2025年12月6日更新.2,680記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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ボンゾールで血小板が増える?特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の薬物治療

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の薬物治療 ― 保険適用外も含む多彩な治療戦略

特発性血小板減少性紫斑病(Immune Thrombocytopenia:ITP)は、血小板減少により容易に出血しやすくなる疾患で、日本では約2万人の患者がいると推定されている。
原因が明確でない「自己免疫性血小板破壊」が特徴であり、発症機序は自己抗体による血小板の破壊・産生障害が中心と考えられている。

しかし、ITP治療は多彩であり、保険適用薬だけで完結しないケースも多い。特に難治例では、使用経験に基づいた薬剤、適応外薬、多剤併用などが検討される。

ITPの基本病態と分類

病態の中心は「免疫異常」
・自己血小板抗体が産生される
・抗体が血小板膜に結合
・脾臓などの網内系でマクロファージが血小板を貪食
・結果として血小板減少、出血傾向が発現

ITPの分類
臨床分類
・急性型:主に小児に多い。ウイルス感染後に発症、自然寛解が多い
・慢性型:成人(特に女性)に多い。自然寛解はほぼない

ITPはすぐ治療すべきか?出血リスクの評価

血小板数だけで治療は決めない
ITPは血小板減少があっても無症状の例が多い。
以下の指標をもとに治療開始を検討する。

出血リスク評価の例
・血小板数:3〜5万/µL以下で治療検討
・出血症状:鼻血、歯肉出血、月経過多、紫斑
・危険出血:消化管出血、頭蓋内出血など
・併存:抗凝固薬内服、手術予定、妊娠など

血小板数が少なくても、無症状であれば経過観察となることも多い。

ITPの薬物治療 ― 第一選択から難治例まで

【第一選択】ピロリ菌除菌療法(成人)
ITP治療は2010年に大きく変わった。
ピロリ菌陽性例では除菌療法で約半数以上に血小板増加が得られる。

・H. pylori陽性なら必ず除菌が原則
・除菌効果発現まで 3か月ほどかかることもある
・保険適応あり

まず除菌、それでもダメなら他治療へ進む。

【第二選択】ステロイド療法(急性期治療の中心)
プレドニゾロン
・初期治療の中心
・治療開始後数日〜2週間で効果

パルス療法
・重症例や迅速な効果が必要な場合に用いられる(メチルプレドニゾロン大量静注)
・しかし、長期使用は骨粗鬆症、糖尿病、感染リスクなどの副作用により避けるべき。

【第三選択】脾臓摘出(摘脾)
・長期的に約70〜80%が寛解
・ただし、侵襲性と感染リスク(肺炎球菌など)の課題あり
・ステロイド無効例、中長期治療を希望する患者で選択

【第四選択】トロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)
薬剤(商品名):投与経路
・エルトロンボパグ(レボレード):内服
・ロミプロスチム(ロミプレート):皮下注

特徴
・造血幹細胞に働き、血小板産生を促進
・難治性ITPで高い有効率
・第一選択になりつつある位置づけ

注意点
・肝障害(エルトロンボパグ)
・骨髄線維症リスク(長期使用)

【補助的治療】免疫グロブリン療法(IVIG)
・迅速に血小板を増やせる(数日〜2週間)
・手術前、妊娠時、緊急時に選択
・高価な治療であり、長期使用には不向き

【補助的治療】抗D免疫グロブリン(Rh陽性患者に限る)
・Rh陽性患者に限定される治療
・有効率は高いが、適応が限定される

適応外も含む「難治性ITP」に対する治療薬

ダナゾール(商品名:ボンゾール) ― アンドロゲンの免疫調整作用
作用機序
・血小板産生を促進
・抗血小板抗体産生抑制
・マクロファージによる血小板貪食の抑制

用法・用量(ITPでの経験的使用)
・400〜800 mg/日
・反応率:60〜80%

ただし 一過性の効果に終わることも多い

副作用と注意点
・肝障害:AST/ALT、胆道評価必須
・男性化:嗄声、多毛、月経異常
・血栓症:特に高齢者・肥満者

保険適応外ではあるが、難治ITPで検討される治療選択肢の一つ。

セファランチン ― 免疫調整作用だが機序不明
・放射線白血球減少症の薬
・ITTでは 40〜60mg/日 の大量投与
・ステロイド併用で相乗効果が期待

作用機序は不明だが、臨床経験上、難治例に使われる。

リツキシマブ(抗CD20抗体)
・B細胞破壊 → 抗体産生を抑制
・自己免疫疾患全般に使用
・難治性ITPに使用され有効率約40〜60%

注意点:B細胞枯渇による感染症リスク、HBV再活性化

ITP治療の「支持療法」と日常生活指導

禁止・注意すべき薬剤とその理由
・NSAIDs:血小板機能抑制
・抗血小板薬、抗凝固薬:出血リスク増加

日常生活の注意
・歯磨き、硬い食べ物、鼻かみ、スポーツによる怪我などに注意
・月経過多がある場合、鉄欠乏にも留意

妊婦のITP治療

・妊娠中はステロイド or 免疫グロブリンが中心
・ダナゾールは禁忌に近い(男性化胎児化リスク)

まとめ

治療の優先順(成人慢性ITP)
① ピロリ菌除菌
② ステロイド
③ 脾摘 or TPO-RA
④ 難治例 → リツキシマブ / ダナゾール / セファランチン等

ITPは、単に血小板を増やす治療ではなく、患者の背景に応じた多段階戦略が必要な疾患である。
薬剤師は、「どの薬が、どの段階で、どの目的で使われているか」を理解することで、服薬指導や副作用管理に大きく貢献できる。

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