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抗癌剤による発熱にクラビット?
公開. 更新. 投稿者:抗菌薬/感染症.この記事は約5分10秒で読めます.
3,082 ビュー. カテゴリ:熱が出たらクラビット?
病院で抗癌剤の治療を受けている患者に、
クラビット錠500mg 1錠
1日1回朝食後 5日分
という処方が出ることがある。
これをただの風邪か何かと勘違いし、「なるべく早くお飲みください」みたいな指導をしてしまうと赤っ恥かくこともあるので注意。
抗癌剤の副作用である骨髄抑制からの感染症対策としての支持療法で、熱が出た場合に服用するというものである可能性が高い。
がん薬物療法時に注意すべき副作用の1つに発熱性好中球減少症があります。
発熱性好中球減少症の定義は、好中球数が500 /μL(/mm3)未満または1000/μL未満で、その後48時間以内に500 /μL未満に減少すると予測される状態で、かつ腋窩温が37.5度以上(口腔内体温38度以上)の発熱を生じた場合と定義されている。
骨髄抑制は、抗がん剤によって骨髄の造血機能が抑制されることで生じるもので、白血球・赤血球・血小板が減少する。
中でも白血球が特に減少するため易感染性となる。
38℃以上の発熱を伴う発熱性好中球減少症は、急速に敗血症性ショックに陥る可能性があり、その予防や早期治療の目的で抗菌薬が処方される。
骨髄抑制に対する支持療法としては、「37.5℃(38℃)以上の発熱が見られた場合に服用を開始し、処方された量(5~7日が一般的)を飲み切る」という用法が標準。
発熱性好中球減少症リスクがやや高い場合には、発熱の有無にかかわらず「化学療法治療日から5~7日後(施設差あり)に服用を開始し、飲み切る」とすることもある。
血液腫瘍の治療を受けている患者では、日和見感染の予防のため、抗真菌薬や抗ウイルス薬が入院時から継続的に処方されることもある。
ベルケイド(ボルテゾミブ)という抗癌剤を使用している患者や同種骨髄移植後の患者で、カリニ肺炎の予防のためにST合剤(バクタ)を低用量で継続的に使用することがある。
また、同種骨髄移植後で免疫抑制剤を使用中の患者に、深在性真菌症の予防目的でアゾール系抗真菌薬が継続的に使われることもある。
抗がん剤服用中に風邪を引いたら注意?
抗がん剤服用中の患者さんが、薬局に風邪薬を買いに来たとしましょう。
きっと、がん患者というだけで気持ちが焦ってしまい、相互作用に問題は無いかどうかを調べるので精一杯。
でも、本当に気をつけなければいけないのは、抗がん剤服用中の発熱。
好中球減少性発熱です。
アルキル化剤や代謝拮抗剤のような抗がん剤は、細胞の増殖を阻害する作用を持ちます。
がん細胞は正常細胞に比べて細胞周期が短いため、これらの薬剤はがん細胞に特異的に作用することが期待されますが、骨髄や腸管粘膜、毛根などのように細胞周期の比較的短い正常細胞にも影響を及ぼすことになります。
骨髄細胞がダメージを受けた場合、赤血球、白血球、血小板などの産生機能が低下します。
このうち白血球(特に好中球)が減少した場合、細菌感染を防ぐことができなくなり、感染症発症の結果としてかぜ様症状が現れます。
特に38度以上の発熱は重要な指標であり、重篤化を防ぐために直ちに抗生剤等を投与する必要があります。
抗がん剤治療中の発熱を訴えられたら、すぐに病院に行くように強く言いましょう。
抗癌剤による造血器障害
抗癌剤による造血器障害の副作用は感染症を引き起こし、直接死に結びつく合併症を引き起こすことから最も迅速な対応が求められるものです。
早期に気づいて、抗がん剤の投与を中止することで対応できるケースもありますが、抗がん剤を効果的に用いるためには有効な薬の投与を考える必要が生じてきます。
造血器障害には、赤血球減少、血小板減少、白血球減少などがみられる。
赤血球減少
赤血球減少により生じる貧血の場合は、ヘモグロビン8g/dLを維持することが望ましく、対策としては赤血球濃厚液や保存血を用います。
薬ではエリスロポエチン製剤を投与すると、約10%以上ヘモグロビン値の上昇がみられるとの報告もあります。
血小板減少
血小板減少は、抗がん剤投与開始後2週間目くらいに最低値となることが多いといわれています。回復するケースもみられますが、血小板数が5万/μL以上に保たれれば出血の危険性が少ないと考えられているので、血小板数が5万/μL以下になった場合に血小板輸血を開始するケースがよくみられます。
この場合、最低でも1~2万/μLを保つために行われます。この際、発熱や悪心がみられることも念頭においてください。
白血球減少
白血球(好中球)減少は、薬によって違いはありますが、投与開始後2週間目くらいにピークを迎えることが多いのです。現在では、コロニー刺激因子(CSF)薬を投与することで対応できます。
一般的には白血球数が1000/μL以下、顆粒球数が500/μL以下になると重篤な感染症の発生が考えられるので、迅速な対応が求められます。
症状としては発熱のほか、発赤、腫脹、熱感、疼痛、膿形成などがあり、それらを気にしながら患者さんを観察することが大切です。
腫瘍熱
がん患者の多くに発熱が認められます。
原因として多いのが、感染症に次いで「腫瘍熱」であり、がん患者の発熱の10~60%を占めていると考えられています。
腫瘍熱とは、明らかな原因が不明な癌患者の発熱のことです。
腫瘍そのものから発熱物質の放出に加えて、腫瘍の壊死に伴って好中球、マクロファージが産生するサイトカインによる生体内反応に起因すると考えられています。
腫瘍熱は白血球、悪性リンパ腫などの造血器腫瘍だけでなく、固形癌でも認められます。
腫瘍熱の発現は、腫瘍の急速な増大の兆候を示しているとも考えられています。
腫瘍の増大を抑制できれば、腫瘍熱は改善します。
しかし、腫瘍が十分にコントロールできない場合や、終末期に積極的な腫瘍の治療を行わない場合などには、発熱に対する対症療法が必要になります。
顆粒球減少症と無顆粒球症
白血球のなかで、細胞につぶつぶ(顆粒)があるものを顆粒球といいます。
顆粒球は細菌を貪食する作用があり、生体防御には欠かせません。
好中球、好酸球、好塩基球の3種類があり、細胞を染めたときのつぶつぶの色で区別されます。
「顆粒球減少症」とは、末梢血中の成熟好中球の絶対数が減少した状態のことで、一般には1500/μL以下の場合をいいます。
通常、顆粒球の大部分は好中球が占めるため、好中球減少症という言葉もほぼ同義語として用いられます。
「無顆粒球症」とは、500/μL以下に好中球が激減した場合に用いられます。
好中球の減少によって感染症、特に細菌や真菌感染をきたしやすくなりますが、無顆粒球症ではそのリスクが一段と高くなるのです。
好中球、好酸球、好塩基球の違いは?
白血球の種類は好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球。
このうち好中球、好酸球、好塩基球は顆粒球とも呼ばれる。
好中球は末梢血内では白血球全体の50から70%を占め 、顆粒球では約90から95%を占める。
なので、顆粒球はほぼ好中球といえる。
好酸球はアレルギー反応に関与しており、アレルギー性疾患では高値になる。
好塩基球の存在意義は不明とのこと。