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蕁麻疹にH₂ブロッカーが効く?
公開. 更新. 投稿者: 5,248 ビュー. カテゴリ:消化性潰瘍/逆流性食道炎.この記事は約6分41秒で読めます.
目次
「H₂ブロッカーって胃薬じゃないの?」という疑問

蕁麻疹にはH1じゃなくてH2ブロッカーでも効くの?
蕁麻疹(じんましん)というと、抗ヒスタミン薬=H₁ブロッカーが定番の治療薬。
ところが、なかなか症状が治まらない慢性蕁麻疹の患者にH₂ブロッカー(ガスター®など)が追加されることがあります。
「えっ、胃酸を抑える薬が皮膚に効くの?」と驚く方も多いでしょう。
実は、ヒスタミンが作用する受容体にはH₁だけでなくH₂も関与しており、どちらも皮膚の炎症やかゆみに影響します。
H₁受容体とH₂受容体――ヒスタミンの“二枚舌”
ヒスタミン受容体にはいくつかのサブタイプがあり、主に以下のように分類されます。
サブタイプの分布と主な作用
・H₁受容体 (血管・平滑筋・皮膚・気道 ):アレルギー反応、血管透過性亢進、かゆみ
・H₂受容体 (胃壁細胞・血管内皮・免疫細胞) 胃:酸分泌促進、血管拡張、免疫調整
通常、アレルギーや蕁麻疹ではH₁受容体が中心的に働きます。
しかし、皮膚の血管や免疫細胞にもH₂受容体が存在し、ヒスタミンによる血管拡張や浮腫形成に関与しています。
つまり、蕁麻疹におけるヒスタミン反応はH₁とH₂が共同で起こしているのです。
そのため、H₁ブロッカーで十分な効果が得られない場合にH₂ブロッカーを併用すると、より強い抑制が期待できます。
H₂ブロッカーの蕁麻疹への作用機序
H₂ブロッカーを併用する意義は大きく分けて3つあります。
①皮膚血管のH₂受容体遮断
→ ヒスタミンによる血管拡張・腫脹を抑える。
②H₁ブロッカーの代謝抑制効果
→ H₂ブロッカー(特にシメチジン)は肝代謝酵素を阻害し、H₁ブロッカーの血中濃度を上昇させる。
結果として、H₁ブロッカーの効果を間接的に増強します。
③免疫調整作用(細胞性免疫抑制)
→ ヒスタミンは免疫細胞にも作用するため、H₂受容体遮断により炎症反応を全体的に抑える効果があると考えられています。
実際、H₁+H₂併用療法は慢性蕁麻疹や難治性の症例に対して試みられており、報告によっては症状軽減に寄与する例もあります。
蕁麻疹=アレルギーではない
「蕁麻疹=アレルギー」と考える人は多いですが、実際にはアレルギー性は全体の1割程度です。
多くは特発性蕁麻疹(原因不明)または自己免疫性蕁麻疹です。
慢性蕁麻疹患者の30〜50%では、マスト細胞を刺激する自己抗体(IgG抗体)が存在することが知られています。
つまり、自分の体が自分の皮膚を攻撃している状態ともいえます。
アレルギー性蕁麻疹の仕組み
アレルゲン(卵・エビなど)が体内に入る
↓
IgE抗体がマスト細胞と結合
↓
マスト細胞が刺激されて脱顆粒
↓
ヒスタミン放出 → かゆみ・発疹発生
このタイプは即時型反応(数分〜数時間)であり、いわゆる「食べたら出る蕁麻疹」です。
ただし全体のごく一部であり、ほとんどはアレルギー以外の機序で起こっています。
蕁麻疹の特徴と見分け方
病変と特徴
・蕁麻疹:24時間以内に消退、痕を残さず消える、部位が移動する
・湿疹・皮膚炎:数日〜数週間持続、かさつき・落屑・色素沈着あり
蕁麻疹の最大の特徴は移動性と一過性。
同じ場所に長く残る皮疹は、別の皮膚疾患(湿疹や薬疹など)を疑うべきです。
蕁麻疹の治療薬と併用療法
蕁麻疹治療の中心は抗ヒスタミン薬(H₁ブロッカー)ですが、難治例では以下のような併用が検討されます。
・H₂受容体拮抗薬 (ガスター®(ファモチジン)など ):H₁併用で相乗効果。胃薬としても使われる。
・漢方薬 (十味敗毒湯、小青竜湯など ):体質改善・免疫調整を目的に併用される。
・抗ロイコトリエン薬 (プランルカストなど): 気道過敏症や慢性蕁麻疹に有効例あり。
・トラネキサム酸 (トランサミン® ):炎症抑制・抗プラスミン作用。
・グリチルリチン製剤 (SNMC、リコリス製剤): 免疫抑制作用を期待。
・DDS療法・ワクシニアウイルス抽出液注射 :皮膚科領域での難治例に使用。
・ステロイド・免疫抑制薬 プレドニゾロン、シクロスポリン): 重症例で短期的に使用。
蕁麻疹と感染症・抗菌薬の関係
蕁麻疹の原因が細菌感染(虫歯・膀胱炎・扁桃炎など)であることもあります。
ピロリ菌除菌で蕁麻疹が改善した報告もあるため、感染のコントロールが鍵になるケースもあります。
このため、
抗ヒスタミン薬+抗菌薬
抗ヒスタミン薬+ステロイド+抗菌薬
といった処方がされることもあります。
感染が関与している場合、抗菌薬の投与で炎症源が除去され、蕁麻疹が改善します。
逆に、抗菌薬そのものが原因で発疹を起こすこともあるため、慎重な見極めが必要です。
薬疹との違い
「薬を飲んだら蕁麻疹が出た」という訴えは珍しくありません。
しかし、それが薬疹(薬によるアレルギー反応)なのか、偶発的な蕁麻疹なのかは慎重に区別する必要があります。
・蕁麻疹:体調・ストレス・感染などが誘因。24時間以内に消える。
・薬疹:アレルギー性で、同じ薬を再度服用したときに発症する。初回服用では出にくい。
「初めて飲んだ薬で蕁麻疹が出た」という場合、それは薬のせいではなく、たまたまの蕁麻疹である可能性が高いのです。
とはいえ、再投与には注意が必要です。
食べ物が原因?それともストレス?
