2025年11月21日更新.2,666記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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デカドロン錠1日80錠?特発性血小板減少性紫斑に用いられるデカドロン・パルス療法

ITPとステロイド治療の関係

特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic Thrombocytopenic Purpura:ITP)は、自己免疫機序により血小板が破壊され、出血傾向を呈する疾患です。
免疫グロブリン(IgG)が血小板膜抗原に結合し、脾臓のマクロファージにより血小板が貪食されることが主な病態とされています。

成人発症ITPでは慢性化する例が多く、初期治療としては副腎皮質ステロイドが第一選択です。なかでもデキサメタゾン(デカドロン)を高用量で短期間投与するデカドロン・パルス療法は、従来のプレドニゾロン連日投与に代わる治療法として注目されています。

従来の治療:プレドニゾロンの連日投与

これまでITPの初期治療では、プレドニゾロン(プレドニン)1mg/kg/日を2〜4週間ほど連日投与し、その後徐々に減量する方法が主流でした。

例えば体重60kgの患者では1日60mg程度のプレドニゾロンを服用します。
確かに血小板数の回復効果は高いものの、治療が長期化するために以下のような副作用が問題となります。
・顔のむくみ(ムーンフェイス)
・体重増加
・糖代謝異常
・感染リスクの上昇
・骨粗鬆症
・精神症状(不眠・多幸・抑うつなど)

こうした副作用負担を軽減する目的で、短期間で強力に免疫を抑制する「デカドロン・パルス療法」が導入されました。

デカドロン・パルス療法とは?

● 投与法の概要
デカドロン・パルス療法とは、デキサメタゾン(デカドロン)40mg/日を4日間連続投与する治療法です。
その後、休薬期間を3〜4週間あけて1クールとし、症例によっては3〜4クールまで繰り返すこともあります。

デカドロン錠0.5mgで換算すると、1日80錠という非常に高用量に相当します。

実際の臨床では、内服よりも点滴静注(デカドロン注射液)が用いられることが多いです。

パルス療法という名称のとおり、「短期間で強力に免疫反応を抑える」目的です。

なぜデキサメタゾンなのか

デキサメタゾンは、プレドニゾロンの約7倍の抗炎症作用を持ち、かつ半減期が長い(36〜54時間)ため、短期間でも強い免疫抑制効果が得られます。

さらに、血中濃度の変動が少なく、パルス療法のような高濃度短期投与に向いています。
プレドニゾロンでは長期間服用による副作用が避けられませんが、デキサメタゾンなら4日間で一旦終了できる点が大きな利点です。

デカドロン・パルス療法の効果

臨床試験では、デカドロン・パルス療法は従来のプレドニゾロン療法に比べて血小板数の早期上昇率が高く、さらに再燃率が低いことが報告されています。

例えば中国で行われた比較試験(Zhang et al., Blood, 2008)では:

治療法:初回奏効率|6か月後の寛解維持率
・デキサメタゾン40mg×4日:約80%|約60%
・プレドニゾロン1mg/kg連日:約70%|約40%

短期間で効果を得つつ、長期副作用を軽減できる点で、初回治療の第一選択肢となることが多くなっています。

副作用と注意点

短期間とはいえ、高用量ステロイドを投与するため副作用には注意が必要です。

一過性の副作用
・不眠、躁状態(多幸症)
・顔面浮腫、食欲亢進
・消化性潰瘍、胃痛
・血糖上昇、血圧上昇
・一過性の白血球増多

長期的な懸念(繰り返しパルスの場合)
・骨粗鬆症、骨壊死
・感染症リスク
・精神症状の悪化
・血栓症(特に高齢・脱水時)

そのため、デカドロン・パルス療法中は胃粘膜保護薬(PPIなど)や血糖モニタリングが行われることが多く、慎重な管理が求められます。

治療後の経過と維持療法

デカドロン・パルス後、多くの患者では血小板数が一時的に回復しますが、数週間〜数か月後に再び減少することもあります。
このため、再燃例ではアザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、エルトロンボパグ(レボレード)など、他の免疫抑制薬や血小板増加薬への移行が検討されます。

また、効果が十分でない場合や再発を繰り返す場合には、脾臓摘出やリツキシマブ(抗CD20抗体)などの治療も選択肢に入ります。

プレドニゾロン療法との比較

項目プレドニゾロン連日投与デカドロン・パルス療法
投与期間数週間〜数か月4日間を1クール
投与量(換算)約60mg/日40mg/日(7倍力価)
作用発現徐々に速やか(数日)
副作用長期で多い短期で軽減されやすい
寛解率約40〜50%約60〜70%
使いやすさ外来管理が容易高用量に伴う注意必要

短期で強い効果を狙える反面、デカドロン・パルスでは投与中の精神症状や血糖上昇に注意する必要があります。

再燃時の対応

ITPは慢性再発性疾患であり、完全寛解に至らない症例もあります。
再燃時は再度デカドロン・パルスを実施する場合もありますが、繰り返しにより副作用が蓄積するため、通常は2〜3クールが上限とされます。

再燃例では以下のような薬剤も検討されます。
・レボレード(エルトロンボパグ):トロンボポエチン受容体作動薬。血小板産生促進。
・ロミプレート(ロミプロスチム):皮下注製剤。
・リツキサン(リツキシマブ):B細胞除去により抗血小板抗体を抑制。
・アザチオプリン、シクロスポリン:免疫抑制剤として追加。

臨床での位置づけ

日本の診療ガイドライン(厚生労働省「特発性血小板減少性紫斑病 診療ガイドライン2023」)でも、デキサメタゾン40mg×4日間投与はプレドニゾロンに代わる初期治療選択肢として記載されています。
特に「副作用リスクが高い患者」「早期効果を要する患者」には推奨されます。

まとめ

デカドロン・パルス療法は、短期間・高用量のステロイド療法であり、従来のプレドニゾロン療法に比べて早期効果と副作用軽減が期待されます。

・ITPの初期治療として世界的にも標準化が進んでいます。
・1日40mgを4日間という投与量は非常に強力であり、医師の管理下でのみ実施可能です。
・投与後は血糖、感染、精神状態などを慎重にフォローする必要があります。

治療効果が得られない場合は、他の免疫抑制薬やトロンボポエチン受容体作動薬への移行が行われます。

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