2025年8月30日更新.2,608記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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頭痛の原因は何?命に関わる病気のサイン

頭痛の多様な原因と危険なサイン

「たかが頭痛」と軽視されがちな症状ですが、実際には命に関わる重大な疾患が隠れていることもあります。その代表的な例がくも膜下出血です。くも膜下出血は突然発症し、短時間で重篤な後遺症や死に至ることもある病態です。

しかし、全ての頭痛患者にCTやMRIといった高額な検査を行うことは現実的ではありません。限られた医療資源の中で、どのような頭痛を“危険な頭痛”と見抜くかが医師には求められています。

くも膜下出血とは?─命を脅かす「突然の頭痛」

くも膜下出血とは、脳の表面を覆うくも膜と脳の間に出血が起きる状態です。最も多い原因は脳動脈瘤の破裂です。

典型的な症状
・突然の激しい頭痛(いわゆる“雷鳴頭痛”)
・吐き気や嘔吐
・意識障害
・頸部硬直
・光過敏や音過敏
・けいれん

ただし、「典型例」ばかりではない

くも膜下出血は「金槌やバットで殴られたような頭痛」とよく表現されますが、これは実際には約60%程度に過ぎません。残りの症例では、1分程度かけて徐々に痛みが強くなる場合もあり、これも「突然の頭痛」として鑑別対象に含めるべきです。

さらに、前駆症状として軽度の頭痛を訴えて受診しているケースもあります。こうした段階で適切な検査がなされなかったために、後日重症化したという事例も報告されています。

CTやMRIは全例に必要か?

頭痛で受診する患者すべてに画像検査を行うことは、費用的にも現実的ではありません。特に若年者で基礎疾患がない場合は、片頭痛や緊張型頭痛であることが多く、画像検査なしで対処するのが一般的です。

しかし、下記のような“赤旗症状(Red Flags)”があれば、積極的な画像検査が必要です。

赤旗症状(Red Flags)
・これまでに経験したことのない激しい頭痛
・突然発症(数分以内にピーク)
・神経学的異常(麻痺、言語障害など)
・発熱や項部硬直(髄膜炎や感染症の可能性)
・意識障害やけいれん
・50歳以上の新規頭痛
・がん、HIV、免疫抑制の既往
・頭痛のパターンが急激に変化した場合

医療現場でのジレンマ─「検査すべきか、しないべきか」

医療機関では、「軽い頭痛の全例にCTを撮るべきか?」というジレンマがあります。患者が不安で「念のため検査してほしい」と希望すれば、医師としても応じざるを得ない場面が多い一方で、保険診療上「頭痛」という病名でのCT実施は返戻リスクもあり、制度的なハードルもあります。

加えて、医師主導の問診では患者の不安が十分に伝わらないケースもあり、検査を逃すと後日重大な結果につながるリスクがあります。

実例:くも膜下出血の見逃し
千葉市立海浜病院で実際に起きたケースでは、40代女性が吐き気と頭痛を訴えて救急搬送されたものの、CTを行わずに「過呼吸」と診断され自宅へ帰されました。翌日、別の医療機関でくも膜下出血と診断され、重い後遺障害を残しました。結果的に病院は損害賠償として約6600万円を支払う事態となりました。

このようなケースは「軽症に見える」頭痛でも、実は見逃してはいけない病態が隠れていた例であり、医療者にとって教訓的です。

頭を振ると痛い?─ジョルトサインとは

ジョルトサイン(Jolt Accentuation)とは、患者が頭を水平方向に2〜3回/秒の速度で振る動作で、頭痛が増悪するかを確認する診察法です。髄膜刺激症状を示す簡便なチェックであり、くも膜下出血や髄膜炎などが疑われる場合に有用とされています。

特に子どもや言葉でうまく症状を表現できない患者に対しても、比較的簡単に異常を見抜く方法として注目されています。

片頭痛と脳卒中─意外な関係

片頭痛は単なる「つらい頭痛」ではありません。実は脳卒中のリスクファクターとされており、特に女性で以下の条件を満たすとリスクが顕著に上昇します。

・喫煙
・経口避妊薬の使用
・前兆を伴う片頭痛(閃輝暗点など)

たとえば、片頭痛患者が喫煙している場合、脳卒中のリスクは10倍に跳ね上がるとされます。片頭痛の治療と同時に、禁煙指導も重要な介入となります。

片頭痛の病態生理

●血管説
・血小板からのセロトニン放出により血管が収縮(前兆)
・セロトニンが枯渇し、血管が拡張することで頭痛が起こる

●神経説
・脳機能や代謝の異常が後頭葉から前方へ波のように広がり、神経活動に影響

三叉神経血管説(現在最も有力)
・三叉神経の刺激により血管作動性ペプチド(CGRPなど)が放出
・血管拡張と無菌性炎症が発生
・三叉神経が活性化し、頭痛が生じる

これらの知見は、CGRP受容体拮抗薬(例:エムガルティなど)の登場により、片頭痛治療の新たな選択肢を生み出しています。

薬剤師が気をつけるべきポイント

薬局で頭痛薬(OTC)の相談を受けることは日常的ですが、以下の点には特に注意が必要です。

頭痛の性質を確認
・突然の激しい頭痛か?
・発熱や嘔吐を伴うか?
・慢性的な頭痛か、初めてか?

※突然の激しい頭痛や、神経症状・発熱を伴う場合は即受診勧奨。

片頭痛の自己申告に注意
患者が「片頭痛持ちです」と自己判断していても、実際には緊張型頭痛や二次性頭痛であることもあります。

特に市販薬を連用している人には薬剤誘発性頭痛(MOH)のリスクもあるため、使用頻度などの聞き取りは重要です。

トリプタン系薬の適正使用
近年では一部のトリプタン系薬(スマトリプタンなど)がスイッチOTCとして薬局で購入できるようになりました。ただし、以下の患者には慎重な対応が必要です。

・心疾患や脳血管疾患の既往
・高血圧や糖尿病のコントロール不良
・高齢者
・初めての頭痛でトリプタン希望する場合

「風邪薬でごまかす」リスク
軽い頭痛だからと風邪薬や市販の鎮痛薬で済ませてしまうと、本来早期に受診すべき二次性頭痛を見逃してしまうこともあります。薬剤師としては、安易なOTC販売よりも適切な医療受診を促す姿勢が重要です。

医師と薬剤師が協力して守る命

頭痛という一見日常的な症状の中に、命に関わる病気が潜んでいることがあります。医師は限られた時間と情報の中で重大な疾患を見逃さないよう努め、薬剤師も市販薬対応時に異常の兆候を見逃さない意識が求められます。

「検査のしすぎも医療費の無駄」とする一方で、「見逃したときの代償はあまりに大きい」という現実。そのバランスの中で、私たちは日々、命と向き合っています。

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