記事
前立腺の薬で血圧が下がる?
公開. 更新. 投稿者:前立腺肥大症/過活動膀胱.この記事は約8分46秒で読めます.
4,991 ビュー. カテゴリ:前立腺肥大症と高血圧
前立腺肥大症に使われるα1遮断薬は、高血圧に降圧剤としても使われる。
α1遮断薬には、ハルナール、フリバス、ユリーフ、エブランチル、ハイトラシン&バソメット、カルデナリン、デタントール、ミニプレスがあります。
適応症の違いから、
高血圧のみに適応のあるもの:カルデナリン、デタントール
排尿障害のみに適応のあるもの:ハルナール、フリバス、ユリーフ
高血圧と排尿障害に適応のあるもの:エブランチル、ハイトラシン&バソメット、ミニプレス
に分けられます。
泌尿器科からハルナール、内科からカルデナリンという処方が来たら要注意です。
血管平滑筋に対する選択性と、尿路平滑筋に対する選択性の違いです。
これにはα1受容体のサブタイプが関係します。
前立腺に分布しているのが、α1A受容体とα1D受容体。
血管に分布しているのが、α1B受容体です。
α1A受容体に選択性の高い薬が、ユリーフとハルナール。
α1D受容体に選択性の高い薬が、フリバス。
ユリーフはα1D受容体にほとんど働きませんが、ハルナールはα1D受容体にも少し作用します。
これらの薬(ユリーフ、ハルナール、フリバス)が前立腺肥大症によく使われます。
前立腺肥大症の患者さんは、排尿困難(尿の出にくさ)がありますが、それに加えて頻尿などの膀胱刺激症状のある患者がいます。
α1D受容体は膀胱にも多く分布しているので、頻尿などの膀胱刺激症状のある患者さんにはフリバスが適しています。ハルナールでも少しは効果が期待できます。
医薬品名 | 一般名 | α₁受容体サブタイプ選択性 |
---|---|---|
ミニプレス | プラゾシン | α₁A≒α₁B≒α₁D |
バソメット/ハイトラシン | テラゾシン | α₁A≒α₁B≒α₁D |
エブランチル | ウラピジル | α₁A≒α₁B≒α₁D |
ハルナール | タムスロシン | α₁A>α₁D>α₁B |
フリバス | ナフトピジル | α₁D>α₁A>α₁B |
ユリーフ | シロドシン | α₁A>>α₁B≒α₁D |
α1D受容体とフリバス
α1遮断薬は、α1 受容体を選択的に遮断し、末梢血管抵抗性を減少させることにより、降圧作用を示す。
α1受容体はα1A、α1B、α1Dのサブタイプが知られており、前立腺組織にはα1A受容体とα1D受容体が、血管平滑筋にはα1B受容体が多く発現している。
したがって、α1B受容体に比べてα1A受容体やα1D受容体への選択性が高い薬剤の方が血圧低下などの副作用が少ないと考えられている。
ユリーフは特にα1B受容体に比べてα1A受容体の選択性が高く、前立腺への効果をより高く発揮できる薬剤として開発され、プラセボ、タムスロシンを対照とした比較試験において、その有用性が確認されている。
また、前立腺におけるα1A受容体とα1D受容体の発現量を比較すると、α1A受容体の方が多く発現しているとされている。
しかし、α1D受容体は膀胱平滑筋や脊髄にも多いため、α1D受容体への親和性が比較的高いフリバス(ナフトピジル)は、畜尿機能障害への効果が高いとの報告もある。α1D受容体は夜間頻尿との関わりも指摘されている。
また、前立腺においてα1D受容体の発現が優位な患者もおり、そのような患者ではフリバス(ナフトピジル)がより効果的との報告もある。
もっぱら、選択的α1受容体遮断薬が用いられる。
初回より大量に投与するのは、副作用の観点から注意を要する。
高齢者では起立性低血圧に注意が必要である。
耐糖能や脂質への好都合な作用が特徴的といえる。
他の降圧薬に比べて心保護作用、心不全抑制作用が弱い傾向にあると考えられるが、他の降圧薬との併用時、良いパートナーとなる。
