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ナウゼリンは妊婦に禁忌じゃない?
公開. 更新. 投稿者:妊娠/授乳.この記事は約4分44秒で読めます.
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ナウゼリンが「妊婦禁忌」だった理由

これまで「妊婦に禁忌」とされてきたナウゼリン(一般名:ドンペリドン)。
しかし2025年4月、厚生労働省はこの“禁忌”の記載を添付文書から削除する方針を示しました。
ナウゼリンはこれまで「妊娠または妊娠の可能性がある女性」に対して禁忌とされていました。これは、ラットに200mg/kg/日(臨床用量の約65倍)を投与した際に催奇形性が報告されたことが根拠です。
ただし、70mg/kg/日(約23倍)では催奇形性が認められなかったというデータもあり、人間への影響は不明瞭でした。にもかかわらず、「ナウゼリン=妊婦禁忌=奇形リスクあり」という強い印象が一人歩きしていたのです。
妊婦禁忌削除の理由
2025年4月、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会 安全対策調査会は、ナウゼリンの添付文書から「妊婦禁忌」の記載を削除する方針を承認しました。
削除の主な根拠は以下の通り:
催奇形性の評価:
・高用量(200mg/kg)では催奇形性が認められるが、70mg/kgでは問題なし。
・実際のヒト使用量ではこのような高用量にはならず、現実的なリスクは低いと判断。
日本産婦人科診療ガイドライン2023年版:
・ナウゼリンが「妊娠初期にも使用可能な薬剤」と明記されている。
海外での使用状況:
・EU、オーストラリア、カナダなどでは妊婦禁忌の記載がない、あるいは緩和されている。
患者への影響:
・妊娠初期につわりでナウゼリンを処方された患者が、後から禁忌の事実を知って不安を抱え、中絶を選択する例も報告されていた。
こうした事例を受け、禁忌ではなく「慎重投与」の扱いへと変更されることになったのです。
今後の添付文書には以下のような注意喚起が盛り込まれる見込みです:
「妊娠または妊娠している可能性のある女性には、有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ投与すること。」
つまり、ナウゼリンは「安全性が確立された薬」ではなく、「一定のリスクはあるが、必要性が高ければ使用可能な薬」へと位置づけが変更されたということです。
ナウゼリンとプリンペランの違い
ナウゼリン(ドンペリドン)とプリンペラン(メトクロプラミド)は、いずれもドパミンD2受容体拮抗薬で、嘔吐中枢のひとつであるCTZ(化学受容器引き金帯)に作用して吐き気を抑える薬剤です。
ナウゼリン(ドンペリドン)の特徴:
・血液脳関門を通過しにくいため、錐体外路症状(振戦、筋強剛、アカシジアなど)の副作用が起こりにくい。
・胃内容排出促進作用があり、胃もたれや悪心にも使用される。
プリンペラン(メトクロプラミド)の特徴:
・血液脳関門を通過しやすく、中枢作用が強い。
・錐体外路症状や高プロラクチン血症などの副作用が起こることがある。
・特に小児では慎重投与が求められている。
比較項目 | ナウゼリン(ドンペリドン) | プリンペラン(メトクロプラミド) |
---|---|---|
催奇形性根拠 | 高用量ラット試験で報告 | 動物試験およびヒト報告で安全性示唆 |
中枢副作用 | 少ない(血液脳関門通過しにくい) | 多い(特に小児に注意) |
胎児への影響 | 人では明確な証拠なし | FDA分類B(比較的安全) |
日本での禁忌 | 2025年以降「禁忌」から削除へ | 禁忌ではない |
ナウゼリンは、中枢性副作用のリスクが低く、妊婦にとって相対的に安全と考えられてきた背景があります。今回の禁忌解除も、そのような特性が考慮された結果と言えるでしょう。
つわり・妊娠悪阻における治療方針と制吐薬の位置づけ
つわりは妊婦の約90%が経験する症状で、多くは妊娠5週〜12週にかけて現れます。症状は多様で、軽度なものから日常生活に支障をきたす重度のもの(妊娠悪阻)までさまざまです。
治療の基本:
〇食事指導と生活習慣の改善
・空腹を避けて少量頻回の食事
・脱水の回避、水分・電解質の補給
〇補液・ビタミン補給
・ビタミンB1欠乏によるウェルニッケ脳症を予防するため、ビタミンB1の補給は非常に重要。
〇制吐薬の使用(症状が強い場合)
・ナウゼリンやプリンペランが候補薬として使用される。
・利用は「有益性が危険性を上回る」と医師が判断した場合に限定。
制吐薬の使用はあくまで「症状緩和の手段」であり、最初に行うべきは生活の調整や栄養補給です。
薬剤師が注意すべき服薬指導のポイント
ナウゼリンが禁忌から外されたとはいえ、妊婦への投与には慎重さが求められます。薬剤師としては以下の点に留意して服薬指導を行う必要があります。
①リスクとベネフィットの説明
患者が不安を感じないよう、「禁忌ではなくなったが、安全が保証されたわけではない」ことを丁寧に説明。
②妊娠週数の確認
妊娠初期と後期ではリスクの度合いが異なる可能性があるため、適応時期を確認。
③他薬との併用注意
他の制吐薬、QT延長のリスクがある薬剤との併用は慎重に。
④患者の納得と同意を大切に
服薬に際して不安が残らないよう、情報提供だけでなく、対話を通じた安心感の醸成が大切。
ナウゼリンは“使える”けど“注意が必要”
ナウゼリンが妊婦禁忌から外れたことで、今後はつわりなどに対して処方される機会も増えることが予想されます。しかしそれは、「妊婦に安全が確立された」という意味ではありません。
薬剤師としては、最新の添付文書やガイドラインをもとに、医師の処方意図を理解したうえで、妊婦への丁寧な服薬指導を行うことが求められます。
妊娠という特別な時期に、薬がもたらす安心と不安。そのバランスを支える存在として、薬剤師の役割はますます重要になっています。


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