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SGLT2阻害薬に違いはあるか?
公開. 更新. 投稿者:糖尿病.この記事は約6分40秒で読めます.
6,436 ビュー. カテゴリ:カナグル型とデベルザ型
SGLT2阻害薬に大した違いはないが、稀に処方変更されることもあり、「違いは何?」と患者から突っ込まれることもあるので、細かい違いについて知っておく。
カナグル(カナグリフロジン)の特徴は①SGLT2選択性が低い ②蛋白結合率は高い ③半減期は長い ④代謝は肝や腎でのグルクロン酸抱合 ⑤尿中未変化体の割合が低い、で、この全く逆がデベルザ(トホグリフロジン)です。
トホグリフロジンは半減期が短いので夜間頻尿が少ないと期待されます。昼間は尿の回数が増えたとしても、夜中は起きる必要が無くなる可能性があります。
逆にカナグリフロジンタイプの方が24時間尿糖を出すので有効性が高い可能性もあります。
トホグリフロジン型:アプルウェイ/デベルザ、ルセフィ、ジャディアンス、フォシーガ
カナグリフロジン型:カナグル、スーグラ
アプルウェイ/デベルザの半減期は5.4時間。
しかし他の薬の半減期は、ジャディアンス9.88~11.7時間、フォシーガ約8~12時間、ルセフィ8.96~11.2時間、カナグル10.2~11.8時間、スーグラ11.71~14.97時間と長いので、トホグリフロジン型はトホグリフロジンだけなのではないかとも思う。
とにかく尿から糖を出して働く薬なので、頻尿はやむを得ないのですが、QOLを低下させていないかどうかを確認する。
SGLT2のサブタイプ
SGLTについては6種類のサブタイプが判明しています。
発現部位 | 作用 | |
---|---|---|
SGLT1 | 小腸、心臓、気管、腎臓 | 小腸でのグルコース・ガラクトースの吸収、腎臓でのグルコース再吸収(約10%)、心筋での糖吸収、骨格筋での糖吸収、脳での糖吸収 |
SGLT2 | 腎臓 | 腎臓でのグルコース再吸収(約90%) |
SGLT3 | 小腸、子宮、肺、甲状腺、精巣 | グルコースセンサーとして機能? |
SGLT4 | 小腸、腎臓、肝臓、胃、肺 | マンノース、フルクトースなどの輸送? |
SGLT5 | 腎臓 | 不明 |
SGLT6 | 脊髄、腎臓、脳、小腸 | ミオイノシトール、グルコースの輸送 |
このうち、腎臓での糖の再吸収に関わるSGLTが、SGLT1とSGLT2になります。
SGLT(Sodium-glucose co-transporter)は、ナトリウムイオンの濃度勾配を駆動力として、グルコースを細胞内に能動輸送するトランスポーターである。SGLTは6種類の分子種が知られているが、特に重要なのが近位尿細管に多く発現しているSGLT2と、尿細管のほか小腸、骨格筋脳においても発現しているSGLT1である。
もともとSGLT2阻害薬は、林檎の木の皮に含まれるフロリジンという物質からスタートしてきました。
フロリジンでは、SGLT1・SGLT2とも阻害する作用(SGLT1:2 11…カナグルの約30倍)が強く、特にSGLT1への阻害作用による下痢などの消化器症状の副作用や、低血糖などがネックになっていました。
そして、SGLT1を阻害することによって起こる副作用を減らすために、SGLT2の選択性を高めてきました。
各薬剤のSGLT1:SGLT2の比率を見ていくと、
・トホグリフロジン(アプルウェイ/デベルザ):2,900
・ルセオグリフロジン(ルセフィ):1,600
・エンパグリフロジン(ジャディアンス):1,100
・イプラグリフロジン(スーグラ):860
・ダパグリフロジン(フォシーガ):610
・カナグリフロジン(カナグル):290
となっており、(数字が大きい方が、SGLT2選択性が高い)アプルウェイ/デベルザが最も高く、カナグルが最も低い、となっています。
これは、50%阻害率濃度(IC50)の比率となっており、各社の公表値による結果ではずれがあります。
実際に、各薬剤のインタビューフォームを元にすると
・ジャディアンス:5,000
・アプルウェイ/デベルザ:2,900
・ルセフィ:1,283
と、順位が入れ替わってしまいます。
あくまで、おおまかな傾向として捉えたほうが良いのかもしれません。
もともと腎でのグルコース再吸収はSGLT2が約90%を担っており、SGLT1は残りの10%を再吸収しています。
1日の腎臓でのグルコースの濾過量は約180gと言われ、SGLT2は160g程度、SGLT1は20g程度を再吸収し、ほぼ100%のグルコースを再吸収しています。
ここへSGLT2阻害薬を投与した場合、SGLT2阻害薬によるSGLT2阻害率は50%~70%と言われて
いるため、60g~90gが尿中へ排泄される計算となります。しかし、実際は健常人での尿糖排泄量は40~50g程度となっています。
これは、SGLT2が阻害されたことで、尿中グルコース濃度が上昇し、相対的にSGLT1が活性化して尿糖の再吸収が亢進する、と考えられています。
SGLT1への作用が強い(SGLT2への選択性が低い)ほど、血糖降下作用は高くなると考えられます。SGLT1とSGLT2の両者を阻害することで、糖排泄効果が高まり、より強い血糖降下作用が得られると考えられます。
