりと観察することが困難です。そのため「安全を見て休ませておきましょう」となることも少なくありません。

中耳炎の種類と背景知識

中耳炎は以下のように分類されます:

・急性中耳炎:細菌感染による急性の炎症。耳痛・発熱・耳だれを伴う
・慢性中耳炎:急性中耳炎の後遺症で、鼓膜に穿孔が残っている状態
・滲出性中耳炎:耳だれなどの自覚症状が少なく、難聴が主な症状

小児と中耳炎の関係

小児の中耳炎は非常に頻度が高く、以下のような統計があります。

・1歳までに約70%の子どもが1度は急性中耳炎にかかる
・3歳までには90%以上の子が罹患経験あり
・鼓膜が未熟で耳管も短く、鼻水がすぐ中耳へ届いてしまう

また、哺乳中の赤ちゃん(特に哺乳瓶を寝かせたまま与える場合)では、ミルクが耳管に逆流して中耳炎になることもあります。

最後に:保護者と指導者の役割

中耳炎の判断や対応は非常にデリケートな問題です。耳の状態は見た目で分かりづらく、子どもが症状を正確に訴えることもできません。

そのため、保護者はもちろん、学校やスイミングスクールの指導者も、以下のような配慮が必要です。

・プール前に鼻水・耳だれの有無を確認
・少しでも異常があれば医療機関で確認
・医師の許可が出るまで無理をさせない
・水遊びや飛び込みを制限する場合はその理由を説明する

適切な対応が、再発や慢性化を防ぐ最大のポイントです。

中耳炎のとき、プールはNG。お風呂はOK。
このシンプルなルールを覚えておくと、保護者も子どもも安心して夏を過ごせるはずです。

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