蕁麻疹というと、まず「何か悪いものを食べた?」と考えがち。
しかし、食物が原因の蕁麻疹はわずか1〜4%程度です。
それよりも多いのは、
・ストレス
・疲労
・睡眠不足
・体温変化(寒冷・温熱・運動)
など、身体的・精神的要因によるもの。
いわゆる「心因性蕁麻疹」も少なくありません。
食物アレルギーとの違い
食物アレルギーと蕁麻疹は混同されがちですが、異なる病態です。
食物アレルギーと蕁麻疹
・原因 :アレルゲン(IgE介在) 多くは非アレルギー性
・症状発現 :摂取後数分〜数時間 突発的・不定期
・症状 :皮疹、咳、呼吸困難、ショックなど かゆみ、発疹、腫れ
・治療 :除去+エピペン・抗ヒスタミン 抗ヒスタミン中心
食物アレルギーは命に関わることもある重篤な免疫反応。
一方、蕁麻疹は多くが一過性で、命に関わることはまれです。
ただし、両者の区別がつきにくい場合もあるため、繰り返す場合はアレルギー検査が必要です。
「蕁麻疹」という言葉の由来
「蕁麻疹(じんましん)」の「蕁麻」は植物のイラクサ(蕁麻)を意味します。
イラクサの葉に触れると、蟻酸(ぎさん)という刺激物質によって皮膚が赤く腫れ、かゆみを伴います。
その症状が蕁麻疹に似ているため、この名がつけられました。
庭や山に自生するイラクサには、白い細かいトゲが多数あり、刺さると「チクチク・かゆい」。
まさに蕁麻疹の語源そのものです。
重症薬疹との区別 ― SJS/TEN
最後に注意したいのが、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)などの重症薬疹。
蕁麻疹とは異なり、発熱・粘膜障害・全身皮疹を伴い、命に関わることもあります。
・発症頻度:100万人あたり1〜6人程度
・原因:医薬品(抗菌薬、NSAIDs、抗てんかん薬など)や感染
・メカニズム:アレルギー反応+免疫過剰反応
同じ「薬で皮疹が出た」でも、SJSは緊急対応が必要な重症疾患。
蕁麻疹とは区別して理解しておくことが重要です。
まとめ:H₂ブロッカーは“補助的ながら理にかなった選択”
蕁麻疹の主役はH₁ブロッカーですが、難治性のケースではH₂ブロッカーの併用が有用なこともあります。
皮膚にはH₂受容体も存在し、ヒスタミン作用を二重にブロックできる点がポイントです。
また、蕁麻疹の原因はアレルギーだけではなく、感染・自己免疫・ストレス・薬剤など多岐にわたります。
「なぜ出たか」よりも、「どう抑えるか・どう予防するか」に焦点を当て、
個々の患者に合った治療を選ぶことが薬剤師の役割といえるでしょう。





1 件のコメント
10年ほど前に日光過敏症による全身のかゆみに、ガスターで寛解しました。
トランサミンも効きましたが。
H1ブロッカーやアレグラなどが全く効果なく、かゆみと体力消耗と憂鬱さで脳が虚脱状態でした。
いい加減な皮膚科医からは、very strong部類のステロイドを全身に塗れ、と言われたり。
当時は保険適用じゃなかったようなのですが、胃炎ということで処方してもらいました。
H2ブロッカーのかゆみに対する効果は、家族が勤務する医薬系研究所の同僚が教えてくれたものでした。