2025年7月6日更新.2,509記事.

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クロミッドを飲むと双子が生まれる?排卵誘発と多胎妊娠のリスク

クロミッドを服用すると双子が生まれる?

クロミッド(一般名:クロミフェンクエン酸塩)は、不妊治療の現場で広く用いられている排卵誘発剤です。
排卵障害のある方に対して、卵胞の発育を促し、排卵を起こさせる目的で使用されます。

一方で、クロミッドを使用すると「双子や三つ子が生まれる確率が上がるのではないか?」と心配される方も少なくありません。
確かにクロミッドには、複数の卵胞が同時に発育し排卵が起こることで、自然妊娠より多胎妊娠の可能性が高まる特徴があります。

クロミッドの作用や多胎妊娠のリスク、治療時の注意点について、勉強します。

クロミッドの排卵誘発メカニズム

まず、クロミッドが排卵を誘発する仕組みを簡単に整理しておきましょう。

クロミフェンは、エストロゲン受容体に部分的に結合する作用(抗エストロゲン作用)を持っています。

私たちの脳は、体内のエストロゲン濃度を感知して排卵のタイミングを調節しています。
クロミッドを服用すると、視床下部のエストロゲン受容体がブロックされることで、脳は「まだエストロゲンが足りない」と錯覚します。
この錯覚により視床下部が性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)を多く分泌し、それを受けて下垂体から卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)が活発に放出されます。

結果として卵巣が刺激され、複数の卵胞が同時に発育しやすくなるのです。

クロミッドと多胎妊娠の関係

自然妊娠では双子や三つ子の多胎妊娠率は約1%程度と言われています。
しかし、クロミッドを服用すると多胎率は約5%に上昇します。

実際、クロミッドの添付文書にも、
「卵巣過剰刺激の結果としての多胎妊娠の可能性があるので、その旨をあらかじめ患者に説明すること。」
と明記されています。

こうした数字だけを見ると「5%ならそれほど高くないのでは?」と思う方もいるかもしれません。
ですが、通常の妊娠に比べると確実に多胎のリスクは上がっており、治療を始める際には慎重に検討する必要があります。

多胎妊娠の負担とリスク

「赤ちゃんが欲しいなら、双子や三つ子でもむしろ嬉しい」と考える方もいらっしゃるでしょう。
しかし、実際に妊娠・出産・育児を迎えると、想像以上に負担が大きいことが多いです。

例えば、
・妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病などの合併症リスクが上がる
・早産や低出生体重児の割合が増える
・帝王切開になる確率が高い
・妊娠中の通院や管理が頻回に必要
・出産後の育児の体力的・経済的負担が増える

こうした理由から、多くのお母さんは「まずは一人を無事に産み育てたい」と思うことが自然です。

不妊治療では、赤ちゃんが一人でも無事に育つことを最優先に治療を進めるため、多胎のリスクについては十分な説明と合意が必要です。

クロミッドを長期間使うと妊娠しにくくなる?

クロミッドの特徴として、排卵を促す一方で「子宮内膜が厚くなりにくい」という側面があります。

エストロゲンの働きがブロックされるため、受精卵が着床するためのベッドである子宮内膜が十分に育たないことがあるのです。
これにより、排卵が起きても着床がうまくいかず、妊娠に至らないことがあります。

このような状態を黄体機能不全と呼びます。

黄体機能不全の改善と補助療法

黄体機能不全が疑われる場合には、治療の工夫が行われます。

たとえば、
・クロミッドの服用回数を制限する
・エストロゲン製剤や黄体ホルモン(プロゲステロン)を追加する
・休薬期間を設けて内膜の回復を待つ
などの方法がとられます。

具体的に、デュファストン(ジドロゲステロン)といった黄体ホルモンを高温期(排卵後)に内服し、子宮内膜の維持をサポートすることもあります。
この治療法は「クロミッド-ゲスターゲン療法」と呼ばれています。

妊娠率と排卵率の違い

クロミッドは排卵誘発率が高い薬剤です。

・第1度無月経:排卵誘発率 約67%
・無排卵周期症:排卵誘発率 約87%

ただし、排卵が起きても妊娠率は約25%程度と報告されています。
これは、子宮頸管粘液の分泌低下や黄体機能不全が影響するためです。

排卵は超音波で卵胞径を計測し、22mm以上になると排卵が近いと判断できます。
適切なタイミングをとることが妊娠の可能性を高めます。

クロミッドとビタミンC

最近では、黄体機能不全に対するビタミンC(シナールなど)の併用効果が報告されています。

ビタミンCは強い抗酸化作用を持ち、黄体機能を改善する可能性があると考えられています。
実際に、クロミッド群で黄体機能不全改善率が50%、ビタミンC群では70%という報告もあります。

クロミッド単独で効果が不十分な場合、ビタミンCを追加することで改善率が上がる例が示されています。

ただし、シナールの不妊治療での使用は保険適応外です。
医療機関で処方を希望する場合は、事前に確認が必要です。
心配な方は、一般的なビタミンCのサプリメントを活用することも一つの方法です。

セキソビットとの違い

排卵誘発剤としてセキソビット(シクロフェニル)も使われることがあります。

両者の大きな違いは、
・クロミッド:排卵障害に基づく不妊症の排卵誘発
・セキソビット:第1度無月経、無排卵性月経、希発月経の排卵誘発
といった適応症の違いです。

保険請求上、不妊治療としてセキソビットを使うことはできないようにも思えますが、「本剤は、不妊治療に十分な知識と経験のある医師のもとで使用すること。」とあり、不妊治療で用いられる前提ではあります。
排卵誘発作用はクロミッドのほうが強いとされています。

治療を受ける際の大切な視点

不妊治療はとてもセンシティブでプライベートな課題です。
治療を始めると、「できるだけ早く赤ちゃんが欲しい」という気持ちが強くなる一方、思うように結果が出ずに焦りや不安を抱えやすくなります。

クロミッドによって多胎妊娠の可能性が高まることは事実ですが、
・双子や三つ子の妊娠は母体に大きな負担をかける
・経済的・育児的な準備も必要
・出産・育児のリスクが増す
など、決して軽視できない側面があります。

「妊娠率を上げるために強い薬を使う」というだけでなく、リスクや負担を正しく理解し、自分や家族にとって何が大事か、担当医とじっくり話し合うことがとても大切です。

まとめ

クロミッドは多くの方の妊娠を後押ししてきた薬ですが、複数排卵による多胎妊娠、黄体機能不全、子宮内膜の薄さなど、メリットとデメリットが表裏一体です。

不妊治療は「治療をすればすぐに妊娠できる」という単純な話ではなく、身体的・精神的・経済的に大きなチャレンジを伴います。
一人で抱え込まず、医療者やカウンセラー、周囲のサポートを受けながら、納得のいく治療の選択肢を探していくことが大切です。

クロミッドやその他の排卵誘発法について気になることがあれば、ぜひ主治医や不妊治療専門クリニックに相談してください。
一歩ずつ、あなたに合ったペースで進めていきましょう。

処方例

クロミッド錠50mg 1錠  
 1日1回朝食後 5日分

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職業:薬剤師
出身大学:ケツメイシと同じ
生息地:雪国
著書: 薬局ですぐに役立つ薬剤一覧ポケットブック
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