α1遮断薬はそれ自身体液貯留傾向があり、心不全の予後を改善しないとされ、第一選択薬からは外れている。
近年では、早朝高血圧の抑制を目的として就寝前に用いることが多くなった。
前立腺肥大症状を有する高齢男性では、降圧以外の効果が期待できる。
・主として、初回投与効果についての注意を喚起する指導が必要である。ことに高齢者では起立性低血圧に関する説明が必要である。
α1遮断薬は降圧作用に基づくめまいやたちくらみが現れることがあるため、高所作業、自動車の運転等には十分に注意するよう指導する。
女性の閉塞症状には非選択的α1阻害薬であるウラピジル(エブランチル)に保険適用が認められている。
血管にもα1Aサブタイプは多い
アドレナリンαl受容体はα1A、α1B、α1Dの三つのサブタイプに分類されます。
ヒトの場合は、アドレナリンα1A受容体は脳、心臓、肝臓、前立腺に多く存在することが知られています。
薬物治療では、前立腺のα1A受容体を遮断することで前立腺・前立腺部尿道の平滑筋を弛緩、尿道内圧を低下させて排尿困難を改善します。
実は、血管にもα1受容体が多く、ほとんどのサブタイプが分布していますが、もっとも多く発現しているのはα1Aサブタイプです。
しかし、加齢にともなってα1Aからα1Bへのサブタイプの転換があることから、前立腺肥大症の症状を呈するような年齢ではα1A受容体に選択的な桔抗薬を用いても、血管への影響を少なくさせることが可能だと考えられています。
実際、α1受容体桔抗薬を治療に用いた場合には、副作用として起立性低血圧やめまいなどが認められていますが、α1A受容体に選択性の高いものでは、このような副作用の発現頻度が低いことが知られています。
【α1受容体】
交感神経系のα1受容体は全身に分布しており、眼、血管、消化管、膀胱、前立腺などの収縮に関与しています。
α1アドレナリン受容体は、α1A、α1B、α1Dのサブタイプにわかれており、組織によって高発現しているサブタイプが異なります。
前立腺平滑筋には、α1A受容体が多く発現していることが確認されています。
α1遮断薬で尿漏れ?
α1遮断作用を持つハルナールやユリーフなどの薬は、前立腺肥大による排尿障害などを改善する目的で投与されるが、過度にα1受容体が遮断されることにより、内尿道括約筋が弛緩し、尿失禁などを起こすことがある。
排尿障害
排尿障害は、畜尿障害(尿失禁:畜尿時膀胱に尿を保持できない)と、排出障害(排尿困難、残尿、尿閉)に分けられます。
排尿障害は、閉塞症状(尿が出にくい)と畜尿症状(尿が近い、切迫感)よりなる。
男性の排尿障害に対する薬物療法の第一選択は、交感神経選択的α1阻害薬である。
選択的α1阻害薬の服用により眼科手術中に術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)が生じることがあり、眼科手術予定患者では眼科医に連絡する必要がある。
PDE-5阻害薬であるタダラフィル(ザルティア)は平滑筋の弛緩と膀胱血流の増加作用があり、畜尿症状を改善する。
処方に際しては尿流量測定や前立腺エコー検査の評価が必要である。
症状が軽度な患者には単剤で、閉塞症状を伴う場合には選択的α1阻害薬と併用する。
亜硝酸薬を内服している場合には禁忌である。
植物製剤であるエビプロスタットは副作用が少なく抗炎症作用があり、畜尿症状に有効である。
漢方薬では、八味地黄丸、牛車腎気丸が排尿障害に用いられる。
両剤とも地黄を含むため、胃腸障害に注意する。
女性の閉塞症状には交感神経非選択的α1阻害薬のウラピジルが保険適用である。
ユリーフ錠4mg 2錠
1日2回朝夕食後 30日分
畜尿と排尿のメカニズム
排尿に関する末梢神経は3種類に大別され、胸髄中枢から下腹神経(交感神経)が膀胱、尿道、前立腺に分布し、仙髄中枢から骨盤神経(副交感神経)が主に膀胱体部に分布している。
陰部神経(体性神経)は仙髄中枢から外尿道括約筋に分布している。
