2025年6月27日更新.2,503記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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おしっこを我慢すると膀胱炎になる?

尿意の我慢と女性に多い尿路感染症の関係

「トイレを我慢していたら膀胱炎になった…」そんな話を耳にしたことはないでしょうか?特に外出中や仕事中、トイレにすぐ行けない状況では、ついつい尿意を我慢してしまうものです。しかしこの「我慢」が本当に膀胱炎の原因になるのでしょうか?

膀胱炎のメカニズムや尿路感染症との関係、そして“我慢”が与える体への影響について、勉強していきます。

膀胱炎とはどんな病気?

膀胱炎とは、膀胱の粘膜に炎症が起きる病気です。多くは細菌感染によるもので、特に女性に多く見られます。

主な症状:
・排尿時の痛み(灼熱感)
・頻尿(トイレの回数が増える)
・残尿感(出しきれない感じ)
・下腹部の違和感・痛み
・血尿(尿に血が混じることも)

風邪のように誰でもかかる可能性がある病気ですが、特に過労やストレス、冷えなどで免疫力が落ちているときに発症しやすくなります。

トイレを我慢すると膀胱炎になる?

結論から言うと:
「我慢しただけでは膀胱炎にはならないが、膀胱炎を起こしやすい環境をつくってしまう」

尿は本来、膀胱内にたまった不要物や細菌などを体外へ排出する「自浄作用」があります。ところが、尿を長時間ためこんで排尿を我慢すると、この“掃除のチャンス”が減ってしまうのです。

尿が長時間膀胱に滞留すると、細菌が膀胱内で増殖しやすくなります。特にすでに尿道から菌が侵入していた場合、膀胱内で増殖の機会を与えてしまい、膀胱炎が成立しやすくなるのです。

女性に膀胱炎が多い理由

女性は膀胱炎になりやすい構造的な特徴があります。

女性と男性の違い
・尿道の長さ:(女)約4cm、(男)約16~20cm
・肛門との距離:(女)近い、(男)遠い
・膣や会陰部:(女)開放的、(男)閉鎖的

このように、女性は解剖学的に尿道が短く、肛門や膣からの雑菌が尿道口に到達しやすいため、膀胱炎にかかりやすいのです。加えて、生理や性交渉後、妊娠や出産など、感染のリスクが高まるイベントも多くあります。

膀胱炎の原因菌と感染経路

膀胱炎のほとんどは「上行性感染」と呼ばれるもので、肛門周囲にいる細菌が尿道口から膀胱へさかのぼって感染します。

主な原因菌
・大腸菌(Escherichia coli):約8割
・クレブシエラ属
・プロテウス属
・腸球菌、黄色ブドウ球菌(まれに)

膀胱は本来、無菌状態を保っている臓器ですが、外から細菌が入り込み、条件が整うと炎症を起こします。

ウォシュレットと膀胱炎の関係

意外かもしれませんが、シャワートイレの使い方が膀胱炎の原因となることがあります。

水流を尿道口に直接当ててしまうと、逆に細菌を尿道内に押し込んでしまうリスクがあります。特に強い水圧や長時間の使用には注意が必要です。

正しい使い方のポイント
・弱い水流で使用する
・肛門と陰部の洗浄は別に行う
・洗いすぎない(常在菌を落としすぎない)

排尿のしくみと“我慢”の限界

健康な成人の膀胱は、およそ300cc前後の尿を溜めることができます。

膀胱にたまった尿量と感じる尿意
・約150cc:軽い尿意(無視可能)
・約300cc:強い尿意(限界近く)
・400cc超:痛みや失禁リスクも

一時的にトイレを我慢してもすぐに膀胱炎になるわけではありませんが、頻繁に無理な我慢を繰り返すと、膀胱機能のトラブルや感染リスクが高まります。

我慢してもよい?“膀胱訓練”という考え方

一方で、尿意がないのに何度もトイレに行ってしまう人や、トイレが近い・間に合わないという悩みを抱える人には「膀胱訓練」が有効です。

膀胱訓練のステップ(尿意を我慢する練習):
・最初は5分だけ我慢してみる
・慣れたら10分、15分と少しずつ延ばす
・最終的に2〜3時間間隔があけられればOK

ただし、これは膀胱炎のリスクがない人向けです。膀胱炎の既往がある人や不快な症状が出る人は医師に相談しましょう。

膀胱炎予防のためにできること

膀胱炎を予防するには、日常生活でのちょっとした工夫が大切です。

予防のポイント:
・水分をしっかりとる(1日1.5〜2Lを目安に)
・尿意を感じたら早めに排尿
・性交後は排尿して尿道を洗い流す
・陰部は前から後ろへ(肛門方向へ)拭く
・体を冷やさない
・ストレス・疲労を溜めない

膀胱炎が疑われるときの対処

症状が軽ければ、水分を多めにとって自然排出を促すことで改善する場合もあります。しかし、以下のような症状がある場合は早めの受診をおすすめします。

受診すべきサイン:
・排尿時の強い痛み
・発熱や悪寒
・血尿
・腰や背中の痛み(腎盂腎炎の可能性)

放置すると、感染が腎臓まで広がって重症化することもあります。市販薬での自己判断に頼らず、必ず医療機関での診察を受けましょう。

【まとめ】おしっこの“我慢”はほどほどに

「我慢する=膀胱炎になる」と単純に結びつけるのは正しくありませんが、不要な我慢は膀胱炎のリスクを高める要因になります。

特に女性は解剖学的に膀胱炎にかかりやすい構造をしているため、日頃からトイレを我慢しない習慣や、正しい衛生管理を心がけることが重要です。

逆に、頻繁にトイレへ行き過ぎてしまう場合には、膀胱訓練のようなトレーニングも選択肢の一つ。どちらにしても「自分の体の声をきちんと聞く」ことが、膀胱の健康を守るカギといえるでしょう。

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