また、SGLT1は小腸で多く発現しているため、SGLT1の阻害は腸管からの糖の吸収を遅らせます。αーGIのように働くわけです。
しかし、SGLT1は小腸・心筋・骨格筋・脳などにも広く分布するため、SGLT1への阻害作用が強くなると、それらの臓器での副作用が表れない、とも限りません。
現在のところ、もっともSGLT2選択性の低いカナグルにおいても、そうした特異的な副作用はおきていないようですので、300倍程度以上の選択性があれば、特に気にすることはないかと考えられています。
ちなみに、カナグル以外のSGLT2阻害薬は、添付文書の薬効分類に「選択的SGLT2阻害薬」と記載していますが、カナグルだけは「SGLT2阻害薬」としか表記がありません。
商品名 | 一般名 | 用法 | 血中濃度半減期 | 主要代謝経路 | SGLT2 IC50 | SGLT1 IC50 | SGLT1 IC50/SGLT2 IC50比 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
スーグラ | イプラグリフロジン | 1日1回朝食前又は朝食後 | 11.71時間 | グルクロン酸抱合 | 7.38 | 1880 | 255 |
フォシーガ | ダパグリフロジン | 1日1回 | 12.1時間 | グルクロン酸抱合 | 1.12 | 1391 | 1242 |
ルセフィ | ルセオグリフロジン | 1日1回朝食前又は朝食後 | 11.2時間 | CYP、グルクロン酸抱合 | 2.26 | 2900 | 1283 |
アプルウェイ/デベルザ | トホグリフロジン | 1日1回朝食前又は朝食後 | 5.29時間 | CYPなど | 2.9 | 6000 | 2069 |
カナグル | カナグリフロジン | 1日1回朝食前又は朝食後 | 10.2時間 | グルクロン酸抱合 | 4.2 | 663 | 158 |
ジャディアンス | エンパグリフロジン | 1日1回朝食前又は朝食後 | 9.88時間 | グルクロン酸抱合 | 1.3 | 6278 | 4829 |
SGLT2阻害薬と1型糖尿病
SGLT2阻害薬の適応症は以下の通り。
SGLT2阻害薬 | 効能効果 |
---|---|
スーグラ | 2型糖尿病、1型糖尿病 |
フォシーガ | 2型糖尿病、1型糖尿病 |
ルセフィ | 2型糖尿病 |
アプルウェイ | 2型糖尿病 |
デベルザ | 2型糖尿病 |
カナグル | 2型糖尿病 |
ジャディアンス | 2型糖尿病 |
SGLT2阻害薬は尿中に糖を出すことで血糖値を下げるので、インスリン作用を介さずに作用を発揮するため、1型糖尿病においても血糖コントロールの改善が期待できる。
ただし、重症低血糖やケトアシドーシスには注意しなければならない。
SGLT2阻害薬
SGLT2阻害薬は、近位尿細管においてブドウ糖の再吸収を担う輸送体であるSGLT2を阻害することで、ブドウ糖排泄を促進する薬剤です。
Na+の濃度勾配を駆動力としてグルコースを細部内へ能動輸送するトランスポーターSGLT2を阻害することで、腎近位尿細管でのグルコース再吸収を抑制し、血液中の過剰なグルコースを体外に排出することで血糖値を低下させる。
SGLT2阻害薬の副作用
主な副作用には尿路感染症や性器感染症、ケトアシドーシス、皮疹などがある。
浸透圧利尿作用が働き多尿・頻尿となることがあるため、脱水に注意し過度な水分摂取を行う必要がある。
また、単剤では低血糖を起こしにくいが、インスリン製剤やインスリン分泌促進系薬との併用時には減量を考慮する。
GLUTとSGLT
グルコースは細胞にとって、最も普遍的なエネルギー源として使われる。
しかし、水溶性であるグルコースは脂質で構成される細胞膜を自由に通過できず、そのための特別な通路がglucose transporter(グルコーストランスポーター)である。
グルコーストランスポーターはGLUT(促通核酸糖輸送担体:facilitative Glucose Transporter)とSGLT(ナトリウム・糖共輸送担体:Sodium Glucose Co-transporter)に大別される。
GLUTは細菌から哺乳類に至るまで構造が保持されており、すべての細胞に発現が認められる。濃度依存性の輸送形式を呈し、細胞内外のグルコース濃度が等しくなるように作用する。
一方、SGLTの発現は、ほ乳類の腸管や腎尿細管などに限局しており、グルコースとNaを同時に輸送する特徴を有している。
細胞内のNa濃度が細胞外と比べ非常に低いために、SGLTではグルコースとNaは常に細胞外から細胞内へと輸送することになる。
細胞内に入ったNaはNa/K ATPaseによって細胞外(血管側)に放出され、一方、細胞内に入ったグルコースは血管側に発現しているGLUTを介して血液中に出ていく。したがって、SGLTによるグルコース取り込みは、Na/K ATPaseによるATPの消費を必要とする二次的能動輸送と考えられている。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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