交感神経α1受容体は、尿道平滑筋や前立腺に密に分布し、畜尿期には交感神経末端から分泌されるノルアドレナリンによって活性化され、細胞内Caイオン濃度を上昇させて平滑筋を収縮させる。
β受容体は、膀胱平滑筋に密に分布し、畜尿期にはノルアドレナリンによって刺激されアデニル酸シクラーゼを活性化し、細胞内ATPをcyclicAMPに変換させ、平滑筋を弛緩させる。
膀胱平滑筋組織中にはβ3受容体が強く発現している。
膀胱体部組織中にはムスカリン受容体が多く存在し、排尿期では副交感神経末端から分泌されるアセチルコリンによって活性化され、膀胱が収縮する。
膀胱に多く存在するのはM2とM3タイプであるが、機能的にはM3タイプを介する収縮が主と考えられている。
前立腺肥大症
前立腺肥大症は、中高齢男性にみられる進行性疾患で、様々な尿トラブルを引き起こし、患者のQOLを著しく低下させます。
前立腺肥大症による死亡率は高くありませんが、加齢に従って有病率が増加するため、高齢化が顕著な我が国ではとくに注目が集まっています。
前立腺肥大症は、前立腺の移行領域に腺腫が発生・増大し、それにより尿道が圧迫され、尿流出抵抗が増し排尿障害を発生する良性疾患である。
下部尿路の閉塞については、前立腺腫大そのものによる機械的閉塞と、腺腫内で増加したα1受容体にノルアドレナリンが結合し、前立腺平滑筋を収縮させる機能的閉塞がある。
α1受容体は前立腺以外にも、前立腺部尿道、膀胱頸部に存在し、前立腺肥大症では特に密に分泌している。
α1受容体にはA、B、Dのサブタイプがあり、前立腺に存在するタイプはα1A>α1D>α1Bの順となり、主にα1Aが存在する。
一方、血管に豊富に存在するのはα1Bなので、α1Aに親和性の高いα1遮断薬は血管への影響が少なく、低血圧によるめまいや立ちくらみの出現が少ないといわれている。
前立腺肥大症は、前立腺腫大(BPE)、下部尿路障害(LUTS)、下部尿路閉塞(BOO)の3つが構成要因であり、これらが混在して起こる症候群である。
LUTSは、畜尿症状(頻尿、尿意切迫感、尿失禁)と排尿症状(排尿開始の遅れ、排尿時にいきみを要する、尿流の細さ、尿線のとぎれ、尿の切れの悪さ)に大別される。
排尿症状は、肥大した前立腺が尿道を圧迫し尿道閉塞を起こすことによる。
畜尿症状は、尿道閉塞のために排尿しきれなかった尿により、膀胱機能が変化し二次的に生じるものである。
尿道の圧迫が続くと、尿を出そうとして膀胱に負担がかかり、膀胱排尿筋の機能異常や下部尿路閉塞による求心性の神経伝達亢進が起こり、その結果、過活動膀胱(OAB)になる。
前立腺
前立腺は、尿道を囲むように存在する男性特有の生殖器官です。
成人男性における正常な前立腺は20g前後のクルミ大の大きさで、辺縁領域、中心領域、移行領域の3つの腺構造領域と、腺構造を持たない前部線維筋性間質の4つの領域から構成されています。
前立腺の詳しい働きは明らかになっていませんが、精液の一部となる前立腺液の分泌、畜尿のための括約筋様の作用、射精などに関与していると考えられています。
前立腺は、膀胱の出口のところに尿道を取り巻くように存在していて、精液の一部である前立腺液を分泌し精子の活動を活発にしている。
また、前立腺内の平滑筋が収縮することで、尿を漏らさないようにコントロールしている。
前立腺は男性ホルモンにより刺激され、分化を繰り返し、成人では約15gで栗の実大の大きさになる。
その構造は内腺(中心領域と移行領域)と外腺(辺縁領域)に分かれ、肥大するのは通常、中心領域と移行領域であり、前立腺がんは辺縁領域から発生することが多いとされている。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
そんな薬剤師には、m3.com(エムスリードットコム)の、薬剤師のための「学べる医療クイズ」がおすすめ。